「帰りたい!」利用者様の帰宅願望への対応を考える
デイサービスで生活相談員をしている、社会福祉士の 田中こころです。
デイサービスでは、認知症の利用者様が「家に帰りたい」と訴えることがよくあります。
この言葉をどう受け止め、どのように対応すればよいのでしょうか?
私自身、対応を誤り、事態を混乱させてしまった苦い経験があります。
この記事では、私の失敗談を交えながら、利用者様の帰宅願望への適切な対応方法について考えていきます。
私の失敗談「説得は逆効果」
ある日の午後、認知症の利用者様Aさん(女性)が不安そうに訴えました。
「もう帰らないと!主人が帰ってくる時間だから」
私は、「まだ帰ってきませんよ。おやつの時間ですから、お席へ行きましょう」と声をかけました。
しかし、Aさんは 「いらない!帰らなきゃ!」 と大声を上げ、興奮状態に。
さらに、玄関へ向かって走り出し、引き止める職員に手を振り上げるほどのパニックになってしまいました。
困り果てた私を見て、ベテラン職員がそっとAさんの肩に手を置き、こう伝えました。
「ご主人、今日は部長さんと一杯飲んで帰るそうですよ」
すると、Aさんは 「そうなの…?」 とつぶやき、落ち着きを取り戻しました。
この出来事を通じて私は自分の未熟さを痛感し、説得ではなく、安心感を与えることが大切なのだと学びました。
「帰りたい」は不安のサイン
認知症の利用者様にとって、「ここがどこなのか分からない」「なぜ自分がここにいるのか分からない」といった混乱は日常的に起こります。
もし、ある日突然知らない場所にワープ してしまったら、あなたはどう感じるでしょうか?
いったいここはどこなのか?
なぜここにいるのか?
いつ帰れるのか?
家族は無事なのか?
このような状況では、強い不安や恐怖を感じるのは当然です。
「帰りたい」という訴えはワガママではなく、「安心できる場所に戻りたい」という本能的な不安の表れなのです。
帰宅願望へのNG対応「不安を増幅させてしまう職員の原動」
認知症の方の「帰りたい」に対して、 間違った対応をすると、BPSD(認知症の行動・心理症状)が悪化することがあります。
❌ 避けるべき対応
適切な対応「気持ちを受け止め、安心できる環境をつくること」
では、 どのように対応すれば「帰りたい」気持ちが落ち着くのか?
大切なのは、 利用者様の気持ちを受け止め、「安心できる環境」を作ること です。
① 帰宅願望の背景を理解する
利用者様が帰宅を望む理由はさまざまです。まず、その背景を知ることが重要です。
環境の変化による不安
→ 「見慣れない場所で落ち着かない」
家族への想い
→ 「家族が待っている」「子どもが心配」などの気持ちがある
過去の習慣
→ 「仕事に行かなければ」「そろそろ夕飯の支度をしなければ」と思っている
体調や疲労の影響
→ 「体調が悪い、活動に疲れた」と感じている
② 共感し、安心感を与える
「帰りたい」という気持ちを否定せず、利用者様の気持ちを受け止めることで、不安を和らげます。
✅ 「そうですね、お家が一番落ち着きますよね」
✅ 「主婦の方は、食事の支度がありますものね」
✅ 「お仕事のことが気になりますよね」
③ 気をそらし、リラックスできる環境を作る
別の話題に切り替えることで、帰宅願望を和らげます。
特に、おやつの時間や散歩を活用すると、気分転換になりやすいです。
✅ 好きな話題を振る
→ 「○○さんのお孫さんはどんな方ですか?」
✅ 日常のルーティンを活用
→ 「おやつを一緒に召し上がりませんか?」
✅ 身体を動かす
→ 「少しお散歩に行きましょう」
④ 安心できる情報を伝える
「帰れる」という感覚を持ってもらうことが重要です。認知症の進行によって時間を理解しにくい場合は、表現を工夫しましょう。
✅ 「16時発のバスでご帰宅の予定ですよ」
✅ 「夕方までここでゆっくりして、夜はまたご自宅で過ごせますよ」
⑤ 環境を整える
利用者様が安心できる雰囲気を作ることも大切です。
✅ 家でリラックスしているような雰囲気を作る(好きな音楽、新聞、ソファ、静かな部屋など)
✅ 安心できる「なじみのある環境」を用意する
⑥ 家族と連携する
✅ お手紙を書いてもらう
✅ 電話でご家族と話してもらう
✅ ご家族と連携し、安心できる言葉がけを統一する
⑦ 具体的な対応方法を共有する
✅ 気をそらす話題、好きな活動への誘導方法を統一する
✅ 利用者様ごとの対応パターンを職員間で共有し、対応力を高める
✅事例をもとに、「こういう時はどう対応するのが適切か?」を話し合う
まとめ
認知症の利用者様が「帰りたい」と訴える背景には、不安や混乱があります。
説得するのではなく、安心できる雰囲気を作り、受け止めることで、不安を和らげることが大切です。
もし対応に悩んだら、一人で抱え込まずに、職員同士で相談しながら進めていきましょう。
一緒に学びながら、利用者様にとって安心できる環境を築いていきましょう。