
「夏の灯」利用者の声
ライターの藤堂です。本日は千里さん(仮)にご協力いただき「夏の灯(なつのひ)」に関する対談を記事にしました。また、個人情報保護のためお話の一部にフェイクをいれています。なお「夏の灯」はワンコインで個人の相談をお受けする空色のプロジェクトのひとつです。
まずは千里さんの自己紹介をお願いします。
千里「ぼくは北陸地方でピアスタッフをしている双極性障害の当事者です。現在はB型作業所で職業指導員として従事しています。これまでにもA型・就労移行などにおいて、おもに就労支援に携わりながら仕事をしてきました。福祉に携わりはじめてからは約3年になります。今回は仕事での悩みを相談したくて利用させていただきました」
成瀬「空色のnoteをみてメールをくださいましたよね。周囲の同僚や上司ではなく、話し相手に空色をお選びいただいたのはどうしてですか?」
千里「職場にはピアスタッフがぼくの他にいないんです。そのため普段かかえている悩みをなかなか相談できずにいました。ぼくが知るかぎり、うちの地域にはピアの当事者会というのはみなくて。ある日、たまたまnoteで活動紹介を拝見し、ここなら話をきいてもらえるかもしれないとおもい連絡させていただきました」
成瀬さんもはじめてピアスタッフに従事したとき、周りに同じ立場で相談できるひとがいなかったため、空色のつどいを結成したといっていましたね
成瀬「ピアスタッフを積極的に雇用している場所ならまだしも、ピア自体の母数が少ないのでどうしても相談先に困ってしまいますよね。かつての職場にも、支援者用の相談窓口はあったのですが、きいてくださるのは健常者や専門職なので、当事者ならではの悩みには、あまりピンとこないようでした」
千里「ぼくの職場も似たようなかんじです。すべてのピアスタッフがオープンにしているわけでもないので、職員間の自己開示に迷ってしまうのも要因のひとつかもしれません。あくまでご利用者さまのサポートをする仕事なので、ぼく自身のことはぼく自身でなんとかしなければなりません」
なんだか孤独なイメージをうけますが・・・
千里「もっと仲間がいたらいいんですけどね。まったくおなじピアスタッフでなくてもいいんですけどせめて耳を傾けてほしい、不安に寄り添ってほしいとはおもいます。でもあくまで仕事においては、ぼくは支援をうけるために就労しているわけではないので孤独感はありますが、仕方ないことかなと受け入れてもいます」
成瀬「わたしとしてはその足りなかった部分に空色が機能できたことはとても喜ばしく思っています。話していただいたことですこしでも肩の荷が軽くなっていたら嬉しいです。インタビューにあたり、お困りだったことを可能な範囲でもう一度お話しいただけますか?」
千里「ぼくの職場では週に1回メンバーさんの面談をおこなっています。僕も職員としてそれを担当しています。働くことに不安があるメンバーさんに自信をもっていただきたくて、鼓舞したり、これまでできたことを提示して励ましたりしているのですが、あるとき『千里さんは一般就労できてるじゃないか。作業所でしか働けないひとのきもちがわかるものか。ピアだというけれど他の職員となにもかわらない』と言われ、なにも言えなくなってしまいました。当事者経験をもつじぶんだからこそ専門職とはちがう目線でものごとをみて支援できるはず、と信じてきた部分が揺るがされる思いでした」
メンバーさんの言葉がぐさっときたわけですね。ちなみに千里さんはこれまで実際に就労支援をうけた経験はあったのでしょうか?
千里「実はないんです。これまでパートをつづけてきたのでA型・B型・就労移行はつかったことがありません。一時期働けなくなり福祉施設に通所していた時期はありましたが、その後は障害者雇用で一般企業に就職しました。なのでメンバーさんのいうことはもっともです。たしかに就労訓練の経験がないぼくには彼らのきもちがわからないかもしれません。まったくおなじ経験がなくても寄り添いたいとおもっていたのですが、ぼくのアプローチに強引さがあっただとおもいます。ぼく自身の支援の未熟さを受け止めつつも、もやもやが膨れていくばかりだったので、それを相談させていただきました」
実際に話してみて、いかがでしたか?
