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四十五秒の足踏み
こち、……こち、……こち、……こち。
寝付けない。
暗くした部屋、布団に包まって目を瞑り努める。
積もった雪にすっかりと喧噪を奪われてしまった外に、秒針は一層鋭さを増して時を刻む。
こち、……こち、……こち、……こち。
それは気のせいかゆっくり重々しく感じられた。
どれほど経っただろう。少なくとも一時間は過ぎているはずだ。
のっそり置時計を見遣る。
時間は、まるで進んでいない。
秒針は四十五秒に届かず滑り、重力に力なく溺れ、一秒前を繰り返し藻掻いていた。
雪に閉ざされた世界、寝付けない自分、進めぬ時計。まるで世界が停止してしまったかのよう。
ぼんやり電池切れを覚り、しばらく逡巡した後、どうせ寝付けないならと眠ることを諦めた。
電池を交換しよう。
のったりと体を起こす。
ああ、俺もか。
こち、……こち、……こち、……こち。
カップ麺に熱湯を注ぐ。ふわり、醤油の匂いが立ち上る。
秒針が軽やかに四十五秒を飛び越えた気がした。
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