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オンライン時代の夏休み・授業のあり方を、当事者の学生と考える

世田谷区でも、タブレット端末を小・中学生1人1台に対して配備した初めての夏休みが間もなく終わりに近づき、
緊急事態宣言が9/12まで継続する中、どのように学校を再開させるのかが話題となっています

世田谷区は9/3よりクラスを分割し、
・オフ ライン班(対面で授業を受けるグループ)
・オン ライン班(タブレットで授業を受けるグループ)
による、いわゆるハイブリッド型 授業を始める予定です


従来はタブレット端末を活用した方が「便利」、一方で「扱いが難しい」「活用をするにはもう一歩」と、あった方が好ましい(あるいは使いにくい・不便)という評価でしたが、
今後(少なくとも緊急事態宣言中は)はタブレット端末を「使わなければならない(授業が進められない)」「使わざるを得ない」といったフェーズに突入します

また、タブレットの貸与がほぼ完了してから既に春休みも経ましたが、
当時から筆者も長期休暇中のタブレットの取扱について、貸与した上で家庭や本人に丸投げにしないために効果的な活用事例の共有や提案、長期休暇中のガイドラインの設定が必要では?と問題提起をしてきましたが、

夏休みと春休みで状況も異なり、
①進級を挟まないため、休み明けの課題・宿題がある
②期間の長さが異なる
③サマーキャンプやスポーツ競技等の長期休暇ならではの課外学習・プログラムに時間を使っている人が一定数いる

と、夏休みならではの特徴もあり、春休みにはない論点も存在していました

その上で、小学生の頃から、生活の中にコンピューターがあり、小・中学生時代からスマートフォン・タブレットを自由に使っていた現役 高校生・大学生も交えて、改めてタブレットの活用について考えました

【世田谷区の端末の状況】

▼端末
・iPad:第7世代 2019年 Wi-Fiモデル(MW752J/A)
・キーボードケース:Logicool社製 Rugged Combo3

▼運用の状況
・スクリーンタイム:利用できず(※そもそもApple IDのログイン不可)
・検索フィルター:cisco umbrella
・アプリ:mobiAppsによるホワイトリスト運用
・YouTube:R-18 以外の制限なし

ちなみに、2021年春の1学期間で行なわれた大きなアップデートは、
mobiAppsを導入して、教育委員会が選定したアプリの追加を可能にしたこと
・AI教材(AIドリル)
のQubenaを導入したこととなります


【端末そのものに関わる問題】

▼パソコンを使えない人が逆に増えているので、タブレットだけでは不十分では?

区の対応:PCのキーボード操作に慣れるためにもキーボード一体型ケースを採用している
 スペック上、PCが必要な作業については、現時点では各校に配置しているノートPCに委ねたいが2015-2016年製なので、iPadの方が処理能力が高いかもしれない
 発展的・高度な作業のためのパソコンの導入については改めて検討が必要

▼タッチペンが必要ではないか?

区の回答:1人1本のApple Pencil(第一世代 定価10,780円)は、予算的な制約で難しい

※・Apple Pencilの場合
  1本:10,780円×小中学生:5.0万人=5.4億 円
 ・安価なタッチペンの場合
  1本:2,000円-3,000円 × 小中学生:5.0万人=1億-1.5億 円

※※実際には下記の動画にあるように個人で用意して利用しているようです

(動画の最後に、イマドキの5年生はエビカニクスを本当に踊るのか?という疑問は残る部分もありますが、、)

▼現在の世田谷区の仕様ではホーム画面のカスタマイズができないが、今後 全画面ウィジェットにアップデートされる中で、現在のホーム画面が固定された運用から修正が必要ではないか

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 画像参照元:https://www.apple.com/jp/ipados/ipados-preview/

区の回答:これまでもOSのアップデートは、初期の不具合の調子を見た上でアップデートしており、原則OSのアップデートには対応する
今後のアップデート次第で、業者とホーム画面のウィジェット対応/ホーム画面編集も可能となるよう対応したい


