「数学が苦手な人の背中をそっと押してくれる~『博士の愛した数式』~」
『博士の愛した数式』 小川洋子 作 (新潮社)
この読書感想を別ブログに書いたのが2006年ごろ。
当時はヤングアダルト(10代向けの本)やファンタジー本を中心に読んでいました。でも話題の本はやはり抑えておきたいと、この本を手に取ったわけです。
今回珍しく大人の本を読みました。映画化もされるし、以前から気になっていた本ではあったのです。
数学をどのように小説に組み入れるんだろうと。
あらすじはほぼご存じの方もおられるでしょうが、10歳の息子との二人暮しである女性が、仕事としている家政婦紹介所の紹介で一人暮らしの「博士」の家にやってきてお話が展開していきます。
「博士」は脳に重い障害があり記憶が80分しか持ちません。
女性の息子を彼の頭の形から「ルート(√)」と呼び、博士と女性とルート、3人の奇妙で暖かい交流がはじまります。
読んでいるとなるほど、数の概念や数式などが出てきて、数学が大の苦手な私は本来なら敬遠しそうになるけど、お話がすごく読んでいて気持ちがよかったです。
出てくる数式にも親近感というと大げさだが、嫌じゃなくなっていることに気づいたのでした。
この小説の家政婦としてきた女性ももちろん数学なんてちんぷんかんぷん。
だのに、博士のやさしくも一味違った教え方で俄然興味が湧き出しているし、博士の人間の部分と触れ合うことで数のとりことなったのでした…。
この本に出てくる博士。風貌から、私の中学時代の教師を思わず思い浮かべてしまいます。
いつも同じ背広とズボンにチョークの粉がついたままの数学の先生。
また、髪の毛が1ヶ所はねてても全く気にせず、試験管を持って右の第1関節がちょっと曲がった人差し指で指し示しながら、化学反応を説明する理科の先生。
総合的に学習の基礎を教える小学校の先生にはあまり風変わりな人ってお目にかからないけど(たまたま私の身近ではそうだっただけかな?)、1つの分野をきわめているプロフェッショナルな人って、やはりほんの少しどこかおもしろいところがありますね。
それもその分野を無性に愛しているひとであればあるほど、そんな印象が強いですね。
博士は残念ながら事故で脳に支障が起きて不本意だったかもしれませんが、博士の持つ人柄から出てくるいろんなエピソードがおもしろい。
博士の好きなもの・嫌いなものを把握して、朝から博士の家に行き挨拶するところから同じ自己紹介を毎日繰り返すことを苦にもせず働いていく女性が、しだいに数学と博士に親しみを持ち始めます。
私も理数系が苦手で、高校時代は関数・微積分など頑張って理解しようと必死でしたが結局身に付きませんでした。なぜわからないんだろうと今でも悔しい思いです。
ある日理系の長男と話している時、彼も決して数学は得意じゃなかったのですが、考え方について指摘されました。
物理も不得意だった私が
「滑車とか距離と時間と速さの問題とかわからなかったねえ…。なんでこういう風に解くのか」というと、息子が
「だいたい文系の人は理論的に考えようとしてわからなくなるよねえ。こういうのは、こういうもんだと思って解かないとね」と言われてしまいました。
脳の構造がそもそも違うのかなとすでに諦めの境地でしたが、苦手だからこそ気になって仕方ないのです。
わかりやすく説明してくれたら私にだって理解できるんじゃないかな、って。数学が。
最近は数学のことをEテレなどで特集されるとつい見てしまいます。
素数とかフィボナッチ数列とかすごく興味が出て理解しようとしますが、すぐに忘れてしまいます。
てか、むずかしすぎる…。
だめですね。やはり根っから理数は無理だとわかっているのですが、手の届かないものについ手を伸ばしてしまう衝動にかられます。
私も身近に博士のような人物がいてくれたら、少しは違う人生を送れたかな?…なんて、ないものねだりをしてしまうのです。