91. ポリファーマシーってなんだ?
ミュージカル好き救急医の独白 vol.91
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -
はじめに
ドラマ『アンサング・シンデレラ』観ていますか?今週放送された第4話では, ポリファーマシー(Polypharmacy)という言葉が出てきましたね. 直訳すれば, Poly(多くの)+Pharmachy(薬)で, 服用する薬が多いことによって, その飲み合わせや副作用などの有害事象が生じることを意味します.
多くの薬を飲まざるを得ないこともありますが, 実はその薬のせいでみなさんが苦しんでしまうこともあるのです. 今までにも数回薬に関しては取り上げてきましたが, 今日もその辺りのお話を.
今回のミュージカル
ラブ・ネバー・ダイ
みなさん, ミュージカルを観ていて, 「え?まさか?」と思ったことはあるでしょうか. 20世紀FOXの人気シリーズドラマ『24』は, 毎回この連続で私も大ファンですがもちろんみなさん観ましたよね?今年の秋からテレビ朝日開局60周年記念として『24 JAPAN』と題して日本版リメイクが放送されます. ”日本初のリアルタイムサスペンス”楽しみですね.
ミュージカルでは, やっぱりラブネバではないでしょうか. ファントムとクリスティーヌが?!ラウルどうしちゃったの?!みなさん色々とビックリするはずです. オペラ座の怪人ファンの私としてもストーリーを知ったときには驚いたものです. ラブネバもオペラ座の怪人と同様, 音楽が素晴らしく, 市村正親さんはどちらの作品でもファントムを演じています. スゴいですよねぇ〜.
救急外来あるある
84歳女性(BKさん)が, 娘さんに連れられて外来を受診しました. 物忘れが最近ヒドく, 帰省した娘さんが心配し慌てて病院に連れてきたようでした.
Dr.S:「今日はどうされましたか?」
Pt.BK:「どうってことはないと思うのですけどね…」
BKさんの娘:「何言ってるの. なんだか急に物忘れが進んでしまって, 認知症でしょうか. 」
Dr.S:「具体的にどのような症状があるのですか?」
BKさんの娘:「先月までは身の回りのことは普通にやって, 百姓なんですけどね, 結構元気にしていたんですよ. それが今日来てみたら, 家も掃除できてないし, ぼーっとしちゃってて.」
Dr.S:「なるほど. BKさん, その自覚はありますか?」
Pt.BK:「(首をかしげて)ん?まぁもう年だからね.」
BKさんの娘:「認知症でしょうか?」
Dr.S:「いくつか確認させて下さい. 最近転んだり, 新たに薬を飲んだりしていますか?」
Pt.BK:「躓くことはあるけどね. 転ばないよ. 薬は近くの医者から血圧とかの出してもらってるね.」
Dr.S:「薬手帳はありますか?」
Pt.BK:「これね.」
Dr.S:「色々飲まれていますね. 血圧, 糖尿病, 骨粗鬆症に対する薬と, あとは下剤と眠剤と痛み止めですね. 」
BKさんの娘:「そんなに飲んでるのね…」
ポリファーマシーとは
明確な錠数の定義はありませんが, 多種類の薬を定期的に飲み, それに関連してなんらかの症状を認めることをポリファーマーシーと呼びます.
本邦では, 高齢者の2人に1人は5種類以上の薬を内服しており, 年齢と共にその数は増えます. 救急外来など初診の患者さんでは, まずは如何なる症状でも, 飲んでいる薬による影響の可能性も考える必要があり, 内服薬の把握は必須です.
救急外来受診の原因となる薬剤は, ①抗血栓薬(サラサラ薬), ②抗菌薬(抗生物質), ③糖尿病治療薬(血糖値を下げる薬, インスリン), ④オピオイド(痛み止めとして使用される麻薬), ⑤眠剤(睡眠薬)が主なものであり, 転倒や意識障害, アナフィラキシーなどは決して稀ではありません.
処方カスケードとは
簡単に言うと, 薬(A薬)によって生じた症状を, 薬(A薬)によるものと判断せずに, 薬(B薬)がさらに追加となることです.
代表的なものとして, A薬として降圧薬の一つであるカルシウム拮抗薬, B薬として利尿薬があります. カルシウム拮抗薬(アダラート®, アムロジン®, コニール®など)によって足が浮腫むことがあるのですが, それが薬によるものと判断されず(気付かず), 浮腫を引くための薬の代表である利尿薬(ラシックス®, ルプラック®など)が追加となってしまうのです. 本来であれば, カルシウム拮抗薬を別の降圧薬へ変更すればよいのですが, そこに薬が新たに加わり, さらに利尿薬を使用すると, カリウムが低下することがあり, C薬としてカリウム製剤が始まってしまう…, こんなことが時に起こり得るのです.
処方する医師が注意することがもちろん大切ですが, みなさんの症状がもしかしたら, 良かれと思って飲んでいる薬の影響かもしれない, と考える癖を持つとよいと思います. 外来をやっていると, 以前は必要であっても, 今の状態であれば不要な薬と判断し, 中止を提案するのですが, それを拒む方もいらっしゃいます. 一生涯飲み続ける必要がある薬もありますが, 多くの薬は減量や中止が可能なことが多く, また必要な薬はその都度変わります. さらに, 薬同士の相互作用は計り知れないことも多いものです.
”くすりもりすく”, 上から読んでも下から読んでも, “くすりもりすく”です. 薬が増えてきたなと思ったら, 止められる薬はないか, 減量できる薬はないかも主治医へ相談してみてください.
BKさんは, 眠剤として処方されていた薬による影響が考えられ, 徐々に減量し, 現在では普段通り百姓の仕事を自立して行っています.