【学習にどのように使うか?】

▼インストールしている/インストールできるアプリが少ない

区の回答:既に新たにインストールできる運用にしているが、ホワイトリスト自体がまだまだ少なく、拡充については学校からのリクエストに応じて対応したい

※mobiAppsというソフトで、学校からのリクエストを教育委員会がホワイトリスト化し、その中からは自由にインストールできる仕様となっています

▼タブレット活用自体は目的ではないのでは?
・英語やダンス等の見本・お手本の必要な授業に有効では?
・最終アウトプットを鑑みると、紙で覚えることのほうが有効的である場合も存在する(紙・ペンで受験する入試への対応)

区の回答:明らかにタブレットを活用した方がよい 音声や動画、遠隔とのコミュニケーションのような内容だけでなく、子ども一人一人が自由にノートとペンを使うか、タブレットを使うか、選べるようにしたい

※児童生徒の学びやすさではなく、先生の授業のしやすさに紐づくと、旧来型のやり方から変化が起きず、タブレット導入の利益が失われるため、教員のスキルアップが必要では?

→大学の授業でも担当教員のITリテラシーにより、オンライン授業のクオリティの差が激しい
 如何に教員間のクオリティの差をなくしていくの
か?

区の対応①:ICT支援員の増強(2020年:6名→2021年:12名)に加え、教員によるICTインフルエンサーを組織し、効果的な活用を広げようとしている
(※9月より12名のICT支援員を倍増し、週に1度は各校に常駐する形態となります)
24名のICTインフルエンサーの平均年齢は33.5歳
(20代:8名/30代:13名/40代:3名・10年目以下:17名/11年以上:7名)
ではあるが、ICT教育そのものは教育長が旗を振っているので、(一定レベルまでは)確実に推進していきたい
区の対応②「ICTを活用して教育の質的転換を図るための教員人材育成計画」を策定し、併せてICT活用教育ハンドブックを作成、活用事例の共有を進めている

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※・ICTを活用して教育の質的転換を図るための教員人材育成計画(pdf注意)
 ・ICT活用教育ハンドブック(pdf注意)

→ある程度の応用的なスキルが無いと、一度目を通すだけではどう活用すればよいかが分からないので、初心者でも理解できるようにすべき
ロイロノート・スクールAppleのチュートリアルは初心者も想定しており、分かりやすい

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【Apple Teacherの使い方の解説ページ】
https://appleteacher.apple.com/#/home/rp/T033528A

区の対応:ツールの使い方を解説する動画も現場の教員が作成・展開しており、解説書や手引の形態ではなく動画で苦手な人も理解できるように用意している
※筆者も動画を見せて頂きましたが、最低限のパソコン/タブレット操作ができる人であれば、誰もが理解できるレベルのチュートリアルでした


▼AIドリルを活用して、1人1人の得意・不得意に対応することがデジタル教材の利点では?

区の対応:2018年度より中学生向けの電子ドリルの導入は行なっていたが、当時のログイン実績は半数程度だった
(※筆者注:授業外の自主学習用として導入したものの、既に進学塾等で授業外で学習をしている中学生が相当数おり、塾と重複する機能を持つ電子ドリルは利用が進みませんでした)

2021年4月よりAI教材 Qubenaを小学3-6年生・中学生に導入し、自主学習機能だけでなく、授業内でも利用することで一人ひとりの授業理解の把握や授業全体の改善にも役立てていきたい

※AIドリルとは?

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引用元:https://qubena.com/service/math

AIによる個人最適化によって、みんなが同じ問題を解くのではなく、個人のレベルと苦手な分野・つまづくポイントに合わせて一人ひとりに「解くべき問題」を自動的に出題する電子教材
従来の電子教材の正誤判定に留まらず、特に回答までの過程まで分析することで、どこにつまづいている要素があるのか詳細な分析が可能となっている


【どう制限をかけるか】

▼小1-中3まで同じフィルターをかける必要はないのでは?
(年齢に応じて制限を設け、段階的に緩和すべきでは?)
 e.g)10歳程度まで:生活の中で必要必需品ではなさそう
   ※10歳未満も、音声や映像の活用といった有用な使い方はある
   中学生以降:既に生活インフラになっている

区の対応:アプリについては必要であればリクエストに応じて追加しているので、不自由な状態で問題があるとまでは感じていない
 検索フィルターについては小1-中3まで同じ制限をかけている
 機体の制限についてはApple IDのログイン制限・App Store接続の制限を除き、特段実施していない

