P業界の酒のつまみになる話し  第一話見知らぬタイムカード

私がP店で働くのであれば大手を推奨するのは、私自身が個人経営や家族経営の様なP店で大変な苦労をした為です。
みんな苦労くらいしているし、大変な思いをしていると言うが、某闇金系の漫画を読んで日常と感じる人は決して多くは無いと思う。

そういう観点から見てそれでも“みんな苦労くらいしている”と言えるか今一度考えて欲しい。

そんな日常だった過去の一部分を切り取ったのが今回の話し。

それは某店に入社して二日目の事だった。
前任者が病気で退職する事になって後任を探していた所に縁あって就職が決まり。
管理者の皆様であればお分かり頂ける所だと思いますが、着任した店舗ではまず従業者名簿やパスワード、金庫の金額だったりお金や法に関連する部分を引き継ぐのが一般的だと思います。

しかし、その法人では各店舗に身内の方が居てその方がそういった物は管理しているからと引き継ぎが無かった。

それでも、法的な観点から自身の保護の為最低限の書類の確認だけは行った。
それを訝しむ身内の方への根回しとして、あらかじめ社長には許可を貰い、現場の社員への配慮を行い、やっとの事で従業者名簿に辿り着いたが、その時点で違和感しかなく。従業者名簿を見て驚愕したのが800台程の店舗で従業員数が100名を超えている…… シフトを見ても清掃員や飲食店のスタッフ数を見てどんなに多く見積もっても60名程度。

管理が出来て無いだけだと思い整理を行うが、社長の身内の方(以下Aさん)に一人一人確認するが全員在籍しているとの事。

不安を覚えながらも1週間が経過した頃、シフトを作っている主任と話していて気付く。
一日中店舗にいる私が見た事の無いスタッフの名前がシフトにある。

事務員もシフトとタイムカードでは5人居る事になっているが実際には2人だ。

それでも主任はシフトを組んでいる。
見た事の無い人のシフトとタイムカード。

絶対に何かある。

気になって通常の仕事所では無い。

それでもAさんと主任の目があるので、まずは信頼を得る為に通常の仕事でしっかりと成果を残し3ヶ月が経った頃。
17時頃、店休の仕事もひと段落した頃、社長から繁華街まで事務員と来て欲しいと呼び出され向かう事に。

事務員が酷く怯えた様子だったので移動の30分をかけて話を聞くが断片的にしか話さない為全容が見えて来ないが、今やっている事は良くない事だという事だけは理解でき、一人で行くから先に帰る様に伝えるが、普段おとなしい事務員が声を荒らげてそれは出来ないと言う。普段見慣れない黒い鞄の持ち手を握り締めて。


着いた先は繁華街の中でも一際目立つビルのワンフロアだった。

黒服のお兄さんが数名外で到着を待っていて、車の鍵を渡すと、車は預かっておくからと事務員と2人中に通された。

その際に鞄を預かろうとしたお兄さんの手を事務員が叩いた。本当にそんな事をする人では無くて、普段の大人しい彼女からは到底想像し難い行為に私の時が止まっていると、黒服のお兄さん方が一斉に頭を下げて謝罪した。
ビルの前で。
外で。

ますます鞄の中身が気になる。

もちろん、車の中で事務員に聞いたが答えてくれるわけも無く。
案内された店の中にはしっかりと酔いの回った社長が居た。
その社長に事務員は鞄を渡すと安堵した様子で私に何を言うでも無く店から出て行った。

不安が膨れる私を待っていたのは、飲めや食えやの至福のひと時。

その時の私は社長に気に入られたく、その様に振る舞い自分に何が起きているのかも冷静に考える事が出来ずにいた。
サラリーマンであればその考えは普通の事だが人としてもう少し冷静に考えれば良かった。

ここまで読んで鞄の中身とタイムカードの正体に気付けた方はその様な経験があるか、勘のいい方なんだと思う。
私も早々にカラクリに気付き本当は鞄を渡した事務員と一緒に帰るべきだった。

2時過ぎまで続いた騒ぎが落ち着いた頃社長に呼ばれた。

「支払いを頼むよ」

そう言って件の鞄を渡された。
酔いもまわり仕事で疲れた脳で会計へと向かう。

鞄の事などすっかり忘れていた私はファスナーを開けて漸く事務員の事を思い出した。


中には無数の札束と幾つかの財布、幾つかの封筒が入っていた。

支払額を聞いて驚き、札束を見て驚き、どれから払うのか分からず、事務員の事を思い出し混乱していると、私の肩を某業界関係のお偉いさんと紹介して頂いた方が叩く。

「ようこそ〇〇会社へ。それ、適当な札で払って大丈夫だから」

そして、その方は自分の名前が書かれた封筒を受け取り、社長に挨拶して先に店から出て行った。

その後は会計を済ませて、封筒を社長に渡して確認して貰いその後何名かに労いの言葉と共に渡した。
店の女の子達には財布を渡し、余った一つは私が貰う事となった。

「明日からも頼むよ」

酒で蒸された呼気が私の顔を包む。
両手で肩を掴まれ力強く揉まれた。痛い程に。
私は財布を握りしめたままその店を後にして、社長に連れられサウナで酒を抜き一睡もせずに出社した。

「大丈夫でした?」

何食わぬ顔で事務員が私を気遣ってくる。
考えが追いつかない自分の机の上にはずっと持ったままだった財布が置かれている。

「それ、中見ました?」

事務員が楽しそうに聞いてくる。
昨日の様子との違いに、本当に別人では無いのかと思う。

事務員に言われるままに中を確認すると10マンの束が3つ入っていた。

「良かったですね、多い方ですよ」

成る程、入れたのはこの人だから分かるのか。
事務員に出された熱いブラックコーヒーを飲みながら頭が冴えてくる。

「これがタイムカードのカラクリです?」
「さぁーて、どうでしょう?」

意地悪く笑ってみせる50代の事務員を可愛く思ってしまうのは朝日のせいでは無い。

「次からこの仕事教えますね」

あぁ、この人の番は終わって次は自分の番なのかと悟る。
その後出社してきたAさんが今まで私の事を毛嫌いしていたのが嘘かの様に、昔からの親友と再会したかの様に気さくに接して来たのは今になっても思い出すと笑ってしまう。

皆さんの給料がどの様に決まっているか分かりますか?

もし、その給料を受け取る人が居なければどうなると思いますか?

だから住民票が必要であり、従業者名簿は大切なんですね。

※この話はフィクションですと締め括る

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