野分(源氏物語・五十四帖)
📖【野分】
紫式部
「源氏物語」五十四帖、第28帖。玉鬘十帖の第7帖。
(野分=台風の古称)
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光源氏36歳。仲秋八月、激しい野分が襲来した。その見舞いに六条院の町を訪れた夕霧は、はからずも紫の上を垣間見てしまう。夕霧は、紫の上のあまりの美しさに魂を抜かれたようになるとともに、見てはならぬものを見てしまったような恐ろしさをも感じてしまう。翌朝、夕霧は再び六条院を訪れ、諸所を見舞う。光源氏はその夕霧を伴いながら、女君たちを見舞うべく邸内をめぐる。美しい玉鬘のもとでは、親子とは思えないほどにたわむれかかる光源氏の様子を見て、夕霧は驚き、不審に思う。
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容赦なく荒れ狂う野分が、六条院内部の禁断の花園をもあらわにしてしまう。見舞いに訪れた夕霧が個然にも紫の上の美魏をかいま見たのも、その嵐ゆえであった。光源氏は、若いころの藤壺との誤ちを思ってか、紫の上を夕霧にさえのぞかれまいとしていた。しかし夕霧の脳裏に焼きついてしまった彼女の美貌は、長く消え失せることがない。
風が紫の上の姿を現し、夕霧の心を激しく揺さぶる。風というものには特別な力がある。
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「御屏風も、風のいたく吹きければ、押したたみ寄せたるに、見通しあらはなる廂の御座にゐたまへる人、ものに紛るべくもあらず、気高くきよらに、さとにほふ心地して、春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲き乱れたるを見る心地す」