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第279話:濡れ落ち葉

2024.4月です。63歳です。
60歳で定年退職して、再任用のフルで3年働きましたが、この3年間は精神的にも体力的にもとても厳しく、今年度から同じ再任用でも時短勤務に切り替えました。

「フル」に対する「ハーフ」なので、当たり前ですが「半分」です。ざっくり38時間の勤務が19時間になったわけです。
4月に新しい学校に赴任してみると、授業の持ち時間は週に10時間ということで、1年生と2年生の週5時間の授業を2クラス担当するだけ。毎日2時間の授業をすると勤務が終わりになります。
時間割も勤務時間を超過しないように配慮されているので、水曜日だけは1日ですが、月曜日は午後、火木金曜日は午前にそれぞれ3時間程度の勤務。
副担任でもなく学年の仕事もなく、校務分掌の仕事も簡単な事務仕事で、部活は第3顧問なので形だけついているという感じです。
・・昨年までが嘘のようにスカスカで、「自由」です。

ただ、この「自由」というのをどう使うかが問題で、早く帰ってもカミさんが迷惑そうなので、研究室で授業準備をしたり、三島大社まで散歩してみたり、図書館に行って本を読んでみたり・・結局、午後の3時、4時頃まであてどなくふらふらしてから帰るという日々を過ごしています。

というわけで、ゴールデンウイークは完全休養でした。

天気も清々しく
ここ御殿場では田植えも終わりました

しかし、同じ理由で心身が休まったわけではありません。何十年もゴールデンウイークなど関係なく仕事をしていたので、体も頭も「休日」があることに違和感を訴え、さらにのんびりできない自分に違和感を感じたりなどしてしまうのです。

カミさんにとってもこれは大変な事態で、今まで休日もなくほったらかされてきたのですから、僕が一日中家の中にいることは、体や頭の中に「異物」が侵入してきた「未曾有の異常事態」で、簡単に言えば「邪魔者」でしかないわけです。

何となく何かしないではいられないので、例えば朝早く目が覚めた時にご飯を炊いてあげたところ硬いご飯が出来上がってしまい、「お米は研いでからしばらく水につけておかなきゃいけないの」と諭され、夜の洗い物をすれば「もっとちゃんとすすいで」とか「それはそうじゃない」と叱られるわけです。

昨日は「お風呂のタイル周りを直したい」と言うので、久しぶりに一緒に買い物に行き、二人でお風呂の修繕をしたのですが、カミさんの言う通りにやっていればいいものを、つい「こうした方がいいんじゃない」とか言ってカミさんの機嫌を損ね、「もういいから、今日はお風呂使えないから、どこか温泉へでも行って来て」と、まだ明るいうちから追い出されてしまいました。

それでも何かしないではいられないので5月初旬から庭をゴソゴソいじり始め、棚を作ってみたり、小石を敷いてみたり、草刈りをしたりしていたのですが、ついこの間は庭のススキの大きな根っこを鍬で掘り起こしていたら、よほど力が入ったものか、左ふくらはぎを痛めて整形外科に行き「軽い肉離れ」と言われ、痛み止めと湿布をもらってきました。

前の小川が草ぼうぼうだったので川の中に入って草を半日抜いていたら指がおごかなくなったり、庭の金木犀の枝をチェーンソーで切り、切り落とした幹から粗雑に右手だけで小枝を払っていたら、チェーンソーがバウンドして左の小指を切ってしまい、外科に行って縫うことになったりしてしまいました。

こんな感じです。

カミさんは、業を煮やして
もう、落ち着いていて
とか
いいからどこかで遊んできて
と言うわけですが、行くところもなく・・。

次の土日は静岡で前の学校の生徒のテニスの県大会があり、応援に行くことになっていて、僕は両日とも日帰りでと思っていたのですが、前日にカミさんが
「えっ、泊まらないの?」
と言うので
「ホテル代が高いんだよ」
と言ったのですが、
「疲れるから泊まってきた方がいいんじゃない?」
と僕を排除する気満々なので、仕方なく即刻宿を手配して泊まることにしました。

これは「放り出しておいた妻」という社会的問題であると同時に、「生き物としてのテリトリーの侵害」に相当する問題なのかもしれないと思ったり、ひょっとすると「オレって濡れ落ち葉?」って危惧してみたりしているところです。

「自由」とは、かくも難題なのものなのであります。

仕事上でもそうなのですが、一線を引いてみた時に、現場や現場の人への距離感の難しさを実感します。

おぼろ月 妻との距離という迷路

猫だけが例外。こいつは距離感など考えません。

僕が家にいることを発見した猫は、始終やってきて肩に乗ってゴロゴロしたり、「お外に行こう」と一日に何度もやってきては散歩をせがみます。
でも、猫に嫌われたらもう立ち直れないかもしれないので、仕方なく猫の言いなりになっているこの頃の僕なのでありました。


■土竜のひとりごと:第279話

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