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【小説集】

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自作の小説をまとめています。おやすみ前のひと時に読んでもらえたら嬉しいです。
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#SF

【小説】創造主は今宵ダンスを踊る

前回はこちらから 後編・舞曲(メヌエット)② 「おはよう、ウクソル」  博士がミシミシと床を軋ませながら、作業室に入ってきた。そこには彼の妻の充電ポットも置かれていたから、だから彼は入室するなり朝の挨拶を口にした。 「おはよう、クレアーレ。よく眠れたかしら?」  博士は微笑みながらウクソルに向けてウィンクをした。  ウクソルはといえば、頭部の冷却ファンがフル稼働しているにもかかわらず、こめかみあたりに帯びた熱がなかなか冷めてくれないのを忌々しく思っていた。快適な目覚め、と

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【小説】創造主は今宵ダンスを踊る

前回はこちらから 後編・舞曲(メヌエット)①  ウクソルは思考していた。  自身のアイデンティティの確立、その契機となった因子について。もう幾度となく繰り返してきた思考である。なぜ自分がそれにここまでこだわるのか。自らへのその問いかけすらもそこに内包しつつ。  ウクソルはロボットだ。頭部には、人間の目にあたる部分に楕円形のライトが取り付けられ、ウクソルの感情に合わせて色調を帯びて明滅する。喜びを表す時はオレンジ、悲しみはブルー、というように。 それから胴体と腕があり、下

【小説】創造主は今宵ダンスを踊る

前回はこちらから 前編・前奏曲(プレリュード)②  その国は世界で唯一のロボット生産国であった。唯一である、ということは世界シェアが100%ということだ。その国で生産されたロボットたちは世界のありとあらゆる国と地域に輸出されていった。軍用から始まり、警備、製造、人命救助にサービス業。その存在はもはや人間に取って代わりつつあった。  人間はロボットを管理するためだけの存在に変貌しつつあった。ロボットたちにとってみれば、神のような存在なのかもしれない。もっとも、最新のAI技術

【小説】創造主は今宵ダンスを踊る

前編・前奏曲(プレリュード)① 「新入りよぉ、お前ここに落っこちてきてどのくらいになるね」  地面に転がった鉱石をトロッコに投げ入れながら、襤褸の布切れを纏った、痩せこけた禿頭の男が叫ぶように問うた。無造作に伸ばした髭をかき分けて覗く口の中の歯は、ところどころ抜け落ちてしまっている。 「三年」  初老の男の問いかけに不愛想に答えたのは、見た目にも筋骨逞しく、一心不乱につるはしを振るう青年だった。汗が顔から、首筋から、露出した肌の全てから噴き出している。この地の底では、惑星の