※さとえ学園小学校のレベルアップ型ルール

埼玉県の さとえ学園小学校では、スキルとモラル等に応じて、学習用iPadの制限を緩めた権限にして、より自由に利用ができる体制を整えているようです
MDM(mobile device management)には、世田谷区と同じくmobiconnectを利用しており、一定の基準とテストをクリアした児童には、より制限の少ない・できることが多い権限へ、レベルの変更を行なっているそうですが、
(逆にルールに違反するとレベルがダウンします)
各iPadの管理用IDをmobiconnect 内のレベル別のフォルダ(A・B・C等)に移動するだけで、レベル別の設定がそのiPadに自動的に適用されるため、最初に各レベルA・B・Cのルールさえ設定すれば、端末の管理工数は特段かからないようです

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レベルアップ型ルールの一覧

https://www.nichibun-seikatsu.net/case-study20200819/
さとえ学園小学校 山中昭岳教諭 の記事より画像参照

▼目を背けたくなる暴力的・グロテスクな表現、露骨に性的な表現もあるが、閲覧できるコンテンツを制限をすべきでは?

区の対応:検索については基本的にはcisco umbrellaの制限の仕様による
YouTubeでの動画検索もcisco umbrellaの制限をかけている

→YouTube見放題という懸念に対応できないのか
①Google for Educationで、視聴できる動画を区の指定した動画のみに限る ホワイトリスト運用を実施しないのか?
参考URL:https://support.google.com/a/answer/6212415

区の回答:できる限り自由に使えることが世田谷区の方針のため、YouTubeで試聴できる動画の制限はしない

②子どものアカウントによるログインとGoogleファミリーリンクによる制限を利用すれば、通常のR-18制限のみでなく、a.9歳-13歳・b.13歳以上というフィルターもかけられるが、こうした制限はしないのか?
※具体的な方法は下記をご確認ください

区の回答:保護者が個別に自分の子どもの端末のアプリに設定することは家庭の方針で実施して頂きたい
一方でこうした機能・設定の仕方等、区教委として学校や各家庭に案内することはしない

▼授業中の、端末への操作制限が必要では?
 制限ができないと授業中 別のWebサイトを見たりしているのでは?

区の回答:ロイロノート・スクールには標準装備されているが、全体でそのような機能を導入すると高額となるため導入していない
 そもそも授業自体が、以前のように長時間 黒板の前に教員がいるスタイルではないため、教室内を周る中で授業に取り組むことを担保している
※そもそも授業中に他のことをしているのは、iPadを導入したからではないという考え方もあります

【同意と個人情報をどう考えるか】

▼問題が発生することを前提に、お互いの責任や役割を明確化したポリシーづくりと同意が必要では?

区の回答:タブレット端末を貸与した際に、確認書の提出はさせているが、同意書までは取っていない
※意図的な破壊以外の破損等は区の責任で対応する予定

→必ず利用を求めるタブレット端末に対して、同意書という双方の同意を求める書類を提出させることで、同意が得られずに利用が進まないという矛盾した事態も起こりかねないという懸念もあります
(同意を取っている他自治体では、数時間・数日 保護者を説得して、同意書にサインを貰ったり、最終的に仮に同意が得られなくても利用させるしかないという方針のようです)

他地域の同意書の事例(何の同意を取っているのか
・人の許可なく勝手に他人の写真をあげてはいけない
・他者を傷つける言動は控える
・他者とタブレットの貸し借りをしない
・ある一定の通信料を超えてはいけない
・勝手な撮影の禁止
・自分および他人の個人情報をあげてはいけない
・不適切なサイトの閲覧禁止
・破損、汚染、損失時には費用を負担させるという旨(同時に財産保証保険の加入を勧めている)

▼授業内で公開をする作業ファイルだけでなく、
 検索履歴や動画の視聴履歴、AIドリルのログ、写真/動画/ボイスメモ等 極めて個人的な内容を取扱っているが、
 図書館の貸出情報や成績が個人情報として扱われる中、新たに取得した個人情報は適正に守られて
いるのか?

