【絵本紹介】何十年も前のものだから、書店では見かけない。でも、名作だと思う絵本、三冊。
引越も断捨離もかいくぐり、思えばずいぶんと長いあいだ手もとに残っているものって、誰にでもあると思います。
ただ便利だからとか、なんとなく…っていうものも、もちろんありますが。(むしろ、そっちのほうが多いような気も…。)
その中でも、たまに読んだり、思い浮かべるだけでも、胸に「じわん」としたものが広がって、ずっと心の中の大切な場所にしまわれているものがあります。
私にとってそれは、幼いころから大切にしてきた絵本です。
ロングセラーで名作と呼ばれる絵本にも、素晴らしいものがたくさんあるけれど、今回はそうじゃない、今は廃版になってしまった絵本をご紹介したいと思います。
では、まずはこちら。
「まどを あけて!」
ヘレナ=べフレロバ 作 / ハンナ=チャイコフスカ 絵
内田 莉莎子 訳 【偕成社】 1978年6月 初版発行
物語は、小人のミハウェクが、船の旅を計画するところから始まります。
仲間を探しに、動物たちの家を一軒一軒訪ねていき、ミハウェクはうたいます。
(読者は読みながら絵本をたたき、一緒に歌います!)
まどをあけると…
ネコのバルトシェクが顔を出しました。
しかし、ミハウェクが行ってしまうと、バルトシェクは考えます。
ミハウェクは同じように、イヌのブフィク、リスのフルージャ、うさぎのディジョ、あひるの家を訪ねます。
最後に訪ねた家は留守で、結局、全員に断られてしまったミハウェク。
がっかりして、家に帰ります。
そして、一人で旅にでることに決めたミハウェクが、自分の家の木戸を開けると…
そしてみんなが船に乗り込むと、そこへ誰かが走ってきました。
やってきたのは、留守だと思っていた最後の家の住人、くまでした。
みんなが歓迎すると、くまはうたいます。
この絵本は、窓の部分から部屋をのぞけるように、自分で切ってから読むようになっています、
こどもの頃、母が定規を使い、カッターで切ってくれたのですが、
「こんな新品の絵本、切っちゃうんだ…」
という、なんだかちょっと後ろめたいような、でもワクワクするような…
母の作業が丁寧すぎて(まだかなぁ)と思ったり…
そんな気持ちで見ていたのを覚えています。
なんと言っても絵が素敵で、動物たちの家の中も、すみずみまで眺めて楽しんでいました。
(グッズがあったら欲しいくらい…!)
誘いを一度は断ったものの、旅に魅力を感じ、迷ってしまう動物たちの心の動きも面白く、何度も何度も読み返しました。
今でも、宝物の一冊です。
そして、二冊目は、こちら。
「かもさん どんぐりとシチューを おあがり」
ルース=オーバック 作・絵 / 厨川 圭子 訳
【偕成社】 1978年12月 初版発行
こどもの描いたような絵が魅力的な絵本ですが、「かもさん どんぐりとシチューをおあがり」というタイトルもいいなぁ、と思います。
主人公のレノーアは、別れを惜しむかも達のために、小屋を作ったり、オーバーを作ったり、冬の間の食料を集めたりします。
レノーアが自分で考え、大人顔負けのアイデアと行動力で思いを実現してゆく場面は、何度読んでも楽しく、ワクワクしました。
「一人で食事をする女の子の家族は?」「野生動物にエサをあげたり、オーバーを着せるなんて…!」とか言ってくる大人は、出てきません。
この絵本の本質はそんなことではない、というのは、子供たちにはきっと、わかると思います。
素朴な線で描かれたイラストですが、食べ物もなんだか美味しそうに見えたり、
少ない色づかいが、むしろ物語の素敵さを引き立てているのかもしれません。
***
そして最後の本は少し長めなので、絵本というよりは童話なのかもしれませんが、素晴らしい物語なのでご紹介します。
「おばけの たらんたんたん」
香山 彬子 作 / 佃 公彦 絵
【小学館】1977年4月 初版発行
ごろんごろん岩の丘に住む、ヒヒヒヒおばけの小さな「たらんたんたん」。
たらんたんたんは、人間を怖がらせるのが苦手でしたが、空中に白い息をはいて、絵を描くのが得意でした。
そんなある日。動物園のゾウが、ふるさとを懐かしんで泣いているところに出会った たらんたんたんは、夜空にアフリカの絵を描いてあげます。
けれども、息の絵はすぐに消えてしまうので、たらんたんたんは、おばあさんみみずくに、消えない「おばけえのぐ」を作ってもらいました。
たらんたんたんは、動物園の壁に、次々と動物たちの故郷の絵を描いてあげます。
しかし、それが人間たちにばれてしまい…。
ヒヒヒヒおばけは、怖い声で人間を驚かせられないと一人前ではないのですが、たらんたんたんには、それができません。
本当は、落第おばけなのです。
けれども、みみずくのおばあさんや動物たちは、たらんたんたんの絵が大好きです。
他のヒヒヒヒおばけのようではなくても、たらんたんたんのことが大好きなのです。
最後には、町の人気者になった、たらんたんたんでした。
***
日常の中で、通りすがりのひとのちょっとした優しさで、気持ちがふわっと、楽になることがありますが、私にとってこの絵本たちは、思い出すだけでふわっとなる、大切なものです。
どの絵本も本当に素晴らしいので、これを書いていても温かい気持ちになります。
絵本にかぎらず、なにかひとつでも自分にとってのそういうものがあれば、ちょっと息苦しいなと感じた時の、おまじないのようになるのかもしれないな、と思いました。