機能的な身体の作り方、使える筋肉の作り方
嬉しいことに書籍を出版してから講演やメディア出演の機会が増えてきました。タイトルに対して批判もあったりしますが、正直この辺のシャレが通じない人とは会話もしたくないのでいいフィルターになってるのかなとポジティブです。
ご購入いただいて読んで頂いた方々からはかなり好評頂いていて嬉しい限り!お仕事のご依頼などございましたら是非
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本書の中でも触れていますが、今回はスポーツとトレーニングの関係について書いてみます。
動けるってなんだ?
筋肉を大きくしてスピードやパワーを増すだけではダメ?スクワットの重量は上がったのに脚が速くならない。なぜ?
様々な理由から筋トレを敬遠するアスリートは少なからずいます。ですが現代スポーツにおいてパフォーマンス向上を目指す上で筋力アップは必要不可欠。筋力を高めることは、車に例えればエンジンが大きくなるのと同じこと。一方でそのパワーを使いこなす動きや体の使い方はまた別の話。こちらは操作性。
実際の動きとイメージの言語化の乖離
「名選手は名指導者にあらず」
こんな言葉があったりします。感覚が優れた人が説明してもうまく伝わらないことの例としてよく使われます。
野球のバッティングやボクシングのパンチのコツの伝え方として腰を回すって言葉があります。
でも実際腰は構造的に回りません。腰椎は5つあってそれぞれ1〜2度の可動域、つまり実際に「回る」のは最大でも10度だけということになります。
別に言葉が足りないんじゃない。身体感覚が優れている人間はそれで分かるんです。一方で身体感覚や想像力が乏しい人間は当たり前のように腰を回そうとして腰を痛めたり、いわゆる手だけでパンチするような手打ちになってしまいます。
腰ではなく股関節と胸椎が主に動いている
「腰を回す」の答えは「腰の位置を回す」です。そのためには股関節を使わないといけない。回旋可動域(捻る動き)の主となるのは股関節と胸椎。
身体動作の中で足関節、股関節、胸郭関節、肩甲上腕関節(肩関節)の正常な可動域が保たれることも機能的な動作のために必要です。
無理な動きによる代償動作
でもここが思うように動かない人も多いです。本来動く場所が動かないとパフォーマンスが低下する事は想像できると思いますが、人間ってよくできているもので辻褄合わせに他の部位がサポートしてくれます。これを代償動作といいます。
股関節が動かない分膝を捻ったり、胸が回らない分回らないはずの腰が回ったりする。
じゃあそれでいいのか?というとNOです。代償動作は無理な動きの代償です。動かないものを無理に動かしているのだから体は壊れてしまいます。
スポーツ動作を上手に教える事と、体の構造として正しい動きは一致しないこともあります。そもそもスポーツは健康のために作られてるわけではないです。
分からないまま反復してもできないものはできない。そうやって潰れていった選手は数知れずいます。じゃあどうするか?動作を鍛えるというアプローチが有効です。
動作を鍛える
筋肉を主眼に置くというより動作をベースに考える必要があります。動作にミスがあるならその動作を改善するエクササイズだったり機能低下している筋肉に刺激を加える事で動作を改善していきます。
スポーツ動作の中には安定性と可動性が共存しています。身体の部位によって動きと固定の役割がそれぞれあります。動きの関節と安定の関節、それぞれ役割を全うしないとカラダが上手く動きません。
動くべき関節の可動性が少ないと機能不全が起き、安定させるべき関節が過剰に動くと代償動作で痛みが生じます。だから動くべきところを動かす。
動作の中で足関節、股関節、胸郭関節、肩甲上腕関節(肩関節)の正常な可動域が保たれることも機能的な動作のために必要です。怪我を予防する事で練習やトレーニングを継続する事ができる。
出来ないことを自意識でできるようにする。次は他意識でできるようにする。無意識にできるようにステップアップしていく。そこからが強さのスタートです。
トレーニングやストレッチを通じて可動域も養いましょう。
「体作りにはアプローチが重要」は本当か?
「どんなアプローチで体を作ったかが大切」こんな風に考えてた時期が私にもありました。筋肉の質みたいなものをイメージしていたんだと思います。
確かにトレーニングの内容やどう経験を積み上げてきたのかは大切です。しかし、筋肉は筋肉。変わらないんです。密度が高い筋肉なのか、ただグリコーゲンの貯蔵容量が大きくなってるだけなのか、IIxがIIaに変化してるとか、筋組織としての差異はあるかもしれません。ただ何度もいいますが筋肉は筋肉。
その筋肉をつける、筋力を伸ばすアプローチとしてはウェイトトレーニングが最適であり効率的です。実技練習のみで身体を作るより何倍もの早さで目標(とする身体)に到達できることでしょう。
その筋肉(身体)の使い方はテクニックです。(筋肉だけでなく腱にもアプローチする必要はあります)結局は上手くなるためにも、強くなるためにも量(反復練習)が必要。ただし、そのためには反復に耐えうるだけの体力要素、タフネスも大事です。反復では少なからず組織に負荷が掛かるため、それに対しての強さは必要ということです。
このように、直接的にパフォーマンス向上に繋がっているように見えなくてもトレーニングによって受ける恩恵は数知れません。
「柔道で使える筋肉は柔道で作る」は成り立つのか
「柔道で使える筋肉は柔道で作る」武道の世界ではこんな格言があったりします。「柔道選手は柔道の練習だけで十分」という意味のものです。こちらについては非効率ですが、あり得ます。(ただし柔道の特殊性故です)
トレーニングに対してのある種の不要論です。しかも力が物を言う(はずの)ストレングススポーツの柔道でです。ちゃんと専属のストレングスコーチもいるのに歯に絹着せぬ意見、忖度もへったくれもない感じで素敵。知性も無さそうですが。
