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荒井良二『こどもたちは まっている』

ここ数カ月、荒井良二さんの絵本に夢中になって、憑かれたように読み漁っていました。

もちろん、荒井さんの作品ばかりではなく、角田光代訳の『源氏物語』やMAROさんこと篠崎 史紀さんの『音楽が人智を超える瞬間』、松岡正剛さんの遺著となった、田中優子さんとの対談『昭和問答』、斎藤環さんの刺激的な論考『イルカと否定神学』といった本も読んでいたのですが、実感としては荒井さんの絵本の合間に目を通していた感じなんですね。
『はっぴーなっつ』、『うちゅうたまご』、『あさがきたのでまどをあけますよ』、『きょうはそらにまるいつき』、といった過去の作品から、最果タヒさんの詩とコラボレーションした新作の『うつくしいって なに?』に至るまで、どれも魅惑的な読書体験でした。

なぜここまで荒井さんの絵本に惹かれるのか。奔放なスタイル、鮮やかだけれど決してきつくならない色彩、シンプルで押しつけがましいところがないメッセージ性などいろいろありますが、もっとも大きな理由は音楽を感じさせるからに他ありません。
荒井さんご自身は自らギターを弾き、ライブを行うほどの音楽好きですが、なんといっても彼の絵本自体が素晴らしく音楽的なのですね。

なにせ代表作のひとつである『たいようオルガン』が木下牧子さんによってオーケストラと合唱の編成の楽曲となっているくらいなのですが、今回取り上げた『こどもたちはまっている』は、それとはまた違った音楽性を感じさせてくれる一冊です。

この本は「こどもたちはまっている/〇〇をまっている」というフレーズが繰り返される構成となっています。子どもたちが待っているものはロバやラクダであったり、雨上がりだったり、月が出るところだったりとさまざまなのですが、構成としては非常にシンプルです。

シンプルなフレーズが繰り返される音楽というと、スティーブ・ライヒやフィリップ・グラス等による、ミニマル・ミュージックを想起する方もいると思いますが、私が本書を読んで近いものを感じたのはアントニオ・カルロス・ジョビン。
とりわけ、彼の代表曲のひとつである「ワン・ノート・サンバ」でした。

「ワン・ノート・サンバ」の主メロディーは同じ音程の音がずっと続いているのですが、バックのコードが次々に変化していくので、単調さを感じさせず聴くことができるのですが、ページをめくるたびに色彩豊かな、自然の光景を描いた絵が目に飛び込んでくる本書の読書体験とまさに一致しているのです。ジョビンは自然をこのうえなく愛した音楽家でしたが、この点でも荒井さんと共通するところを感じずにはいられません。

言葉と色彩が織りなすリズムとハーモニーに身をゆだねる快楽。これからも荒井さんの世界を楽しんでいきたいと思います。
機会があれば展覧会にも足を運びたいですね。

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