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【ネタバレあり】能・歌舞伎・文楽の「小鍛冶」についてまとめてみた

古典芸能ってどんなイメージですか?「イヨォ~!(ポン!)」でしょうか?
私はまさにそんなイメージを持っていました。
しかし、能楽堂と歌舞伎座と文楽劇場に足を運んで分かったんですが、その全てが全て「イヨォ~!(ポン!)」ではないのですね。勉強になりました。とても。

私、soubiはミュージカル「刀剣乱舞」の演出考察がきっかけとなり、趣味で「小鍛冶」と「小狐丸」について調べています。

(↑※1月頭に完成した考察記事です。3万字程あるのでお時間がある時にどうぞ)

上記の記事を改稿し、さらに「小鍛冶の歴史」「摂家の宝刀・小狐丸の伝承」についての調査結果を加え、今冬に考察本を自費出版する予定です。
本稿は、その本の「小鍛冶の歴史」に載せるものの一部です。考察の前段階にあたる状態ですが、記憶が新鮮なうちに記録として一度まとめることにしました。

おことわり

①筆者は芸能の専門家ではありません。
本稿を書くにあたり、複数の資料を参考にしていますが、最新の学説に基づいていなかったり、筆者が読み違えている可能性もあります。
しかし、正確な検証をしたいと常々思っていますので、ミスに対してのご指摘は大歓迎です…!

②伝統芸能には様々な流派が存在します。今回は私が見た公演をメインに検証していますが、各芸能の演出には様々な形があるということをご留意ください。

③下記公演・配信映像をベースに書いています。
文章の性質上、ネタバレが大いに含まれますのでお気をつけください。

・能「小鍛冶 白式」観世流/観世九皐会12月定例会(2020年12月)
・能「小鍛冶 白頭」金剛流/能を知る会 横浜公演(2021年3月)
・歌舞伎「小鍛冶」/歌舞伎座「四月大歌舞伎」(2021年4月)
・文楽「小鍛冶」/令和3年4月文楽公演(2021年4月)
能「小鍛冶」金剛流/純之会 -秋季大会-(配信映像)
能楽への誘い「小鍛冶 白頭」 / An Invitation to Kongo School Noh: "Kokaji Hakuto"(配信映像)

1.「小鍛冶」の物語についてのおさらい

まずはすべての原案である能の詞章をベースに「小鍛冶」の物語を一度整理してみます。

時は平安、一条天皇の治世の頃。
夢の中で「宗近に剣を打たせよ」という不思議なお告げを聞いた一条帝は、刀鍛冶の名人である三条小鍛冶宗近の元へ橘道成を勅使として送り出します。

【前半】
宗近の家を訪れた道成が、ことのあらましを語る所から物語は始まります。
宗近は勅命を拝聴したものの、困ってしまいました。剣は一人では作ることができません。彼の相槌を務められるほど腕の立つ者がいないのです。
宗近は辞退しようとしましたが、道成も引き下がるわけにはいきません。
道成の説得により、宗近は帝に捧げる剣の製作を引き受けるのでした。

困りに困った宗近は、神仏に縋るよりほかないと氏神である稲荷明神を詣でます。すると、そこに童子が現れました。
童子は、古代中国から伝わる剣の伝説や、日本神話における「草薙剣」の威光を語り、それらに勝るとも劣らない素晴らしい剣を打てるはずだと宗近を励まします。

宗近は思いました。この童子は只者ではない、と。
誰に話したわけでもない帝の勅命のことをなぜ彼は知っているのだろう?
思わずその正体を訊ねましたが、童子はそれには答えず、剣を打つ用意をして待てと告げるとどこへともなく消えてしまいました。

【後半】
準備を整えた宗近が鍛冶場で祝詞を唱えると、なんと彼の氏神である稲荷明神が現れました。先ほどの童子は稲荷明神の化身だったのです。
稲荷明神は宗近に跪きます。今この時ばかりは宗近の弟子となり、彼の相槌を務めようというのです。
火事場に宗近の主槌と稲荷明神の相槌の音が鳴り響き、そして一振りの剣が完成します。
「小狐丸」―――表に「宗近」、裏に「小狐」と二つの銘が刻まれた美しい剣です。
稲荷明神は小狐丸を勅使の道成へ渡すと、雲に乗って京の東山にある自らの社へと帰っていくのでした。

…歌舞伎も文楽も、基本的にはこの物語を踏襲しているのですが、大小さまざまな改変を加えており、それが「歌舞伎の小鍛冶のおもしろさ」「文楽の小鍛冶のおもしろさ」に繋がっているように感じました。

2.能/歌舞伎/文楽の小鍛冶について整理する

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…というわけで。
調査をしてみて現段階で分かったことを表にしてみました。
文章がだらだらと冗長になってしまうのは私の悪い癖なので、今回は見やすさ優先で表にしました。
能「小鍛冶」「小鍛冶 白頭」は金剛流、
能「小鍛冶 白式」は観世流の公演について書いています。

歌舞伎や文楽と結びつきが強い「長唄」というジャンルもありますが、これにも「小鍛冶」があります。記録に残っているうちではこちらの4曲。

①「御名残雄花留袖」内の1曲。神霊一人の踊
1813年9月、中村座にて初演

②「小鍛冶」
1832年9月、江戸市村座にて初演

③「新小鍛冶」
(別名「優曲三人小鍛冶」「根岸の小鍛冶」)
1864年2月、江戸守田座にて初演

④「誘謂色相槌(うちつれていろのあいづち)」
(別名「小団次の小鍛冶」「今様小鍛冶」)
1852年8月、中村座にて初演

歌舞伎には「小鍛冶」の影響を大きく受けた作品も複数存在するようです。「神使嫁入小鍛冶」という演目の、東京大学文学部国語研究室に所蔵されている台帳では

朝廷は、年月日刻四柱全て丑で五月五日生まれの男子の生肝を刀の地金に合体させ、小狐丸の形代を作成することにした。
(安冨順「「神使嫁入小鍛冶」覚書き」より)

