SORABITO株主対談企画:パーソルテンプスタッフ編
SORABITOがビジョンとして掲げる「建設のあらゆる現場をスマートに」を推進するパートナーとして、2023年2月にSORABITOヘの出資を発表したパーソルホールディングス株式会社。今回はグループ子会社のパーソルテンプスタッフ株式会社(以下PTS)の執行役員である藻谷様をお迎えし、両社の建設業界における取組みや今回の出資の背景、そして今後の協業案について対談させていただきました。
SORABITO 資金調達プレスリリース:
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本対談のスピーカー:
パーソルテンプスタッフ株式会社 執行役員 営業推進本部 本部長 藻谷 裕二 様
東京都武蔵野市生まれ。幼・小・中と自閉症児との混合教育を実践する学校へ通い、「人への思いやり」持つことの大切さ感じながら育つ。大学卒業後、大手飲食店チェーンに就職。飲食業界は様々な立場のスタッフが働いており、ここでの経験が「人に関わる仕事」への想いを強くする。2001年テンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)入社。人材サービスの法人向け提案営業などを経て、2018年より第一営業本部本部長、2020年より執行役員に就任。現在、都市部エリアを管轄し、約5万人の稼働スタッフと約1,000人の社員を率いる
SORABITO株式会社 取締役会長 ファウンダー 青木 隆幸
愛知県にて代々続く建設会社の長男として生まれ、幼少の頃より建機が身近にある環境で育つ。2011年の東日本大震災をきっかけに起業を決意し、建機流通事業を展開後、2014年に「世界中の明日をつくる」をミッションとしたSORABITO株式会社を創業。国内最大級のスタートアップピッチコンテストIVS Fall 2016優勝
「属人化」と「組織の縦割り」の解決に正面から挑むパーソルテンプスタッフ
ー本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます!PTSさんは様々な業種のお客様がいらっしゃいますが、その中で建設業をどう見ていらっしゃいますか?
藻谷様:建設業は日本そして社会を支える業界であり、市場規模も存在感も大きいですよね。だからこそ、日本の社会課題が凝縮されていると思いますし、我々としてお客様の課題に向き合って、少しでもお手伝いできる範囲を広げたい業界になります。労働力の不足、高齢化が特に進んでいることから、人材のご紹介に加えて、組織の生産性自体を上げる取組みを提供していく必要性を感じています。
ー「労働力不足」と「高齢化」というキーワードが出ましたが、どのようなサービスを提供されていますか?
藻谷様:建設会社のコーポレート職や建築現場で働く専門職の方々をサポートするオフィスワーク系の人材派遣サービスに強みを持っています。また、建設業界は2024年4月から残業規制の強化が始まることから、各社が急務で業務の見直しや組織・制度の見直し、人材育成など様々な取組みをされています。こうした取組みに対するご支援ができるよう、パーソルグループでは人事制度の改訂や組織・業務改善のコンサル、BPO等のサービスも提供しています。
ー人事制度の改訂や業務改善ということで、お客様に深く入り込まれている印象を受けましたが、建設業界特有のご支援の難しさがあれば、ご教示いただけますか?
藻谷様:日本を長年にわたり支えてきた歴史のある業界なので、今までのやり方を大事にされている、つまりプロフェッショナルな人材が多い故に、属人的な業務も多い印象があります。また、建設会社は各現場が主導になりますので、組織の縦割りがどうしても生まれやすい構造です。そのため、会社全体の課題として提案させていただいても、ソリューションの活用が現場単位となってしまい、一気通貫で物事を動かすことの難易度が高いという特徴はあると思います。
ーSORABITOもITソリューションを浸透させる立場として、組織の縦割りを感じる機会はあって、貴社がそこを突破する工夫があれば、ぜひご教示いただきたいです。
藻谷様:人材業界における当社の強みと自負していますが、「お客様のために」ということで、1社1社、そしてご担当者様1人1人ととにかく向き合うことだと思います。個人が持たれる課題を密度濃く伺う中で何かしらの糸口が見えてきますので、ポイントを掴んだらどんどん切り開いていきます。1つのサービスを紹介すれば、組織の中でどんどんヒットして拡散するといった簡単な世界ではなく、顧客の組織と個人の課題にどう向き合うかがポイントだと思っています。
DXを通じて実現した働き方や業務の魅力を求職者にどう伝えるか
ー今回の記事は建設業界の多くの皆様にご覧いただけると思いますが、建設業界において、優秀な人材の獲得や人材の定着が成功している企業の共通点があれば伺いたいです。
藻谷様:建設業界は専門性が高いからこそ、今までは業界内で人材を取り合っていましたが、世の中全体が労働力不足という現在では、業界を超えた人材の獲得競争が前提になっています。コロナ禍でリモートワークが一気に広がった中で、求職者に対して「従業員の働く」にフォーカスした企業の取組みが見えるか否かによって、人材獲得や定着の成果に大きな違いが生まれます。例えば、リモートワークの有無、それが週に1回か2回か等で求職者からのエントリー倍率が4倍くらい違うんですね。つまり、職場で許容できる働き方の柔軟さの違いによって良い人材をご紹介できる範囲が限られてしまうことを認識する必要があります。同様に「働き方」を示す取組みの1つにDXがあります。DXによって、人がこれまでやってきた業務のうちロボットやITに置き換わるものが一定ありつつも、人でなければ対応できない業務の価値は高まるはずです。働く=「仕事のやりがい」でもありますし、業務がどんな価値を生むのか?を示すことができる企業は、求職者から選ばれる可能性が高くなると思います。
ーリモートワークはわかりやすい例ですが、DXのアピール方法は各社で工夫の余地があると思います。例えば、DXソリューションの開発や社内業務のフルクラウド化など、どういう見せ方が良いのでしょうか?
