ヒーロー
その日、わたしは地下鉄で3人がけの優先席に座っていた。
わたしが一番左のすみに座っており、他の場所は空いていた。
途中の駅で、小さな女の子がいる家族連れのような人たちが乗車してきた。
あとでわかったことだが、それは娘、父、祖母というチームだった。
はじめに、女の子がわたしの隣に座った。
たぶん、まだ小学校には入っていないと思われる雰囲気だった。
「おばあちゃんはここに座って」と、女の子。
おばあちゃんは彼女の右隣にこしかけた。
これでもう席はいっぱいだ。
すると、女の子はこう言った。
「パパは立っててね。ここは優先席だから」
パパは、「うん、パパは立ってて大丈夫だよ」と笑った。
しかし、5分もしないうちに、女の子は立ち上がり、「パパ座って」と言って自分はおばあちゃんの膝に座った。
「まあ、優しいのね」と、おばあちゃん。
「おばあちゃんの膝に座りたかっただけだろ?」と、わたしの隣に座るパパ。
「なんかほっこりするファミリーだなぁ」と、心の中で勝手にほくほくするわたし。
女の子は優しいことを言いつつも、話し方がきっぱりしていて、
なんとなく子供特有のその場の空気を自分のものにしてしまうような雰囲気があり、
ちょっとお姫様っぽい態度なのがまた可愛らしい。
それから、3人はおしゃべりを楽しんでいた。
しばらくして、また別の駅で女性が乗車してきた。
すっと立ち上がって彼女に席を譲るパパ。
「ありがとうございます。本当に助かります」と、わたしの隣に座る女性。
「パパは立っててね。ここは優先席だから」と、再び姫が命令した。
「うん、パパは元気だから大丈夫だよ」と答えるパパ。
「パパは元気だもんね」と繰り返す姫。
その時、わたしの隣に座った女性がこう言った。
「パパはヒーローよ」
「きゃははは、パパヒーロー!」と笑う女の子。
周囲の空気があたたかくなる感覚。
わたしはまた勝手にほっこりした。
このパパは本当にヒーローだと思う。
女の子にとっても、
席を譲ってもらった女性にとっても、
わたしにとっても。
それに、この女の子が本当にお姫様だったら、世界はもっと平和になりそうだと思った。