ながしまひろみさんのマンガ「わたしの夢が覚めるまで」読書感想文
「やっぱり主人公は、小さくて可愛らしいほうがいいかも…」
白状すると、最初はちょっとだけ、そう思ってしまった。
だってこのマンガの主人公は、世の中のどこにでもいるような、普通の女性だったから。私みたいな。
けれど、連載が更新されていくたびに、どんどん引き込まれていった。今まで読んだことのないようなマンガだと思った。
(以下、少しだけネタバレあります)
「ダ・ヴィンチWeb」で連載されていた、ながしまひろみさんの「わたしの夢が覚めるまで」。
主人公の「その」は、都会で働く38才の一人暮らしの女性で、不眠がちになり、毎晩ヘンな夢をみる。
夢ってふつう訳の分からないものが多いけれど、「その」の夢もやっぱり不思議で、
「入れ歯を外す夢」だとか、「オオサンショウウオの夢」なんてのもある。
(ちなみに私が小さな頃にみたヘンな夢は、「パーマンになって空を飛ぶんだけど、海面スレスレ、あまりうまく飛べない」っていうものだった…!)
「その」には、38歳で亡くなってしまった「さきちゃん」という叔母がいた。さきちゃんは夢に何度も出てきて、「その」と会話を交わす。
夢の中の「さきちゃん」と、現実の「その」は、同い年になっているので、夢の中での関係性は、幼い頃と少し違っている。
夢や、それにまつわる出来事で「その」が感じることは、同じような年齢や立場の人なら特に、はっとすることが多いと思う。
仕事のこと、老いていく親のこと、親戚のこと、友達のこと、ひとりで生きていくこと…。
現実を生きていると、目をそらし、気付かないフリをしてしまうこともあるけれど、
このマンガはそれを描いているのに、
「突きつけられている」感じがしないのだ。
どうしてかなぁ…と、私なりに考えてみた。
そしてたどりついたのは、
やさしい色づかいや、ていねいに描かれた細かな線、登場人物の気持ちが表れているように感じる輪郭、聞こえてくる音の表現…。
読む人がそれらを「こころ」で感じとっている部分が、とても多いから。
だからテーマだけ聞くとちょっと目をそらしたくなるような内容でも、やさしく心に入ってくるのかな、と感じた。
それほど、ながしまさんの絵やセリフには、魅力があるのだと思う。
私は、ながしまさんの「夜」の描き方が好きだ。
ながしまさんの「夜の闇」は、みっちり詰まった「闇」というより、余白があるような気がする。突き放されるような感じじゃなくって、どこかやさしい。
「その」は、不眠がちになって悩んでいるものの、その辛さに落ちていく感じがしないのは、もしかしたらながしまさんの「夜」の描き方が優しいからなのかもしれない。
ちなみに「その」の住んでいる都会では、窓から入ってくる音は「ブォー…」という車の音だけれど、
田舎に帰ったときは「リーリーリー」「ゲコゲコゲコ」と、虫やカエルの声になっていて、なんかいいなぁ、と思う。
WEBでの連載が終了し、紙の本のイラストが発表されたとき、
「そうそう、こんな感じ!」と思った。
何がかというと、この作品を読んでいたときの感覚だ。
私は夜寝る前にベッドの中で読んでいたので、フワフワと、作品の中を漂っているような感覚だったのかもしれない。
紙の本はきっと、物語に合った手触りの良いものになると思うので、眠れない夜にベッドの中で読むのもいいな。
読み終わったらそこでおしまい、ではなく、やさしい余韻の残るマンガだと思う。
(「やさしく、つよく、おもしろく。」の感想文はこちらに書きました)