相続税評価は迷路なのか?
問
数か月前に母が亡くなりました。
相続人は私と弟の二人です。
実家は江戸時代から続く旧家で東京都A市にある約300坪の自宅の土地建物、年金の入金があった銀行預金が相続財産です。
税理士事務所に勤務している友人に相談したところ土地については地積規模の大きな宅地の評価を使えば相続税が安くなると聞き、ホームページなどで情報を探しましたが、よくわかりませんし、先の友人に質問しましたが、相続税はあまり詳しくないようで具体的にどうしたらよいのか明確な答えは得られませんでした。私はどこから手をつけたらよいのでしょうか。
答
いきなり、評価の方法について検討しても答えは見つかりません。
まずはご自分が相続した土地が相続開始時点においてどのうような状態にあり、どのうような特徴を持っていたのかを確認する必要があります。
確認した結果、地積規模の大きな宅地の評価が使える宅地の評価が使えることが明らかになれば、路線価よりも評価額が安くなると見込まれます。
反対に同評価が使えないことが明らかになれば、期待されるような評価減は得られないと見込まれますが、ほかの評価減があるかもしれません。
■一般的な答え
冒頭の質問に対する一般的な答えは「下記の『地積規模の大きな宅地の評価』の紹介をし、評価額が路線価よりも安くなると見込まれます。」というもので、実際相談者が相談した職員もそのように回答しています。
■地積規模の大きな宅地の評価
「地積規模の大きな宅地」の評価に関する規定は財産評価基本通達20-2に以下のように定められています(一部、全文は後記)。
財産評価基本通達20-2
地積規模の大きな宅地(三大都市圏においては500以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000以上の地積の宅地をいい、次の(1)から(3)までのいずれかに該当するものを除く。以下本項において「地積規模の大きな宅地」という。)で14-2((地区))の定めにより普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在するものの価額は、15((奥行価格補正))から前項までの定めにより計算した価額に、その宅地の地積の規模に応じ、次の算式により求めた規模格差補正率を乗じて計算した価額によって評価する。(平29課評2-46外追加)
(1) 市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4条((定義))第12項に規定する開発行為を行うことができる区域を除く。)に所在する宅地
(2) 都市計画法第8条((地域地区))第1項第1号に規定する工業専用地域に所在する宅地
(3) 容積率(建築基準法(昭和25年法律第201号)第52条((容積率))第1項に規定する建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。)が10分の40(東京都の特別区(地方自治法(昭和22年法律第67号)第281条((特別区))第1項に規定する特別区をいう。)においては10分の30)以上の地域に所在
る宅地
(算式)
■これで評価ができるのか?
この規定は平成29年税制改正大綱を受けて広大地の代わりとして設けられた有名な規定です。中身は「一定の要件を満たす規模が大きな宅地は評価額を下げますよ」
というもので、耳にしたことがある方もいらっしゃるかと思います。
では、あなたは上記の規定を見てすぐに自分の土地を評価できるでしょうか。
冒頭の問のように「500㎡(1,000㎡)以上あるから普通よりも低い評価をするようだけど具体的には何をいっているのかよくわからない」という方、「(結局)どこから手をつけたらいいのか」という方が多いのではないでしょうか。
■不動産の相続税評価を難しくしている原因
これは財産評価基本通達のほとんどの部分についていえることで、「相続税の評価は難しい」という一般的なイメージを生み出す原因の一つとなっています。
上記の財産評価基本通達の規定では、その言いたいことの骨格は、「地積規模の大きな宅地・・・・の価額は、・・・・規模格差補正率を乗じて計算した価額によって評価する」
です。
そして、その文中などに加える形で「地積規模の大きな宅地」の説明、計算要素(規模格差補正率)の説明がなされています。
しかし、「市街化調整区域?」、「都市計画法?」、「容積率?」、「そもそも500㎡って何をもって500㎡(1,000㎡)以上というのか?」などなど様々な疑問が湧いてきてしかるべきだと思います。
国税庁や各税理士事務所のホームページや市販されている書籍でも土地評価等を解説したものはありますが、いきなり細かい法律の条文を引き合いに出されてもどんどん枝葉末節=迷路にはまり込んでいくばかりです。
その結果、前に進むことができず、結局は「難しくて評価できない」「難しいところは後回しにしょう」ということになってしまうのです。
■不動産の相続税評価の法則
どうして迷路にはまりこんでしまうのでしょうか?
