津和野旅情~安野光雅の世界を訪ねて~
昨年から続く混乱は少し落ち着いたように思いますが、気軽に旅行に行きましょう、というわけにはいかず、代わりに旅番組や安野光雅さんの『旅の絵本』などを見ては、昔の旅に思いを馳せています。
子どものころ、夏休みには家族旅行やキャンプに行き、楽しかった思い出はあるのですが、記憶が薄れているものも多く、よく父に
「おまえは覚えとらんどな~」
と言われます。しかしどうしても忘れられない場所もありました。
その一つ、島根県津和野町です。もう30年近く前に行った場所なのですが、自分の感性にぴったりあったのか、ずっと地名や街並みを覚えており、津和野がよかった! ということは繰り返し家族内でも口にしていました。
津和野という地名を知らないという方のために、ちょっと説明を加えますと、先述した絵本作家安野光雅さんや森鴎外の出身地でもあり、萩とセットでガイドブックにも掲載されている観光地としても有名です。
追加、ちょっと島根観光ナビから引用です。
山陰の小京都と呼ばれる津和野。島根県西部の穏やかな山間にある、美しい隠れ里のような町です。町の中心部にある殿町通りは、城下町時代の古いたたずまいを残すとても魅力的な場所。藩校養老館跡、郡庁跡、津和野藩家老多胡家表門、カトリック教会などたくさんの歴史を感じさせる建物が集中しています。
そして通りに沿って流れる掘割には、白壁や並木の緑が映り込み、赤、白、金、黒など、300~500匹の色とりどりの鯉が泳いでいて、本当にきれいです!
私の心に残っているのは、このホームページの情報通り、城下町の風情が残る通りの両脇に水路があり、そこを泳いでいる鯉、複数の教会。そして、そんな街を自転車に乗って回ったこと。まるで別の世界に来たかのような感動を覚えた記憶があります。
再びの津和野
実は30代に入り、何十年かぶりに一度訪ねたことがあります。
東京からのアクセスは想像以上に時間がかかり、半日かけてようやく到着。興奮を抑えられないまま、ますは駅前にある第一の目的地、安野光雅美術館へ。そこでたっぷりと安野ワールドを堪能したあと、町を散策しました。
当時の記憶のまま、きれいな石畳の通りの脇に水路があり、そこにはたくさんの鯉が泳いでいました。日本家屋の中に突然現れる津和野カトリック教会、街中を流れる高津川、あぁ家族で貸自転車に乗って街を巡ったなぁ、と記憶が蘇ります。
子ども時代には気づきませんでしたが、青野山をはじめ、山々に囲まれた盆地に、赤褐色の石州瓦の屋根が連なる街並みはなんとも風情があります。それを高いところから一望してみたい! と津和野城跡から街を眺めることにしました。
おそらく子供のころには登っていないはず。朝早く出かけ、日本五大稲荷に数えられる太鼓谷稲成神社(全国で唯一稲成と表記するそうです)を参拝し、更に山を登っていくと、津和野城跡があります。想像以上に道は自然のままで、足元に気を付けながら進んで行きます。
途中聞こえる野球少年たちの掛け声、川にかかる橋や鉄橋がきれいに見える絶景ポイント(安野さんもここから描いたのかな?と思える絵があります。)を楽しみながら、ようやく到着しました。頂上からの展望は、まさに安野光雅さんの絵の世界で息をのみました。線路が見えて、電車が駅に向かっていく様子、その駅周辺の集落の赤い屋根の家々、キラキラ輝く田んぼや畑。季節、天候や時間帯のタイミングが良ければ、ここからは雲海が見えるそうです。
太鼓谷稲成神社の麓にある、黒いいなり寿司が有名な、津和野で最も古い食堂『三松食堂』にもお邪魔しました。黒い見た目にはびっくりしましたが、甘めに煮られた油揚げ、つやつやと米粒が立っている寿司飯のバランスが抜群で大変美味しかったです。その他、町に何軒も専門店がある源氏巻、郷土料理のうずめ飯など、美味しいものもたくさんで、グルメもお薦めです。
原稿を書きながらまた訪れたくなっています(笑)