「虎に翼」の総力戦研究所の話
今日、8月2日の「虎に翼」、突然「総力戦研究所」の話が出てきてちょっとびっくり。
「なるほど青年」の「秘密」ってこれだったのね。
うーん。ちょっと無理矢理の感じもしないではないけど、まあ、ドラマだから仕方ないか。
ご存じない方もおられるかもしれないけど、これは昭和15年に若手エリート官僚を集めて、日米戦のシミュレーションをさせたもの。それで、ドラマにあったように、「敗戦必至」の報告書を16年の8月に挙げたが、結局東条英機が却下した。
これについては、猪瀬直樹の「昭和16年夏の敗戦」に詳しい。
すみません。前言撤回します。
総力戦研究所についていろいろ調べてみたら、「なるほど青年」のモデルの三淵乾太郎氏は、実際に総力戦研究所の1期生で、模擬内閣の司法大臣を担当していました。
【追記(長いので、お暇な方はどうぞ)】
知人から、「なるほど青年」の告白について、「エリートの甘ったれた感傷にしか聞こえなかった」「何もできなかったのなら、言い訳せずに、黙って墓場まで持って行くべきだ」というご意見をいただいたので、それについての私見です。
まず、事実として押さえておきたいのは、この人のモデルの方が総力戦研究所のメンバーであったことは事実ですが、ドラマの「ごめんなさい」のエピソードは、作者の完全な創作だと思いますよ。
作者の意図としては、そういう「必敗」の報告がありながら、当時の政府は無視して日米開戦をし、その犠牲として多くの悲劇が起こったのだ、という不条理を訴えたかったのだと思います。そして、そういう「国家や政治による不条理」は、戦争だけでなく常にあり、おそらく現在もある、と。この「総力戦研究所」の事実は、そんなには知られてませんからね。
だから、彼に「ごめんなさい」を言わせたのは、本当は「国家や政治権力」に言ってほしい言葉なんだけど、未だに誰も「ごめんなさい」すら言ってないから、せめてその末端としての彼に言わせたかったのだと思います。もちろん「ごめんなさい」で済むことじゃないけど、せめて心の中でくらい「責任」を負う人がいてもいいんじゃないか?とね。
だから、彼の「ごめんなさい」は、単に一個人の発言ではなく、「戦争責任」の話なのです。
あと、「墓まで持って行くべき」の件ですが、実際のモデルの方は墓まで持って行かれました。ドラマの彼もそのつもりだから「秘密です」と言ってたわけで。
でも、ほんとに言わなければ、ドラマになりませんやん? だから「言うつもりじゃなかったけど‥‥」という形で言わせてるんですよね? それを非難されてもねぇ‥‥。
それでは、「なるほど青年」のモデルの三淵氏はどうすればよかったのでしょうか?
彼に限らず、総力戦研究所のメンバーだったエリート官僚諸氏は、東条英機に報告書を却下され、憤り、また無力感を感じたと思います。
では、命を賭してでも抗議すべきだったのか?
おそらく、直接東条に抗議などできる機会はなかっただろうし、直属の上司に訴えたりしても黙殺されたでしょう。そればかりか、おそらく軍部が彼を徴兵して激戦地に送り込まれ、名誉の戦死という形で消されることは、賢いエリートさんなら当然わかっていたはずです。
「自分の命が惜しいから、日本が滅びることを黙認したのか!」と言うのは簡単ですが、当然死ぬのは恐いです。それでも、自分の死と引き替えに多少なりとも公益が得られるのなら、ひょっとしたら決死の覚悟で闘う余地もあったかもしれませんが、全くそれが期待できない状況では、それは自己満足のヒロイックな蛮勇にすぎず、完全な無駄死にです。
実際、この「死の恐怖」が歴史を動かしたのも事実です。
昭和初期までは、日本においてもデモクラシーが機能し、相当程度に言論の自由、思想の自由が存在しました。
ところが原敬の暗殺に始まり、血盟団事件、五・一五事件、相沢事件、二・二六事件と暗殺、テロルが横行する時代の中で、言論は急速に萎縮して行きました。太平洋戦争の首謀者とされる東条英機でさえ「『東条は弱腰だ』という世論が強いから、俺は殺されるかもしれない」と言っていたという証言も残っています。
さらには、大元帥陛下、昭和天皇さえ、一部陸軍青年将校によってタカ派の秩父宮にすげ替えようとする動きがあったそうです。(暗殺は意図してなかったかもしれませんが)
こうなると、いったい誰が主役で、誰の意志によって国家が動いているのかさえよくわかりませんね。
話を戻して、エリート官僚に何ができたか?できるか?ですが、最近の兵庫県政のスキャンダルを見ても、非常に暗澹たるものがあります。たかだか兵庫県政の不正さえ、正すことはかくも困難なのです。
となれば、せめて「何もできなくてごめんなさい」という良心の呵責を感じる程度のことでも、それなり以上に評価すべきではないか?と思うんですよね。
とても悲しく残念ですが。
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