千里「まずはありのままの声を受け止めていただいたことが嬉しかったです。成瀬さんも似た経験があったと自己開示してくださったので話しやすかったのかもしれません」
成瀬「わたしの場合は、これまでグループホームや生活訓練などでピアスタッフとして従事していきました。千里さんとおなじようにご利用者さまと面談したり、関係機関とのカンファレンスをひらくことも少なくなかったです。これからの人生をどのように立てていくのかを最大限応援していたのですが、千里さんとおなじく就労支援をうけたことがなく『経験していない成瀬さんにはわからない』と言われてしまうこともありました。そういう部分が似ていましたよね」
「夏の灯」を使ってみて、なにか発見したことや学びになることはありましたか?またその後の進展などがあれば是非おしえてください
千里「あのとき、話題にのぼってハッとしたことがあったのですが、ぼくらがご利用者さまから向けられた怒りや不満は、実はぼくらも支援をうけてきたなかで多かれ少なかれ抱えてきた想いだったということです。ぼくもかつて働けなかった時期に地域活動支援センターで『千里さんならできるでしょ』と励ましていただいたことがあったのですが、そのときのぼくには、励みになったどころか『ぼくの気持ちや苦しさなんてわからないくせに!』と怒りを覚えたんです。電車に乗るのもやっと、センターにくるのもやっと、ヘルパーさんを家に招くことすら大きなストレス源になっているのに、そういう施設外での苦労がまるでないかのように軽く扱われたようなかんじがして・・・」
成瀬「わたしも支援をうけるなかでそういった経験はよくありました。そのうち諦めるようになっていったのですが、アセスメント不足の『大丈夫』は向けられると、かなり苦しい思いをしますよね。なにをどうみたら大丈夫にみえるんだと。反面教師にしてじぶんはこんな声掛けはしないようにしようとおもいつつも、未熟ゆえに相手のつらさに寄り添いきれずに軽はずみの言葉を発してしまうこともあり、反省の積みかさねでした」
千里「じぶんがされたら嫌なことを相手にしないというだけのことなんですが、それがとても難しいんですよね。ぼくらの場合は健常者ー障害者のあいだの「わかってもらえない」であって、ある意味そこは簡単に諦めがつくことでもあるのですが、ピアとして関わるときの「わかってもらえない」はもっと重くて哀しい感覚があります。ガッカリが倍増するようなかんじです。当事者なのにわかってくれないのかよという怒りも湧きやすい気がしました」
成瀬「残念ではありますが、ピアスタッフ同士でもわかりあえないことはあるとおもいます。たとえば統合失調症と双極性障害ではおなじ経験をしてきたとはいえませんが、現状では『ピア』とひとくくりにされがちです。ほんとうは違うのにそこをひとまとめにするのはかなり無理がありますよね。相手の病状や過去の背景を尊重せずに発言されることもあります。それぞれの専門領域がありますし、経験は武器ですから、それぞれの武器の正当性を示したい方もいるとおもいます。それは各々の正義なのでかまわないのですが、その言葉を向ける相手のことをちゃんと考えられるかどうかですよね。相手が利用者であれピアであれ、相手のことを考えられていない時点で『有害性』があるようにおもいます。わたしは心理の勉強をしているのですが『なによりもまず無害であること』と教えられているので、そこに関しては特に重要視しています」
じぶんがされていやなことはしない。シンプルだけど大事なことですよね。その発見は今後のお仕事になんらかの形で生かしていけそうですか?
千里「たまたま夏の灯を利用した翌週に、定例の面談があったのでまずお詫びをしたうえで、ぼくから自己開示をおこないました。おなじように言われてすごく苦しかったという経験をはなし、メンバーさんにとってどこが『寄り添ってもらえていないようにかんじたのか』という部分をきくことができました。一度綻んだ信頼をとりもどしていくのには時間がかかりますが、まずは対話をしておなじ時間をすごすという原点にたちかえろうとおもいました」
成瀬「すごく素敵ですね。相手もその自己開示を受け入れてくださったのであれば介入のチャンスはまだあるというか、完全にきれたわけではないというのが安心できますね」
千里「就労訓練の経験がないのは事実なので、そこはむしろ”体験者”であるご利用者さまにおしえていただこうというスタンスにかえました。どんな悩みがあり、どうしていきたいのか。そして、どうしても通所型の施設だと施設内での言動に目を向けがちになってしまうので、普段の生活やここにくるためにどのように整えていらっしゃるのかについても訊くことで、相手の背景についてしっかり考えていくことができたらいいなとおもいます」
成瀬「今回はたいせつなお話をありがとうございました。限られた時間、限られた人員ではありますが、なにか掴むきっかけにしていただければとおもって夏の灯の取り組みをしています。もちろん相談でなく愚痴を吐きにきてもらってもいいですし、茶話会のようにつかっていただいてもかまいません。夏の灯は運営と相談者さまだけでお使いいただける時間です。千里さんのお仕事の進捗もよければまた聴かせてくださいね」
空色のとりくみについては記事にまとめています。ご興味がありましたらメールアドレスにお気軽にご連絡ください。千里さん、成瀬さん、今回のインタビューにご協力いただきありがとうございました。
ライター 藤堂