…という下りが存在するそうです。
どうしてそんな黒魔術とか錬金術みたいな方法で小狐丸を作刀することになったのか、人間の生肝を核にした小狐丸は結局生まれたのかどうかは、目下調査中です。また分かったらまとめます。

3.歌舞伎「小鍛冶」/文楽「小鍛冶」の情報あれこれ

さてさて。
ただいま(2021年4月)絶賛上演中の歌舞伎「小鍛冶」と文楽「小鍛冶」。
歌舞伎の方は24年ぶりの復活ということでも話題ですが、上演するのが容易でないとのこと。能では比較的ポピュラーな演目ですが、歌舞伎ではレアなのですね…!

文楽の小鍛冶は配信が決まったので、現地まで足を運ぶのが難しいファンもありがたい限りですが、願わくば歌舞伎の方も配信があると嬉しいですね。

歌舞伎も文楽も現地でイヤホンガイドを借りることができます(※もし、あなたが現地に行かれる予定ならぜひ借りた方がいいです。おすすめです)。

なんと両方の解説者によるクロストークをWEBで聞くことができます。
能、歌舞伎、文楽のそれぞれの違いや「刀剣乱舞」についても触れています。おすすめです。

…というところで本エントリはおしまいですが、今回の調査で刀ミュと小鍛冶がまたひとつ接続しました。

ミュージカル「刀剣乱舞」には
「あどうつ聲」「向かう槌音」という曲があります。
いずれも「小鍛冶」を元ネタとしており、三条小鍛冶宗近の作である刀剣男士「小狐丸」と「三日月宗近」が歌い踊るというナンバーです。
(※つまり、小狐丸が、自分が生まれた時の物語を唄うのです…!)

打ち重ねたる鎚の音 天地に響きておびただし

…という歌詞があるのですが、これは木村富子氏作詞の「小鍛冶」の影響を受けている可能性があるんじゃないかと私は思いました。
もちろん能の観世流「小鍛冶」の詞章も無視はできません。
ただし、あちらは
「夥し「や」
…なのですよ。おびただし「や」。
「や」はどこに行った?ってずっと疑問に思っていたのが、歌舞伎と文楽を知ったお陰で氷解しそうです。

…こんな感じで、よりミクロな分析もしていきたいと思っています。また良い感じにまとまったらnoteにアップします。

4.今回の参考文献・資料など

・浅川玉兎「日本舞踊名曲事典」1959年,p129-130
・文楽協会編「文楽(文楽協会六月公演解説書)朝日座 : 道頓堀」1970年,p16-17
・文楽協会編「納涼文楽 (解説書)」,「新曲小鍛冶<かいせつ>」1972年,p.5
・文楽協会編「文楽(文楽協会四月公演解説書) 朝日座 : 道頓堀」1981年,p8
・「歌舞伎 : 研究と批評 24号」所収,安冨順「<研究>『神使嫁入小鍛冶』覚書き」,1988年,p.77
・「文楽 7号」所収,吉田文雀「小鍛冶・稲荷明神の人形について」1989年,p.78-79
・竹本幹夫 「小鍛冶 (対訳でたのしむ)」2006年
・「東風西声 2010 第6号」所収, 渡部史之「藤原師輔の野剣「小狐」と摂関家」2010年,p.11
・「日本舞踊 837号」所収,勝美延三「曲のこころ第155回:長唄 新小鍛冶」2018年,p.11
・国立文楽劇場営業課編「令和三年四月 国立文楽劇場 文楽(解説書)」2021年,p19
・国立文楽劇場営業課編「令和三年四月 国立文楽劇場 文楽(床本集)」2021年,p47-49
・「令和三年四月 国立文楽劇場 文楽」イヤホンガイド(解説:中尾薫),2021年
・松竹演劇ライツ部 筋書編集室「四月大歌舞伎 筋書」,「猿翁十種の内 小鍛冶」解説と見どころ,2021年,p5-7

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■今後の予定

現在作業中のもののうち、noteで公開する予定の文章は下記の通り。

▼刀ミュ関係
・「歌合 乱舞狂乱'19」考:にっかり青江の終わらない物語と「菊花輪舞」
・「東京心覚」とは何の物語だったか?
・歌う三日月宗近についての考察 2016→2021 -共感覚の見地から-
・「歌合 乱舞狂乱'19」考:「彼」と「彼」が顕現しなければならなかった理由+刀ミュの三日月宗近の宿願について
・「ミュージカル刀剣乱舞」×テキストマイニング
▼それ以外
・刀ステ天伝:太閤左文字の役割についての考察/加州清光の演技について
・「活撃 刀剣乱舞」×テキストマイニング 後編
・刀工 備前長船長義および兼光の評価について
・花丸、活撃、刀ミュ、刀ステの「鶴丸国永」×テキストマイニング(※2021年秋予定)
・「鬼」と「鬼を斬った刀」と髭切について
・長義の刀ととある裁判について
▼梅津瑞樹さん関係
・舞台 紅葉鬼(能「紅葉狩」刀剣「髭切」「山姥切国広」を絡めた)感想
・SOLO Performance ENGEKI 「HAPPY END」感想
・ミュージカル『薄桜鬼 真改』相馬主計 篇 感想

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普段はTwitter(@soubi422)にいます。
刀剣乱舞の山姥切長義と小狐丸に目がない只のモブです。怖くはないので気軽に話しかけてください。

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