格闘技は基本的に階級制で同体重の相手と試合を行います。練習でも実際の試合と近い基本的に同体格の相手と行います。その方が実際の試合に近い形になるし、怪我のリスクを減らせるためです。
投げようとしたデブに巻き込まれて膝から下がどっかいっちゃうとか、体重差のある相手に力で捩じ伏せられる理不尽が無くなります。
ところが柔道。
乱取り(スパーリング)を体格差があっても行います。(もちろん場所によりますが)柔道の試合は階級別でもあるのですが、全日本は体重無差別という大差別。
これにより軽量級選手の場合は乱取り(=練習)自体が過負荷のトレーニングとなります。自分より力の強い相手と取っ組み合う、大きい相手を持ち上げる。また、組み技格闘技自体が相手の抵抗に対して出力しながら動きます。徒手対抗の筋トレみたいなものになるのでウェイトトレーニングほどではありませんが実技練習でもそれなりの筋発達が起こります。
ウェイトトレーニングが不要という言葉もあながち間違いではありません。もはや乱取りがトレーニングのレベルなのですが。ただあくまで階級が上の選手と競えるレベルの体力や技術があっての話なので、ちょっと異次元ではあります。
組み技だけでもそれなりにいい体にはなりますが、組み技の選手もパフォーマンス向上のためにウェイトトレーニングを取り入れています。特異的に筋力を伸ばす効果のあるウェイトトレーニングの方が組み技より筋肉をつける効果は間違いなく高いです。
そもそもトレーニングは何のためのものなのか
そもそもトレーニングは効率よく筋肉を発達させることに特化しているものなので、柔道の例でいうところの「練習だけで十分となりうるレベルの肉体」に達するためにもトレーニングは有用です。体力的に劣っている場合は練習にならないだけでなく、怪我のリスクも高いため無理に練習でトレーニングを兼ねる必要はないというのが正しい。
トレーニングの効果で恩恵が大きいものとしてあるのが怪我の予防。結局のところスポーツって無茶する要素は多分にあるので筋力を強化したり可動域を拡げるためにもトレーニングは大事です。
トレーニング不要論を唱える選手で実際強い選手がいるかも知れませんが、耳に入ったり残るのは注目されている強い人です。それ以上に淘汰されている選手が多いのです。
しかし、実際にはトレーニングしている選手の方が遥かに多いですし、代表レベルの選手でウェイトトレーニングをしていない人はいないはずです。
山梨学院大学柔道部でのトレーニング指導の風景。柔道選手も勿論トレーニングを取り入れています。
余談ですが筋肥大するのは強い人という傾向があります。強ければ強いほど肥大するって話ではなく、相対的に強い人が肥大するという話。これは力発揮の形態によるものと、レストも適度なんでしょう。横綱稽古がいいという。可愛がられても強くならない残酷な世界。攻めと受けでも使う筋肉が違うし。
守るために脇を閉め続けててもアイソメトリックな筋力発揮なので肥大には向いてない。といっても筋緊張が続くので体内環境は筋肥大に傾きます。
なので練習は自分より強い人、競る人、弱い人とバリエーションがあった方が良い説を支持しています。使う筋肉も変わりますし。
スポーツだけで体は作れない、トレーニングは超重要
スポーツで体を作るのは実は効率的ではありません。そもそも格闘技やスポーツは筋肉をつけるために作られてる物ではないのです。いい体になるのはスポーツの副次的な効果。いい体を目指してスポーツを頑張るというのは、非効率な方法で頑張るということです。しかしこれはあるあるです。
ただスポーツが「楽しい」という要素があることは否定しません。ともすれば単調に感じるウェイトトレーニングに対し、予測できない動きがあったり変化を感じやすい格闘技やスポーツは楽しいんで続けやすいのかもしれません。続けられるから変化を感じられる。
私が言いたいのは目的が体作りなのであればトレーニングが最も効率的であるということと、趣味レベルで取り組むとしても、例えば組み技なんかは楽しさもあり、筋肉をつける効果もあっておすすめですが、ただそれでも怪我の予防も兼ねてトレーニングもやった方がいいということです。
ウェイトトレーニングをせず、スポーツの練習の中で使える筋肉を養える。全力で走る事を繰り返す反復、トップレベルの速く走れる走力を獲得出来るか?結論から言うと不可能です。
走る事によって掛かる負荷レベルでは一定以上の走力を養うには不足しています。原則として筋力は筋肉の太さに比例します。筋力アップの効果はスピードの向上にもつながる。筋肉がつくとスピードが遅くなるというイメージは間違いです。
トレーニングを行う際の注意
ただ筋トレを闇雲に行うのはNG。適切に行わないと関節を痛めてしまう場合もあります。アスリートの筋トレの中心になるのは多関節種目。
基本的な考え方として大筋群を動員できる多関節種目を行うといいです。結果として大筋群から小筋群まで鍛えられます。
ただしターゲットとなる筋肉や関節動作によっては多関節種目では鍛えられなかったり単関節種目の方が適している場合があります。それぞれのスポーツで動作のパフォーマンスレベルを左右する関節動作があります。競技によって貢献度の高い関節動作はあるのでその目的に合った種目の選択が大切です。このあたりは動作解析がちゃんとできるトレーナーにトレーニング種目や頻度などを相談してみるのが一番早いと思います。
PANDA GYMで行っている私のパーソナルトレーニングではこのようなスポーツのパフォーマンス向上のためのトレーニング相談も多いです。野球、ゴルフ、テニス、格闘技などなど技術練習以外のアプローチでパフォーマンスを伸ばし、怪我のリスクを抑えるためにも是非ご相談いただければと思います。
こだわりや様子はこちらがわかりやすいかも。取材もお待ちしてます!
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