区の対応:貸与するタイミングで、
 ・検索のフィルタリング
 ・通信量のモニタリング
 ・学習データの蓄積
 ・検索/動画視聴 履歴の取得
については、プリント配布で伝達している
→個人情報の取り扱いについては、
・位置情報:区所有の財産の管理として、どの端末番号のiPadが何処にあるのかはmobiconnectで管理しているが、
  位置情報の閲覧権限:教育委員会
  管理番号と個人を紐付けるデータ:各 学校
と分けて運用しているため、個人の行動を誰かが確認できる体制にはない
また、iPad上の位置情報の設定で位置情報利用の権限をmobiconnectに付与しなければ(オフにすれば)、紛失時以外は位置情報が取得されることはない
※紛失の申請があれば、iOSの紛失モードを活用するため、端末ロックとともに位置情報の権限がオフになっていても位置情報取得を行ないます

・写真/動画/ボイスメモ:基本的にはローカル保存されるので、区として管理することはない。One Driveにアップされたデータはその他授業で作成・提出するデータ等と同じく安全性の担保をした管理をしている


・学習データの蓄積:既に2018年・2020年に審議会にかけた検討事項から不足はなく、基準をクリアした学習システムを選定することで問題は生じないと考える


・検索/動画視聴 履歴の取得:そもそも検索履歴/視聴履歴を区は取得できない

遠隔から確認できるのはドメイン( google.com / ja.wikipedia.org 等)までではあるが、問題が起きた場合は個別にiPad本体を預かって検索履歴・動画視聴履歴の調査・確認をする可能性はある)
としている
※検索履歴等のログを残すためのシステムも導入していないので、履歴の削除や、シークレットモード/プライベートブラウズについては追えない可能性が高いです


【新たな問題提起】

▼夏休みの宿題はこのままでいいのか?

そもそも夏休みという制度自体、冷房を全ての学校に設置できない時代の制度という論点もありますが、
夏である必要性・皆が一斉に休む必要性はなくとも、長期休みがあることにより、普段とは異なる学習や課題等に取り組めるという効果もあります

夏休みに関しては、
・既に休校対応を前提とした環境を構築した今、夏休みだからといって課題を40日後にまとめて提出させることは適切なのか?
(定期的に提出・評価をすることは、教員の負荷を鑑みると難しいのか?)
・家庭環境によって夏休みの勉強の状況も、既に習得している知識も異なる中で、みんなが同じ宿題をする意味はあるのか?
→AIドリルで課題や学習内容を最適化できないのか?
・それでも、自由課題を提出させることは個性を発揮・評価する場として必要では?
といった意見が出ました

区の現在の体制:そもそも昔よりは"夏休みの宿題"というものは縮小傾向にある
AIドリルで各自学習できる体制は整え、そちらも案内している
※一部の学校では、夏休み中も朝顔の観察の共有 等、クラス間のコミュニケーションを実施しているそうです

※ちょうどこの議論をしていた頃に、Abema Primeでも同様の特集をしていたので参考に貼っておきます
夏休みが より格差を広げているいるのでは?という問い掛けには向き合う必要があると考えます


▼「学校でeスポーツ」(eスポーツ部 等)はアリか?ナシか?

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世田谷区役所として大会も開催をしたり、振興し、世の中でも広がりを見せているeスポーツについて、
既に区内の私立学校では全国大会で優勝したというような話もある中、
現在の世田谷区立学校のフィルタリングではそもそもゲームについては、インストールやstreamといったサイトへのアクセスすらできません

今後は、
・スポーツ・芸術・文化系の他のアクティビティと、eスポーツの違い
・パソコン部・コンピューター部は既に存在する中で、"eスポーツ部"の特異性はどこにあるか
・税金で ほぼ部活用に高価な楽器を配備することと、ゲーミングPCを配備することとの違い
といった論点に向き合う必要がありますが、

少し前までダンスが学校の部活として認められていなかったのと同じく、
※日本中学校ダンス部選手権の第一回は2012年とのことです(wikipedia)

変化の遅い公教育の中で共存できるには、流行ではなく文化の一つとして教員や教育委員会の世代にまで定着する必要があり、教育委員会と話していても選択肢の拡大よりも新たなことを始めることへのリスク回避が上回るようで、まだまだ時間がかかる雰囲気です

※ちなみに、2019年のデータですが、世田谷区立中学校で所属人数の多い部活は、
1位:バスケットボール
2位:吹奏楽
3位:テニス
4位:サッカー
5位:バドミントン だそうで、
かつての、野球部こそ正義!のような時代から、好きなことが選べる世の中への変化の兆しを感じています

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