空に消えて行った命たち
75年前の、あの日と同じように夏ゼミの声が響き渡る中。原爆投下時間に合わせてならされた追悼の鐘の音は、青空に吸い込まれるように消えていきました。
先の大戦では、多くの人々が尊い命を失いました。しかし犠牲に成ったのは人間だけではありません。沢山の動物たちの命も、人間同士の愚かな戦いの犠牲になりその大切な命を奪われていったのです。
軍用の馬や犬は、生きたまま船で長い時間をかけて戦場まで運ばれました。
飼い主と引き離されて、生れた場所とは全く違う外国で、銃弾や砲弾の飛び交う恐ろしい戦場を人間と共に戦わさせられ命を落としていった動物たちのことを想うと。何ともやるせなく胸を締め付けられような気持ちになります。
戦争も、末期に成ると日本中が物資不足になり、家の飼い犬や猫まで、航空隊員の防寒具の毛皮や不足する肉の代わりとして供出させられました。
昔の事ですから、ペットが今のように家族同然に可愛がられていたわけではありません。しかし、それでも子供のころから可愛がって育ててきた飼い犬や猫を差し出すのはとても忍びない事だったでしょう。
ですが、お国の為にと言われれば断るわけにもいきませんでした。なぜなら、もしも断ろうものなら非国民と罵られ役所や警察からも罰を受ける事になったでしょう。
原爆の犠牲に成ったのは人間だけではありません。多くの動物や昆虫たちも人と同じようにその命を失っているのです。
戦後75年たち、日本では、あの悲しみを忘れてしまったのかのような声が聞かれるようになりました。
そして、現在のコロナへの政府の対応で十分な補償がないにもかかわらず自粛違反したものには罰則をとの話や、コロナへ感染した人たちへの思いやりのない言葉を投げかける人々の存在をみると。
今の日本の状況は、あの当時の状況と似てきているのではないのかとさ思えるのです。
私たち日本人は、再びあのような過ちは繰り返さないと世界に誓ったはずです。
私は、原爆投下時間に合わせてならされる追悼の鐘の音は、人間だけではなく、共に空に消えていった多くの生き物たちの追悼の鐘の音でもあると思っています。
世界中どこであっても、再びあのような過ちは繰り返してはならないのです・・・。
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供出については、アニメにもなっている有名な作品ですからご存知の方も多いと思いますが。飼い犬の供出について書かれている椋 鳩十さんの名作「マヤの一生」をお読みになる事をお勧めいたします。
(「マヤの一生」は、とても悲しいお話しです。ですから、最後まで読めない方もいらっしゃるかも知れません。読み終わって泣いてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、戦争の残酷さを知って、二度とこのような社会にしてはいけないのだという事を知っていただきたいとの思いからあえてご紹介いたしました。)
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空に消えて行った命たち
終り
2020.8.6