巡る世界、繋がる世界
Jun.2025
気がつけば 2024年が終わり、あたらしい一年が始まっていた。こんなに早く一年が過ぎたのは、ひさしぶりの感覚だった。ひどくゆっくりと流れていた島での日々、明日のこともわからず生きた白紙の日々、そして巡礼の旅からはじまった一年が終わり、また冬がやってきた。
今年の誕生日を迎える日に、移住生活は三年になる。
三年は、わたしが東京で社会人として暮らしていた時間と同じ長さだ。あの頃のことを思うと、同じ年月でも密度や濃度がまるで違うのだと、ずいぶん遠くから振り返ったときに思う。けれどあの三年間がなかったならば、わたしは今ここにはいない。
世界が変わったのか、自分が変わったのか。答えはその両方でもあり、どちらでもない。自分自身を受容することができたあの日に、世界を観測する目が変わった。
無精なわたしは、もう何年も初日の出を見ていないが、旅のなかで出会ったおじいさんが写真を送ってくれた。奈良の旅の途中で見たという、美しい風景だった。
おじいさんとは、ゲストハウスで知り合った。偶然自分の好きなアートの話題を溢したら、彼は日本中の美術館を旅するほどの美術ファンであった。おじいさんが出す芸術家や作品の名前を、わたしが知っていると答えるととても驚いて、また本当に喜んでくれた。
直島に住んでいたときのこと、美術館で観た絵の印象や解釈などを話すと目を輝かせて聞いてくれ、自身も好きなアーティストやこれまで観てきた場所の話をたくさんしてくれた。穏やかで楽しい時間はあっという間で、気がつけば夜中の3時になっていた。
わたしもアートが大好きで、その記憶を忘れたくなくて Twitter をはじめたことを思い出す。それはちょうど、社会人になってからの三年間に重なるだろうか。友人と予定を合わせることが難しくなり、溢れる思いを綴る場所がほしくて書き始めたものだった。
東京を離れるとき、それは note という場所に変わっていった。けれどあのときに綴っていた日記のようなそれを見て、顔も知らない方から「まるで短編小説を読んだようです」という言葉をもらったことが、いまも文章を書いていることに繋がっているのかもしれない。
おじいさんは旅をするたび、素敵な写真や感想を送ってくれた。しかし何かわたし一人が見ているのは勿体ないような気もしてきて、「 note や Instagram を始めてみてはいかがですか?」と勧めてみた。いつか忘れてしまうことを記録すること、それを発信することは、意味のあることのように思えた。
それから暫くして、「不慣れですが、ようやくインスタをはじめてみました」というメッセージが来たとき、なんだかとても嬉しかったことを覚えている。
自分でも不思議だったけれど、ずっと疎遠になっていた SNS を始めることになったのも、2024年からだった。四国遍路を歩きはじめたときに Instagram を、本を書きはじめたときに(いつの間にか名前が変わっていた)X をはじめた。
Instagram を 勧めてくれたのはマスターだった。
「四国遍路のことは、かならず発信するべきだ」と強く背中を押してくれた。そうすれば応援してくれる人が現れて、あなたの後に四国遍路を歩く人たちのためにもなるからと。
はじめは少し抵抗があった投稿も、日に日に発信に慣れていき、気がつけばたくさんの人たちが応援してくれるようになっていた。歩いているのは自分一人なのに、まるで自分のことのように喜んだり応援したりしてくれる人がいることに、どれだけ勇気をもらっただろう。
「発信すること」で広がる世界があることを教えてくれたのは、Xも同じだった。以前は趣味の範疇で使っていたメディアだった(そしてそれは素晴らしい)けれど、自分の作品や言葉を届けるのに、これほど大きな力を持っているとは、想像もしていなかった。
自身の本を手にとってくれる人がいて、それを伝えてくれる人に出会えること。本を書くことは、それを読んでくれる人とのコミュニケーションであることを知ったのも、自身が本を作ってはじめて体感できたことだった。
生身の自分では、出会える人の数は限られている。
けれど形のない言葉であれば、どこまでも遠くに届けることができるのかもしれない。
もう使うことはないと思っていたソーシャルメディアともう一度出会い直したことで、出会うはずのなかった人、そして世界と繋がっていくことができた。
四国巡礼からはじまった 2024年は、自分という身体を通して、たくさんの人と出会った一年にほかならない。
旅をすること、そして本を書くこと。身体的な「旅」、そして文章を書く「創造」という行為を通して、自身の知らない世界と出会い、そして出会えた人がいること。
世界と繋がる方法は一つではない。無限に広がっているその扉を、自分自身で見つけて、一つずつ開けていく。
自分が望むなら、きっとどんな世界とも繋がることができる。それを忘れることなく、恐れることなく、これからの日々を生きていきたい。
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《 2025年 ZINE イベント 》
・ 2月9日(日) 文学フリマ広島 7
・ 2月16日(日) ZINE MART 丸亀
・ 3月2日(日) おかやまZINEスタジアム
・ 5月10日(土) ZINEフェス神戸
◇ サークル名『海と石』│ 藤石 アンナ
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