それは「自分が相続した不動産が相続開始時点においてどのような状態にあり、どのような特徴を持っていたのか(前提事実)」を明らかにしていないからです(※1)。
目の前の相手がどんなクセがあるかわからないのに戦いを挑んでもはじき返されるだけですが、反対にクセを知れば枝葉末節にはまりこむことはありません。
また不動産の持つクセは千差万別ですが、そのクセを知るには一定の法則(手順)があります。
その法則を一般的な相続税評価に関する誤解と対比して作業フローとして図解すると下図のとおりです。
①準備、②現場確認、③役所調査、④資料の収集及び整理を通じて「評価対象がどのようなものか」(クセ)を明らかにし、その後通達をあてはめるのです。
そうすれば、評価減のとれる通達の「ひろい漏れ」は格段に低くなります。通達から前提事実をあてはめるのではありません。
次回以降この作業フローなどについて詳しく解説していきたいと思います。
■まとめ
いきなり財産評価基本通達を見ても相続した財産が相続開始時点においてどのような状態にあり、どのような特徴をもっていたのか(前提事実)がわからなければ相続財産の評価はできませんし、評価減のとれる通達の「ひろい漏れ」は減りません。
前提事実が異なれば使う評価方法も変わってきます。
※参考
※1:実はこれは税務一般について言えることです。こういう前提事実があるからこの税法をあてはめるとなるわけで、前提事実がはっきりしていないのに税法をあてはめようとしても全く結論が出ないのと同じことです。
※2:④資料の収集及び整理は①準備、②現場確認、③役所調査の各段階で平行して行います。
※財産評価基本通達20-2全文
20-2 地積規模の大きな宅地(三大都市圏においては500以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000以上の地積の宅地をいい、次の(1)から(3)までのいずれかに該当するものを除く。以下本項において「地積規模の大きな宅地」という。)で14-2((地区))の定めにより普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在するものの価額は、15((奥行価格補正))から前項までの定めにより計算した価額に、その宅地の地積の規模に応じ、次の算式により求めた規模格差補正率を乗じて計算した価額によって評価する。(平29課評2-46外追加)
(1) 市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4条((定義))第12項に規定する開発行為を行うことができる区域を除く。)に所在する宅地
(2) 都市計画法第8条((地域地区))第1項第1号に規定する工業専用地域に所在する宅地
(3) 容積率(建築基準法(昭和25年法律第201号)第52条((容積率))第1項に規定する建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。)が10分の40(東京都の特別区(地方自治法(昭和22年法律第67号)第281条((特別区)) 第1項に規定する特別区を言う。)においては10分の30)以上の地域に所在する宅地
(算式)
上の算式中の「B」及び「C」は、地積規模の大きな宅地が所在する地域に応じ、それぞれ次に掲げる表のとおりとする。
(注)
1 上記算式により計算した規模格差補正率は、小数点以下第2位未満を切り捨てる。
2 「三大都市圏」とは、次の地域をいう。
イ 首都圏整備法(昭和31年法律第83号)第2条((定義))第3項に規定する既成市街地又は同条第4項に規定する近郊整備地帯
ロ 近畿圏整備法(昭和38年法律第129号)第2条((定義))第3項に規定する既成都市区域又は同条第4項に規定する近郊整備区域
ハ 中部圏開発整備法(昭和41年法律第102号)第2条((定義))第3項に規定する都市整備区域
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