100万分の1回のねこ
📚『100万分の1回のねこ』
〈初版:2015/7/15〉
《著者》
江國香織・岩瀬成子・くどうなおこ・井上荒野・角田光代・町田康・今江祥智・唯野未歩子・山田詠美・綿矢りさ・川上弘美・広瀬弦・谷川俊太郎
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1977年に刊行された佐野洋子の名作絵本『100万回生きたねこ』に捧げる短編集。人気作家13人による短編小説や詩のアンソロジー。
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『100万回生きたねこ』は、1977年に出版された佐野洋子作の絵本。
…主人公の猫は、ある時は一国の王の猫となり、ある時は船乗りの猫となり…。
…そして猫も、とうとう白猫の隣で静かに動かなくなり、もう決して…。
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「虎白カップル譚」
谷川俊太郎
初出「小説現代」2014年 12月号
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その野良猫は私が生まれるずっと前から、この界隈に居着いていたのだと、認知症を患っていた曽祖母は言っていた。あまり当てにならない話だが、長年外洋航路の船長をやっていた祖父が、一時期船内で飼っていた虎猫とそっくりだと言っていたのは記憶に残って
いる。
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私が物心ついたころには、もうその野良には連れ合いがいた。白い奇麗な猫だったが、野良の虎猫とその白猫は妙にうまが合うらしく、猫には珍しく発情期になってもそわそわ
もせず、二匹で静かに寄り添っていた。
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これから先はあの世で書く。
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と言うのは、間もなく虎と私も死んだからだ、それも同じ日に。あの世でも(生者のあの世は、死者にとってはこの世だが、それはさておき)虎は付かず離れず私の近くにいる。前世と違うのは虎にも私にも連れ合いがいないことだ。白もうちの婆さんも、死んでここではない極楽にでも行ったのだろう。
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だが虎も私もここを離れて、連れ合いに会いに行く気はない。久しぶりに独り身になったら、虎にも私にも若い頃の精気が戻ってきたようだ。100万回は無理でも、あと何回か生き返っても悪くないような気がしている。
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谷川俊太郎(1931〜2024)
これまで3度結婚しており、岸田衿子は最初の、大久保知子(元新劇女優)は2人目の、佐野洋子は3人目の妻。谷川俊太郎の父親は「谷川徹三(哲学者)」、祖父は「谷川米太郎(煙草の元売り店を営む)」。母は多喜子、母方の祖父は「長田桃蔵(政治家)」。谷川俊太郎の「祖父」はここにかかれているような「外洋航路の船長」ではないので、この短編は空想によるものと推測できる。
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