大濱普美子『猫の木のある庭』
文学賞にはそれほど関心があるわけではなくて、好きな作家が受賞したと聞けば、ああ良かったな、と思う程度なのですが、新人、ベテラン問わず虚構性を追求した作品に与えられることの多い泉鏡花文学賞は数少ない例外です。
大濱普美子、という名前はこの文庫が出るまで知らなかったのですが、「泉鏡花文学賞受賞作家の第一短編集」であり、さらに解説が「金井美恵子」であるという2点を頼りに手に取りました。結果はもっと彼女の作品を読んでいきたいと思わせるに足る、優れた一冊でした。
落ち着いた、端正な文章で語り手の周辺がつづられていきます。舞台の多くが年月の経った木造家屋であり、解説で金井さんも触れている通り、たいていは増築と改造が行われていることによって、懐かしさ(私より下の世代にとってはレトロ感覚でしょうか)を呼び起こしつつも、どこか歪んだ空間に読者を自然と導いていきます。とりわけ階段のあり方が特徴的で、「浴室稀譚」や「たけこのぞう」では特に存在感を発揮しているのです。
そうして大濱さんが紡ぎ出す、静謐でありながらも奇妙な空間から、ふいに異界が顔を出し、消えていくのですが、これみよがしなところが一切無い分、読者の心にその異界は深い余韻を残します。
覚めながら見る夢のようなその幻想世界は、まさに泉鏡花に通じるものを感じずにはいられません。
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