藻谷様:求職者に難しい言葉を並べても理解されずに終わってしまいます。DXの取組みそのものではなく、その結果、どんな職場環境なのか、どんな働き方ができるのか、どんな仕事が望めるのか?を伝えることができれば、求職者の心をつかむことができます。例えば、紙伝票の入力作業を毎月何百件やりますということであれば、求職者は紙のボリュームに引いてしまうのが最近の実情です。IT化によって働きやすい業務内容に進化していることを伝えることができれば、求職者の印象は大きくプラスに働きます。
青木:とても勉強になります。建設会社や建機レンタル会社から「DXをやりたい、何かを変えなきゃ」という声が沢山ある中で、求職者にとって大事なことは、DX手法ではなく、その先の働き方なんだという採用の本質に触れていただいたと思います。オフィスに段ボールが何箱も積み上げられているレンタル会社も少なくないですが、DXを通じてペーパレス化に成功しているレンタル会社もあって、机の上がとても綺麗なんですね。どちらが働くインセンティブになるかは一目瞭然です。我々自身の営業スタイルとしても、理想の働き方を想起させるような伝え方が必要かなと感じます。
藻谷様:あと、紙に加えて、電話への関与を減らしたいという求職者は多いです。いきなり電話がかかってくるので準備ができない、しかも、どう対応すれば良いか分からないという不安があるということです。また、社内外に関係なく、対応時間が読めない電話に対応したくないという声も少なくありません。電話を減らす工夫が日常の働き方の中でどう取り入れているかは求職者にとって重要です。
ー人材が減っていく一方の建設業界は、業界外の人を建設業に連れてくることが大事だと思っています。働き方や職場環境の紹介はもちろん、業界外の人に何を伝えることが有効でしょうか?
藻谷様:やはり「やりがい」だと思っていて、どういう商品を作っているか、そこに携わることでどんな魅力があるかを伝えることだと思います。求職者がそこで働きたいというイメージを持てるか、その仕事をいかに身近に感じられるかが入り口になります。例えば、建設業界であれば、こんな橋、こんなビルを作っていますと視覚的に訴えることもできますよね。
青木:建機レンタル業界は本当に意義のある仕事をされていますが、レンタルされた機械がどの現場で使われて、どんな建物が出来上がっているかを知る機会は本当に限られています。求職者への見せ方は一層工夫が必要なんだろうなと実感します。
付帯業務をとにかく減らせるよう貢献したいSORABITOの挑戦
ーSORABITOは建設テック企業として業界にどっぷり浸かっている立場ですが、青木さんは建設業をどう見ていますか?
