うつしおみ 第33話 魂の願い
世界は青白く痩せた魂に何でも願いを叶えようと、
優しい言葉で手を差し伸べる。
魂は救済だと思ってその手を握るが、
冷たく乾いた木の感触に疑いを持つ。
だが、他に頼るべきものもなく、
そこで日に焼けた本のような匂いに包まれるのだ。
すでに古い友たちはこの世界を去り、
自分だけが茫漠たる大地にひとり取り残されている。
自分の願いとは何かを思い出そうとするが、
世界が与える仕事で手一杯になっている。
世界は素知らぬ振りで魂を忙殺させ、
大切なことを考える時を与えようとしない。
魂の願いは自分誰かを知ることだったが、
それを知れば世界から離れてしまう。
そうなれば、世界は力を失ってしまうから、
魂にそれを考えさせないようにしているのだ。
ときに世界は花の甘い香りを漂わせて、
魂に癒やしを与え、この地にとどまらせようとする。
だが、いつか魂が自らの願いを叶えたとき、
果てしない自分の中にその世界を飲み込むのだ。
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