「実存は本質に先立つ」——サルトルの1945年10月の講演より
サルトルが語った言葉で最も有名なものの一つである「実存は本質に先立つ」(仏: l'existence précède l'essence)。戦後すぐの1945年10月にサルトルがパリのクラブ・マントナンで行なった講演「実存主義はヒューマニズムであるか」において最初にこの概念が提起され、実存主義における基礎的な観念・概念となった。サルトルの妻シモーヌ・ド・ボーヴォワールはこの考えを基に、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という言葉を残した(今の時代においては、ボーヴォワールの言葉のほうがめちゃくちゃかっこいいですね)。
講演では、この「実存は本質に先立つ」の思想のあとに、アンガージュマンや主体性といったことが語られる。第二次大戦後、人々が打ちひしがれ、世界が荒廃していたときに、このサルトルの実存主義宣言とアンガージュマンの思想が人々の心に希望を灯したことは想像に難くない。
この講演が行われたクラブ・マントナンは超満員の聴衆に埋め尽くされ、新聞各紙は大きなページで彼の講演会風景にあてたという。一知識人の講演が(しかも哲学者の言葉が)これだけ多くの人々に影響を与え、メディアをにぎわすということは現代ではあまり考えられない。時代的な状況というものがそうさせたということもあるだろう。しかし、実存主義哲学においてサルトルが残した功績というのも、ヤスパース、ハイデガー、メルロ=ポンティに劣らずに大きなものであるということも間違いない。