青木:藻谷さんに触れていただいた2024年問題に関連して、社会インフラの基盤を作ってきた時代に比べて労働人口が約120万人も減っています。また、55歳以上が約35%・29歳以下が約12%しかなく、高齢化がかなり進行しています。建設業界は技術の集合体であり、一朝一夕で技術がすぐに身に付くものではありません。技術力をもった方々が大量に退職する時期が迫っている中でどう継承していくかという課題は大きいですよね。一方、この10年で明らかに変わってきていることがあって、スーパーゼネコンを中心に大手建設会社や建設業界に携わる学者の皆様が、海外の事例も参考にしながら、建設業界を良くすべく真剣に向き合われていることを強く感じます。例えば、立命館大学の建山教授の調査によれば、主体業務と付帯業務のうち後者が50%以上あったという結果が出ていて、これだけある付帯業務を短くすれば、生産性UPへの道筋が見えてくるわけです。
また、地方のゼネコンもここ数年盛り上がり始めていて、静岡県の三島にある加和太建設が運営する「ON-SITE X」という建設会社とスタートアップを結ぶコミュニティがあります。そこでは、スタートアップのサービス作りのために現場が課題を教えてくれる、そしてソリューションの実証実験ができる場を提供しています。仮に成功体験ができれば、他の地域や会社にも還元できる、そんな仕掛けを地場ゼネコンが主導しているわけです。
最後に建機レンタル業界にも触れたいと思いますが、建設会社の御用聞きとして、借りたい機械を依頼されたら用意するというイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば、住宅の密集地にある大木を細い道からどう出すかという難題に対して、色んな現場を見ているレンタル会社だからこそ、豊富な商品知識をもとに解決策を提案する、つまり自ら仕事を作るといった事例が沢山あります。ただし、こういう提案を誰もができるわけではないんですね。その理由は、社内システムの都合上、過去事例をインプットすることが容易ではないこと、そして、付帯業務が多いためにめちゃくちゃ忙しいことがあります。だからこそ、SORABITOのソリューションを通じて、未来のレンタル事業の当たり前を作りにいきたいと思っています。
このビルの窓から見える建物の全てを作ってきた人達が建設業界だと考えれば、本当に偉大なことをしていると思います。建てるだけではなく、そこから維持・管理する責任も負っているわけですね。つまり、建てれば建てるほど、維持管理のために現場が増えていきますから、付帯業務をとにかく減らせるよう貢献したいと思っています。
ーSORABITOは建設業界に対して、具体的にどのようなサービスを提供していますか?
青木:主力事業に「i-Rental」(アイレンタル)があります。具体的には、建設会社とレンタル会社間で行われるレンタルの受発注業務をオンラインで効率化する「i-Rental注文」と、レンタル会社の内部業務をオンラインで効率化する「i-Rental受注管理」があります。2021年2月に開始したi-Rental注文は建機レンタル業界の多くの企業様にご契約いただいており、事業としては順調に伸びています。前者は紙と電話、後者は紙やデジカメなどのアナログツールによって生じる付帯業務を減らしていくことを目指しています。実際、i-Rental注文でレンタル業務が20%削減された建設会社も生まれています。また、2022年7月には建設業界専用のクレジットカードである「建設スマートカード」の発行を開始しました。クレカ事業をやりたかったというより、建設業界で働く皆様がこの業界で働くことが幸せである、誇りに思えるサービスを作りたい想いがあり、去年11月末には建設事業者の登録数が100万人を突破した「建設キャリアアップシステム」(以下CCUS)との協業を始めています。
サプライチェーンをまたぐ本質的な課題解決に挑む両社の親和性
ー青木さんの熱い想いを交えながら、SORABITOのサービスを紹介しましたが、パーソルホールディングスさんはなぜSORABITOにご出資いただけたのでしょうか?
藻谷様:まさに今お話いただいた内容ですよね。建設業界に対する熱い想いへの共感が第一です。我々のビジネスは派遣や人材紹介、BPOといった人材サービスを軸にしていますが、建設会社にとっては、課題解決方法の1つでしかありません。我々は、組織・業務改革等を通じて根本的な解決を目指していますが、例えば、様々なITソリューションを見ても、多くは、建設現場内の業務や建設会社の事務業務など、ステークホルダーが限られる範囲を対象にしています。業界の構造上、組織が縦割りなので局地的な解決策にならざるを得ないわけです。その中で、SORABITOは建設とレンタルを一気通貫でつなぐ、サプライチェーンをまたぐ領域に胆力を持ってトライしています。ソリューション自体の難易度と浸透させる難易度、いずれも高い挑戦をされていること自体が魅力だと思いますし、青木さんの想いである「顧客と一緒に未来を作り上げる」、つまり1社1社の現場に寄り添っていくというスタイルは、冒頭に申した当社のスタイルと親和性があります。御社のような企業と組めば、業界の大元の課題解決につながると感じましたので、出資させていただきました。
ーとても嬉しいお言葉ですね。一方で、SORABITOはパーソルさんからのご出資にどのような期待がありますか?
