「中2的青さ・痛みが懐かしい~『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』~」
『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』 黒瀬 陽 著 (早川書房) 2018.9読了
舞台は1996年の広島。アムロやエヴァが青春を席巻していた多感な中2のころ。
クラスのどのグループに入ったらいいか悩んでいた僕。
友達で優等生だけど地味な祐介は、太っていても自分を小室哲哉ばりにTKと名乗る変な奴や、タイ人のクルン、いつも指を鼻に突っ込んで鼻くそをいじっているジョー(サッカーの城彰二にちなんだニックネーム)たちとつるんでいて、一番関わり合いたくなかった。
イケてるグループは見た目派手で憧れていたけど、その内情は彼らの世界の中での付き合いなどが相当大変なものだとわかった。
ある日イケてるグループが属する町のチンピラグループのチーマーに絡まれたりして怖くなり、結局イケてないグループの一員となった。
イケてる女子グループの子と初デートをするも、慣れてないし、どうしていいかわからず結局速攻振られてしまうぼくらは、“夏休みイケとることをする宣言”をし誓い合う。
さっそく祐介が24時間TVで募金をしているところを中継され、クラス中の人気者になった。
TKはみんなの協力の下、頑張ってダイエットして、めっちゃ痩せて意外にもイケメンになってしまった。
しかしどれも結局は付け焼き刃。もろくも崩れ去ることとなるが…。
物語のそこここにタイ人であるクルンの苦悩が現れる。
仲間と同じことをしていても、なぜか担任からひとり睨まれてしまうクルン。
友人たちがいろんなことでもったいないことをしていることに腹を立て、おかしいと主張するがわかってもらえないクルン。
ある日、貧しく父親がいないため母親が苦労しながら育てているクルンに、クラスメイトからあらぬ疑いをかけられてしまうクルン。
彼はついに居場所がなくなり、日本を離れてしまうことに。
自分たちはクルンのことをタイ人と意識して付き合っていたわけじゃなかった。
本当に気のいい仲間として、楽しいこともきついことも、いっしょに青春を謳歌しているつもりだったが、本当のクルンを知ろうとしなかった。彼の内に秘めた部分を見ようともせずに、果たして真の友人と言えたのだろうか?このことは、あの日々のちくっとした痛みとして心に残る。
それでもバカなことをして怒られたり、女子をめちゃくちゃ気にしたり、本当に楽しかった中2のあの頃。
当時の世情がふんだんに散りばめられ、30代後半から上の世代には、懐かしい事柄やモノがとても嬉しい。
完全に会話が広島弁で進行するけど、理解できないわけではない。
それに地元の人や出身者ならきっと喜びそうな、知っている場所やお店などが出てきてありがたいだろうな。
女子にはちょっとわからない、しょーもないことで一喜一憂する男子がめっちゃかわいい。
男性が読むともしかしたら、懐かしすぎて涙するんじゃないかというような郷愁をさそう物語である。
また女性が読むと、ホント、男子ってバカな事かんがえていたんだねぇ、とおもしろく読める。
これは、「あ~…あの頃はよかった。楽しかったなあ…」と回顧する大人のための小説です。