見出し画像

池澤夏樹 選『近現代詩』

2014年から2020年にかけて刊行された池澤夏樹さんの個人編集による『日本文学全集』は、現在河出文庫での文庫化が進行中ですが、本書はその中の『近現代詩歌』から詩の部分を文庫化したもの。短歌、俳句は分冊の形で文庫化が予定されています。

島崎藤村から荒川洋治に至る明治以降の詩を対象に、41人の詩を池澤さんが選んでまとめているのですが、「ぼくのセレクションについては、これまでに読んでしたしんできた詩を選んだと言うしかない。いわば一人の凡庸な詩の読者の記憶にある詩篇であり、多くは広く知られたアンソロジー・ピースである」と選者解説で述べている通り、池澤さんの個性がはっきり出ているアンソロジーとなっているのが大きな特徴です。

その個性を伺うには、まず選ばれなかった詩人をあげるのが分かりやすいでしょう。
ひと目、宮沢賢治が無いのが目を惹きます。立原道造や草野心平もありません。〈荒地派〉から田村隆一と北村太郎は選ばれていますが、鮎川信夫は選外。吉本隆明、寺山修司といった知名度の高い詩人も外されています(寺山修司は短歌の方で選ばれているかもしれませんが)。なにより吉増剛造が無いのは物足りないですね。個人的にはマチネ・ポエティックのメンバーは外して「オシリス、石の神」あたりを選んで欲しかったです。

女性詩人の少なさも気になったところで、新川和江と井坂洋子は選んで欲しかったですね。左川ちかや吉原幸子も無かったのも残念です。

こうして書いていると、本書に不満ばかり感じているようですが、さにあらず。それどころかこうして文庫化されて、多くの人が手に取りやすくなったことはすばらしいと思っているのです。
近現代の詩の変化を一望できることや、そもそもこうしたアンソロジーが少なすぎることなども理由の一つではありますが、本書の最大の功績にして読みどころは、得てしてアンソロジーから外されがちな長編詩が選ばれている(それも3篇!)ことにあります。

谷川俊太郎の『タラマイカ偽書残闕』、高橋睦郎『姉の島』、そして入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』がそれで、これら3篇だけで本書のおよそ半分の量を占めているのですから、これぞ個人編集の強みを最大限に活かした思い切った選択と言わざるを得ません。いずれも「詩と注釈」の形をとり、日本語による詩の可能性を大きく拡大した読み応えのある作品で、これらがまとめて読めるだけでも本書を推薦するに充分すぎる理由となります。
ぜひ手に取ってみてください。





いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集