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シン日常、よろしくおねがいします

土曜日の朝、目が覚めると大雨だった。寝ころんだまま右手を差し出し、ベッドの下に落ちているスマホを拾った。Google chromeで天気予報を確認すると、このあたりは午後から晴れるようだ。そのままLINEアプリを開くと、全国的に大雨による災害や交通機関の遅延のニュースが目に入った。どれも『new』と赤文字が付いて目立っている。それら『new』の中に『インドで脱線事故。死者200人超』といういささか強烈的な文面が目に入り、思わず指先でタッチしてしまった。その後いつも通り後悔して、暗い気持ちの中、二度寝した。

次に目が覚めたときには8時10分だった。再度寝ころんだまま右手を差し出し、ベッドの下に落ちているスマホを拾った。Gmailを開くと母からいつものメールが届いていたので、いつも通り『おはよう~』と返信した。そのままYou Tubeを開くと『あなたへのおすすめ』に『本当にやりたいことがわかる10の質問』というタイトルの動画が目に入って、すぐに閉じた。いいかげん起き上がることにする。起き上がるきっかけをくれてありがとう、とは思わなかった。仕事も私生活も、なにもうまくいかないとは思った。

31歳にもなれば、暗い気持ちで起きる仕方のない朝なんてこれまでたくさん経験してきている。だから若いころよりもそこまで落ち込みすぎることもなく、なので未来に向けた大きな挑戦を決意するわけでもなく、とはいっても何かを変える必要があるのではないかと、もぞもぞくらいはした。もぞもぞは気持ちが悪いので、お風呂に入ることにする。41℃。6月。

足先から順番に熱が上がってきて、浴槽に座れば下半身全体に水圧と少しの浮遊感がやってくる。ここにきてようやく目が覚めてきて、物足りない私はやっぱり42℃にしておけばよかったと思った。いつも通り右手の指を左足の指の間に1本ずつ入れて、恋人繋ぎさせたまま左足を90℃曲げて、左足首をくるくると回した。そのあと指をほどき、両手を使って左足を足の裏、足の甲、足首、脹脛、太もも、付け根の順で揉んでいく。これを左足VIP対応と呼ぶ。すべて終わると今度は右足VIP対応を実施し、お風呂を完了させた。

人間はおおむね気晴らしと退屈の混じり合いを生きている。

國分功一朗(2022). 暇と退屈の倫理学 新潮文庫

こんな何の変哲もない朝を振り返る今、この本の言葉を思い出した。朝起きた私は客観的にみると退屈しているように見える。だが朝から自分の意思でお風呂につかり、VIP対応なんて言葉で遊ぶ時間を持つ私は、いかにも気晴らしとともに日常を楽しんでいるようにも見える。ひねくれてよじれた自分の中に、イッチョ前な人間らしさがあって安心感と同時にいらだちを覚えた。だがそれもまた人間らしい現象だと気づき、ひねくれるのをあきらめる。

仕事も私生活もうまくいかないが、その退屈さを文章にしてみると意外とそれが気晴らしになるのではないかと思い、noteを始めることにした。シン日常、よろしくおねがいします。


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