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わした島うちなあ#6(最終回)

 ホテルに戻り、別れ際にナカシマーが言った。
「なあ、自分のさ、アイデンティティーがさ……、自分の拠り所になる部分が、やー(きみ)の場合は書くことだろうけど……、そこの部分がしっかりしてたらさ、後は人に迷惑かけるとか犯罪を犯すとかなかったら、やーは何やっててもいいと思うよ。そこさえしっかりしてたらやーはやーさ。わー(私)はそう思うばーよ」

 トウキョウに住んで十年の間に起こったさまざまな出来事──それは正しいことであったり間違っていたことであったり、善いことであったり悪いことであったり──それら僕のなかで澱んでいたものが、波の音とともに少しだけ洗われ、少しだけ澄んだ気がした。
 残波に寄せる波は、今まで僕が何をしていようと変わらずにいたのだし、これから僕がどうなろうと変わりはしない。こうしている今も、僕とはまるで関係なく岬に打ち寄せているだろう。
 それは僕にとってとても重要なことであり、また安心できることのように思えた。何者かに許され、受け容れられた気がした。
「じゃあな、またな」
「またいつかな」
 ナカシマーとはまたいつか、何かの時に再会するだろう。それが来年なのか、十年後なのか、もっと遠い先のことなのか、わからない。もしかすると、どちらかが死を迎えたときなのかもしれない。ただ、「またいつか」会うことは約束した。
 僕にとって「おきなわ」は、かつての想い出ではなく、常に現在進行形であり、「またいつか」の約束の地、未来であり得る。

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