「やる」は楽しい。「なる」は苦しい。
前回のnoteに、こんな風に書きました。
現役で空を飛んでいる人が無料で流す情報が、直接、すぐに、自分の就職に役に立つと考えることは早計です。それは、その情報がどんなにフレッシュで具体的なものであっても変わりません。
では、私のこのnoteはどうでしょう。私も現役のエアラインパイロットとして、わざわざ航空関連専門のアカウントまでつくって情報を発信しています。私の情報は、あなたの就職に役に立たないのでしょうか。
結論から言えば、あなたの就職に、直接、ただちに、役立つことはないでしょう。なぜなら、私がこのnoteでテーマにしていることは「飛ぶことを楽しもう」であり、「パイロットなるにはこうしよう」ではないからです。
しかし、飛ぶことを楽しめる人は、どんな形であれ、最終的には飛行士になれると思います。
「やる」と「なる」
もう少し説明します。
「飛ぶことを楽しもう」と「パイロットになるにはこうしよう」は、何が違うでしょうか。
それは、前者が、本人の行いや考え方次第で達成できるものであるのに対し、後者は自分の行いや考え方だけでは達成できないことです。動詞的か、名詞的かということもできますし、「やる」と「なる」の違いということもできましょう。
「やる」ことはすぐにできます。行動を始めればいい。考え方を変えるのは少し時間がかかるかもしれませんが、事実の捉え方を変えることは、人格そのものを変えることではないので、ある程度の時間と、良質の経験(物語でもいい)があれば可能です。しかし「なる」は難しい。自分だけではどうしようもないところがあるからです。
私が「なる」話をするなら
エアラインパイロットになろう、と言うと、当たり前ですが「なる」的な話になります。これは苦しいことです。なぜなら、そう望んだ時点で自分はまだパイロットではないし、だからこそ頑張るわけです。その苦しみに対抗するべく、SNSでつながろうとするのは、理解できますし、大いにやればいいと思います。
しかし、それが問題の解決に資するか、は別問題です。
もし私が、本気で「なる」話をするならば、それは個別のコンサルティングという形にするはずです。
なぜなら、エアラインパイロットになることを目的としている人に、直接役に立つ情報を提供するには、まずひとりひとりの状況に合わせた測定可能な目標を具体的に設定して、その人の現在の立ち位置と、その目標との間にある乖離を測り、それを埋めるための助言をする必要があるからです。
1対1で話を聞いて、目標を立てて、その達成のための助言をします。当然、ある程度のコミットメントが発生しますので有料にしますし、むしろその方が誠実だと私は考えます。
コンサルティングを所望する人を見つけるきっかけにするために人を集めたり、ある程度の方向づけをするために意見の表明をすることはするかもしれませんが、人を集めて「情報交換」するだけで魔法のように「なる」問題を解決することはできないできないだろうと、私は考えます。
かく言う私自身も、現在のエアラインに入る時に有料のコンサルティングサービス(キャセイのキャプテンが個人でやっていました)を利用して、特に面接の練習に他人の視点を取り入れる重要さを知り、その時の体験が印象に残ってこのように考えるに至りました。その時お世話になった人は、今でもSNSで交流があります。もし私がどこかのエアラインに転職する段になったら、またその人に自分の面接を見てもらうつもりです。
「やる」は楽しい
一方で「楽しむ」を目的とした場合、それは広い意味での「行動」ですから、それこそ自分次第でほぼ必ず達成できます。物事をみる角度を少し変えればいい。
運良くパイロットに「なった」先輩として、これからパイロットに「なろう」とする後輩に、個別のコンサルティングをせずに伝えられるもっとも誠実な情報は、「どうやって飛ぶことを楽しむか」しかないのです。このnoteアカウントのコンテンツは、すべてそれが通奏低音になるように作っていくつもりです。
飛ぶことを心から楽しめるのなら、たとえ何かのっぴきならない事情で訓練を中断したり、新型コロナで採用が途絶えたり、訓練がうまくいかなくても前を向くことができます。さらにいえば、エアラインパイロットに「なる」ことを諦めなければいけない事態になったとしても、理屈の上であなたは今、この瞬間から飛行士、つまりAviatorになれます。年齢や性別はもちろん、身体障害の有無すら関係ありません。
Aviator、かっこいい響きですよね。「星の王子様」を書いたサン・テグジュベリは複葉機を駆って命がけの山間飛行をする郵便飛行士でしたがその様子を描いた「夜間飛行」や「人間の土地」読めば、彼がどれほど飛ぶことを愛していたかがありありと伝わってきます。それは、彼の小説家としての素晴らしい才能だけでは説明しきれないものです。
そして、楽しむことの最大の強みは、細く、長く続けられることです。エアラインパイロットになれるかどうかはわかりませんが、エビエーターとして細く、長くやっていけば、私見ですが、いつかきっと飛ぶことを愛する立派なパイロットになれるはずです。
私のコンテンツを見て、「飛ぶことって楽しそうだな!」と思っていただける人が一人でもいれば、嬉しく思います。こんな気持ちで、これからもコンテンツを作っていこうと思います。
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Pilot's note NZ在住Ashの飛行士論
NZ在住のパイロットAshによる飛行士論です。パイロットの就職、海外への転職、訓練のこと、海外エアラインの運航の舞台裏などを、主に個人的な…
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