コンサルの蹴落とし合いはナチュラルに
角刈り氏の降格ーー。上司をなくしたヒルズ氏たちのチームだったが、社長からは助っ人として副社長が入ることを告げられる。(前回)
マネージャーに昇進かと一瞬でも思った自分を恥じよう。さぁ、遅くなったが夕飯だ! 帰国後の晩餐に私が選んだのは、、、あの和食!
◆角刈りなき宴
「私、トマトクリームうどん」
「僕はつるとん三昧、あとビールも」
ここは眠らない街、六本木。我々は早朝までうどんが楽しめる「つるとんてん」に来ている。メンツはいつかの深夜すき焼きと同じく、お嬢氏、新人Boy氏、ギャル氏、そして私ことヒルズ氏だ。疲れはピークだったが、角刈り氏降格の衝撃が大きすぎた。渡米中の様子が聞きたかったこともあり、うどん会に繰り出すこととなった。
店内は仄暗く眠気を誘う。
うどんをすすりながら、他愛もない話をする。
「最近さ、浮気疑われてるんだよね」
げほっ!
前言撤回。
全くもって他愛もない話ではなかった。
ギャル氏、生産性の低い角刈りマネージャーと行動を共にしていたせいで、連日の深夜帰りに休日出勤。夫から疑惑の視線を向けられているらしい。
「おかげで休日出勤もスーツ(*)でさぁ」
上司が変わったらそんな生活ともおさらばかな。 肘をつきビールを飲むギャル氏。愚痴のわりにハッピーオーラが漂うのは、それだけ上司対応が大変だったということだろう。
「とはいえ、角刈りマネージャーとの出会いだって一期一会じゃん?今後もいい関係でいたいよね」
茶髪をかきあげギャル氏が呟く。千葉県出身、T京大学卒業、趣味は地元仲間とサーフィン、好きな言葉は絆ーー。さすが、社内きっての高学歴マイルドヤンキーだけある、熱いな、など思っていた時だ。
「僕のせいかもしれません」
新人Boy氏が口を開いた。
◆新人Boy氏は見た
僕の、、、せい、、、?
突然の告白に全員が箸を止める。「僕のせい」とは、、、角刈り氏降格を指しているのか? いや、、まさか、、、
「まさか角刈りマネージャーがあんなことに、、、」
ばちゃっ!
ギャル氏の箸からうどんが滑り落ち、トマトクリームソースが盛大にスーツに跳ねる。慌てるギャル氏の横で、お嬢氏が命令をくだした。
「説明しなさい、新人Boy氏」
気まずそうに話しだす新人Boy。
「実は最近、、、毎夜遅くまで残ってて、、、」
ほら、、、僕の席って角刈りマネージャーの斜め後ろじゃないですか?だから振り返るとよく見えるんですよね、画面が、、、
「「「それで、、、?」」」
息がつまりそうな、つるとんてん店内。
それで、、、見ちゃったんです。
深夜になると、、、
「水着×巨乳で、画像検索しているの」
、、、
お、、、おぅ!?
せ、せめてスマホで検索しろよ角刈り! いやポイントはそこじゃないか。
「でもさぁ、実害はないんだろ?」
ほっとけよそんなくだらない奴。ギャル氏がさりげなく上司を痛烈批判。さすが千葉のマイルドヤンキーだ。
「待ってください!想像してくださいよ!!深夜の追い詰められた状況でふと後ろを振り返る、そこには全く仕事が進んでいない上司、前には画面に広がる水着の女の子ぉぉぉー!!!僕の年収の3倍はもらってるのに!」
このストレスに!!!
男も女もないんです!!!
うむ、確かに、、、
そもそも、深夜で人が少ないとはいえ職場環境としてよろしくはない。職務怠慢、セクハラ、、、マネージャーとして許される行為ではない。
お嬢氏の反応をうかがう。
「気持ち悪いですねー最低」などと言いながら笑いをかみ殺し、海老クリームうどんを口に運んでいる。今、彼女の中で角刈り氏は社長と同じカテゴリーに分類されたのだろう。分類名はおそらく「クズゴミ」だ。
「それでね、僕、言っちゃったんですよ」
総務の佳乃さんにーー。
◆お嬢氏の補習
「「「 げほぉっっっ! 」」」
全員がうどんのスープを鼻に詰まらせる。
な、なんてことを言い出すんだ!?
佳乃氏と社長ーー。
佳乃2号により引き裂かれたかのように見えた関係だが、その後も親密さを感じる瞬間がある。
例えばだ、年末のスティーブ・ジョブズのプレゼンのパクリプレゼンの際、うっとりした顔で社長を見つめる佳乃氏が目撃されている。彼女に話せば社長の耳にも入る可能性いと高し。
「なんでまた、、、」
気まずそうな新人Boy氏。
「いやぁ、佳乃さんっていい人なんですよ、夜残っているといつも最近どう?って声かけてくれて、それでつい、、」
ギャル氏、お嬢氏、私ことヒルズ氏、顔を見合わせ心を通わせる。
わかるだろ?
うん、わかるよ。
えぇ、わかります。
佳乃氏、社長のスパイで確定ーー。
今すべきは、新人Boy氏の内偵要員化を阻止すること。
「もう少し教育が必要だったわね」
静かにほほ笑むお嬢氏の眼が、冷たく光った。
◆宴の後
「はーい撮るよー!あ、お嬢氏さんとだけね!」
夫対策にセルフィーを撮るギャル氏。隣で頬に手を添え、通称 ”歯が痛いポーズ” をキメるお嬢氏。
「ぼ、僕らも撮ります!?」
お嬢氏のスパルタ補習をうけ頭がいかれた新人Boy氏。セルフィー要請を無視し、淡々と支払いを済ます私ーー。
うどん会は閉幕となった。
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誰もいない部屋の明かりを灯す。
「やっと一区切りか」
スーツを脱ぎ捨て、ソファに倒れこむ。
白を基調に濃いブラウンの家具でまとめたこの部屋。窓から見える緑も気に入っているのだが、何せ滞在時間が少ない。某飲料メーカーのコンペ資料修正、あれから一週間もたっていないのだ。もはや一か月ほど過ぎたような疲労感がどっと襲い掛かってくる。
社長のあの自信、、、営業はうまくいくんだろう。角刈り氏の降格も驚きはしたが妥当だ。新人Boy氏のリークがなくとも結果は同じだっただろう。
残るは、副社長参画の謎。
「何者なんだよ、、、」
入社した頃に挨拶したっけな?
ぼんやり光る間接照明を見つめる。
なんか、、黒い服着てたな、、、そうそう、いつも黒い、、、そうだ黒いTシャツだ、、、、あれ?、違うか、ちがうちがーーーう、それはぁ、スティーブ、、、、スティーブ・ジョ、、、スティーブ、、、スティー、、、スー、、、スー、、、スー、、、スー、、、、、
こうして、ヒルズ氏の長い長い営業活動が一区切りを迎えたのであった。
- 仁義なき営業編 完 -
(次へ)
(*) プロジェクト毎に忙しさが激変するコンサル、「何で急に忙しくなるの?」「まさか、、、」そんな疑惑を持たれることは多い。身の潔白を証明するため、休日すらスーツで出勤するコンサルたち。何ならビルに入るところまで配偶者がついてくるなんてことも。
Twitter: @soremajide
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