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行動指針はなにか?

「神は死んだ」。聞いたこともある人がいるのではないでしょうか。ニーチェの言葉です。

ググってみるとこんな説明が出てくる。

「神は死んだ」のGoogle検索結果

宗教的価値観が崩れ、新しい行動指針を科学や合理性に求める社会の変化と言えます。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』では、カルヴァンの予定説により、「内面的な孤独化」と「脱呪術化」が生まれたことで合理化が進んだ。

予定説では「予め救われる者は既に決まっていて、人間の行いによってはどうすることもできない」という考えです。これにより、カトリックでは救いのために必要だったお祈りや懺悔は意味をなさないものになった(脱呪術化)。また、救われる者は既に決まっているため、誰に何を言われて何をしたとしてもどうすることもできなかったため、信者は内面的に孤独になりました。

そこで持ち出されたのが、労働です。聖書の一節には、選ばれた者(救われる者)が善行を成すことが書かれており、自らが救いの印を得るために労働に明け暮れました。その成果は救いとはなにも関係ないにも関わらずに。

聖書の教えを信じ、神からこ救われるために合理的に労働を行う。得られた富は無駄遣いが許されていなかったため、資本として再投資される。これが、プロテスタントがお金稼ぎを合理化し、資本主義下で成果を残していた理由です。ですが、時が経つにつれ、キリスト教精神は忘れ去られ、金稼ぎだけに走っていくことになります。ベンジャミン・フランクリンの名言「時は金なり」もその系譜にあります。

経営学の考えに、「アート」「クラフト」「サイエンス」の3要素が重要とされるヘンリー・ミンツバーグの理論があります。「アート」がビジョン示し、「サイエンス」で裏付けを取り、「クラフト」で作る。という構造です。

キリスト教社会では、「アート」と「クラフト」のみが動いていたことになります。「自分が救われるため」というビジョンに向かって、「実際に何ができるか」という行動を起こす。「救われる」ということに対しての証拠、エビデンスはありません。

これが、「神は死んだ」と言われるように、何か共通の目標が失われ、科学の名の下に行動するようになったのが「サイエンス」(新たな神)と「クラフト」偏重の現代社会です。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』では、資本主義という仕組み(合理性)の中での私たちは、機械の歯車のようにはめ込まれて生きざるを得ないというのです。これは、資本主義(サイエンス)を動かすための私たち(クラフト)という状態です。

そんなサイエンスとクラフトに偏った社会では、同じような答えしか出てこないのが「正解のコモディー化」と呼ばれます。つまり、どの企業が何をやろうとしても似たり寄ったりのものになってしまう。

そうならないために「アート」が必要とされます。例えば、GoogleやAmazonは「世界中の情報を整理し、誰もがアクセス可能にする」、「インターネット上で、お客様がオンラインで求めるあらゆるものをいつでも検索し発見できること」のような出来そうでできない目標を掲げています。そうすることで、たとえ、サイエンスやクラフトが似ていたとしてもそこにはビジョン「アート」があるので差別がされます。

深井智朗『プロテスタンティズム』では、GAFAのような企業をメガチャーチと呼び、信者を独占するような教会に見立てた説明をしていました。似たような企業があったとしても、「それAmazonでよくね?」というような状態です。理念に共感し、その企業から商品を買うのは、その宗教を信じるのと変わりません。

ニーチェは「神が死んだ」という言葉で、価値が上から与えられる時代は終わり、人間は自らの力で新しい価値を創造しなければならないということを示しました。この責任を担う存在としてニーチェは「超人」という概念を提唱しています。それは、従来の価値体系を超え、新たな意味や目標を自らの内から生み出す存在です。GAFAのような巨大企業は、まさにニーチェの言う超人のような存在なのかもしれません。彼らは単なる効率や合理性だけ(サイエンスとクラフトだけ)でなく、壮大なビジョン(アート)を提示し、共感を得ることで他社を圧倒しています。

「私たちは何を目的に生きていけばいいのか?」という悩みは、少なくともキリスト教の精神が失われていたベンジャミン・フランクリン(「時は金なり」の人)が生きていた時代にはあったので、ここ300年の歴史はありそうです。

そう考えてみると、「生きる意味は何か?」という問題は、差し迫って現れたわけではなく、同じように考えていた人がいると知るだけでも、少し救われるというか、落ち着くような気がします。


*個人的に、ニーチェ(1844-1900)とウェーバー(1864-1920)の生きていた時代が被っていて、知識が線になりそうで嬉しいです。

*ミンツバーグの理論と今の企業の意志決定については、山口周『なぜ世界のエリートは「美意識」を鍛えるのか』に詳しいです。


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