うつしおみ 第17話 真夜中の雨
真夜中に降る雨は、
忘れていた懐かしい記憶が心の扉を叩く音になる。
だが、私はその記憶を、
そのまま夢の出来事にしておこうとする。
ただ心地よい眠りのなかで、
遠雷に雨が歌うよう祈る声を聴いていたのだ。
私はそこでただ雨の奏でる音の、
哀愁に酔いしれていただけ。
この幸せな気持ちを逃さぬよう、
その扉には黒い鉄の鍵がかけてある。
その扉を叩く記憶は悲しい声になり、
深い闇の誘いに引かれ、再び眠りに落ちていく。
雨があの記憶の匂いを運んできても、
頑強な鍵を開ける言葉にはならない。
雨音がやんで夜は静まり、
扉を覆う苔のしずくが無言で星を映す。
雨の祈りにも扉は開かれることなく、
安らかな夢は守られたのだ。
記憶がよみがえる時はまたしても過ぎ去り、
世界は静寂の眠りについたままでいる。
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