青木: 建設現場も建機レンタルの営業所も日々の業務を遂行する人材が欲しいし、さらにDXソリューションを社内に導入できる人材、つまり会社が変わるための人材も欲しいという声をいただきます。私も実家が建設会社ですし、人軸でもこの業界に貢献したいという想いがありました。こうした想いに対して、パーソルグループの皆さんは当社に目線を合わせて向き合っていただけるので、最良のパートナーになるのではという期待があります。待ったなしの業界なので、貴社と一緒にスモールスタートで良いので、まずは人材供給という形で何か一緒に解決できれば良いと思います。また、最近では、BIM/CIMやICT施工に対応できる人やそれらをレクチャーできる人、つまり建設業の高度化に対応できる人材が不足しているという新たな課題が生まれています。例えば、遠隔操作のためにはプログラミングスキルを持つエンジニアが必要になります。個々の会社単位では人材育成に限界があるので、こうしたニーズが高まる3-5年後を見据えて業界全体で人材供給をどう仕組み化するか?PTSさんと一緒に検討していければ嬉しいです。
2023年は人材供給を軸に両社の協業元年に!
ー藻谷様はSORABITOとどんな協業を実現したいですか?
藻谷様:まずは建設会社や建機レンタル会社への人材派遣サービスを軸に進められないかと思っています。SORABITOが建設とレンタル間の調達活動をITでつなぐという仕組みを構築されていく中に、我々の人材供給のソリューションを組み込んでいきたいと思っています。
また、青木さんの話と近いですが、求職者に求められるスキルがどんどん変わってきています。これまで必要だったオフィスワーク系のスキルに加えて、コミュニケーションツールやレンタル発注に使うツールに対応できること等が求められ始めています。SORABITOと組むことで、この業界の現場感がより精緻に把握できるようになりますし、その結果、人が介在すべき領域の価値をより高められるような人材やソリューションを供給できるのではないかと思っています。
青木:一方で、DXを浸透させる上で組織風土を変えるという難題に向き合うPTSさんから当社が学ぶべきことは本当に多いと思います。例えば、各県を代表する売上数百億円規模の建機レンタル会社の多くが、DX本部やDX推進室という組織を持ち始めていて、DXを通じてどう変われば良いのか、そのためにどういう人材が必要なのか知りたいというお声はとても多いです。
ー先ほど青木さんには協業イメージを共有いただきましたが、他にもアイデアはありますか?
青木:建設業界に人を集めるという観点では、若い人たちに建設DXの魅力をいかに伝えるかが重要だと思っています。例えば、当社のセミナーでご一緒させていただいた伊藤忠TC建機さんが「e-建機チャレンジ」という遠隔操作を競うイベントを通じて、大学のe-Sports団体にアクセスしたり、ゼロワンブースターさんが建設領域にフォーカスしたベンチャースタジオを運営したりしています。なので、例えばPTSさんと当社で、建設会社や建機レンタル向けに採用セミナーや就活イベント等ができないか?と思っています。
この記事は当社の顧客である建機レンタル会社の営業所長さんや建設会社の現場監督さんも読んでいただけるはずですので、人材採用に関するお悩みをSORABITOにご連絡いただければ、PTSさんをすぐにご紹介したいと思います(笑)
また、当社が協業しているCCUSさんとPTSさんが連携する可能性も大いにあると思います。CCUSが有する個人107万人、法人14万社というデータを活用して、建設従事者のキャリアをどう向上させていくかという課題があって、PTSさんのノウハウが必ず活きるはずです。
ー最後に、本日のご感想などあればそれぞれ伺いたいです。
藻谷様:建設業界そして社会全体の課題解決という目線でソリューションを作っていくという青木さんの熱い想いに直接触れて、改めて共感できる機会になりましたし、SORABITOには期待しかないと思いました。建設現場やレンタルの営業所の深い部分まで入り込んでいく中に当社も参画させてもらっているので、人と人をつなげて業界の課題解決に貢献できればと思っています。
青木:機労材の調達DXという当社のビジョンがある中で、2023年は、建機に加えて人の課題解決に動いていきたいと思っていますので、PTSさんと是非色んなトライをできれば嬉しいです。
藻谷様:例えば建機レンタル会社向けに派遣人材の活用や求職者の動向をお伝えするセミナーなどをSORABITOと一緒に開催できれば良いかもしれませんね。人材の紹介だけではなく、更にプラスになる情報を提供できれば喜んでいただけるかもしれません。
青木:とてもニーズがあるはずです。ぜひ、やりましょう!
今回は対談記事をお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
建機レンタル会社をはじめ、建設業界の皆様でパーソルホールディングス様やSORABITOのサービス利用、またSIRABITOとのアライアンス等にご興味をお持ちの企業様がいらっしゃれば、是非お気軽にお問合せください。
(取材・編集・文:定田 充司 / 写真:宇佐美 亮)