愛も憎しみも可燃性物質 【この世は、たぶん、生きがしづらい。 その3 】
最近の小学生は、交際も性交渉も早く経験している。
なんて、ちょっと前のテレビで、たまに特集されていたけれど、
僕が小学生だった頃から、小学生の男女でお付き合いしているとか、どこの誰が妊娠したとか、珍しい話じゃなかったと思う。
当時、交際なんてしたことのなかった僕からすると、何をするモノなのかよくわからなかったので、とにかく他人事だった。
裸婦は、描いていたけど。
ただ、ひとつだけわかっていたこと。それは、小学生同士で交際関係に発展すると、そこからすぐに煙が立って、火元に向かって、人が集まったということ。
女子は、放課後に当事者交えて、大人顔負けのひそひそ恋愛トークを繰り広げ、
男子は、"お前の母ちゃんでべそーっ!"と言わんばかりに当事者の男女を茶化していたのを遠くで眺めていた。
僕は、その光景に全く興味がなかったし、なんなら茶化されていた当事者の男子は、僕がサッカークラブに入っていた時に言葉でボロクソに傷つけてきたサッカークラブの少年だったし、
すごく関わりたくなかった。
それに関わりたくなかった理由がもうひとつある。
あの頃の僕は、直感で気づいていたこと。
" 火のないところには、煙は立たない。"
男子たちは、当事者たちを茶化しに茶化した。そして、それがだんだんとエスカレートしていく。
「ちゅ〜しろっ!ちゅ〜しろっ!(当事者に促す)」
「うわっ、( 当事者の名前 ) 菌移っちまったーっ!」
「はい、お前も誰かとちゅ〜しろ〜」
「お〜い、ブスー」
「ブス菌がうつるー(当事者の女子に向けて)」
ん?なんだこれ?
火って、こんなに燃え盛るのか。
ほとんど火事だった。
もはや、火元とその後の火災は、燃料が違うようで、
全貌がわかった時には、黒い噂と黒い偏見へと変わっていた。
事件の発端は、当事者の男子がまぁまぁモテていたから、
女子が嫉妬して、当事者男子の男友達を使って、騒がせたんだろう。
実際に中学にあがってから、同じことがあって、その女子たちの派閥事情が明るみになったから恐らく、そういうことだ。
ある日、交際発覚の当事者の女子が不登校になった。
それがいじめの案件として自体が大きくなって、全同学年に教師の喝と犯人探しが始まった。
そう、いじめになった。
僕は、小学2年生の時にいじめの経験を受けていたから、
なおさら、それを見ていて恋愛自体が怖くなった。
小学4年の秋口に、僕の家の近くに転校生が越してきた。
女の子。それで、同じクラス。
物静かで普通の女の子だった。ただ、他の子と違うところは、ずば抜けて勉強ができなかったことと、お母さんが "ヤンママ" っぽかったことくらい。
僕が高校卒業するかしないかくらいの時に、後のこの女の子は、はやくに結婚して、子供を生んで、金髪ママになっていたから、やはり、ギャルのタマゴだったのに違いない。-----何を言っているんだ僕は。
彼女の席は、僕の隣になった。理由はおそらく、その当時、僕が学級委員だったからだろう。授業に全くついていけていないそんな彼女に、およそ2年分の習うべき基礎を一緒くたに教えながら、一緒に授業を乗り越えた。
僕は自分でいうのもなんだけれど、優しい。-----何を言っているんだ僕は。
勉強のできない、運動のできない子に付きっきりで教えることが、よくあった。学校一威圧感があって、口と性格の悪い野球クラブのリーダーにも、算数と水泳を付きっきりで教えた。
彼は、カナヅチだったけれど、泳げるようになったし、なんなら後の交友関係のキッカケにもなっていたし-----
けれど、それが、いけなかったのかもしれない。
僕は、転校生の彼女に勉強のフォローに集中するあまり、彼女を少女漫画に登場する古典的なイケメン先生キャラのように... ...
なんというか... ... 覆いかぶさって、教えていたみたいで... ...
当時の担任が、「生徒の鏡だ。お前らも見習え」とその場で大げさに讃えた時にようやく自分の体裁に気がついた。
この時、彼女に火をつけてしまうとは、つゆ知らず。
いじめをきっかけに優しさを身につけ、
ついでに肥満体型から脱却し始めたばかりのぽっちゃりの僕には、
あぶら汗ものの事態だ。
彼女のアプローチは、間接的だった。
彼女の女友達が、帰り道に僕へ愛の告白を伝達をする形式。
まるで、上流貴族からの"求婚"を使いの者によって知らされる感覚。
「いや、そういうのは、まだ小学生だから早いと思う... ...」
「ごめん。まだ、恋愛とか考えられないかな。」
「いやいや、無理無理」
「今日忙しいからバイバイっ!」
そして、2年後。6年生になった僕は、帰り道を走って帰るようになる。
上流貴族からの求婚は、断るという選択肢がない。
上流貴族と使いの者の意地と熱いハートを感じさせる粘り強さ。
6年生になった僕は、ある条件を提示して、お付き合いすることとなった。
条件は、ひとつ。
"僕らだけの秘密。学校の友達には、言わないこと。"
芸能人さながらの非公表での交際。
やっぱり、いじめを受けたあの男女の状況を自分に置き換えたくはない。情報を漏らさない約束で上流貴族との交渉を成立させると、そそくさと家に帰り、放心状態でゲーム機のコントローラーを握り、ブラウン管に反射する自分の影を見つめるのであった。
交際を始めた日の次の日が、幸いにも休日だったので、ざわついた心を落ち着かせるための時間になった。
いつも通りの休日、家族がなんとなくテレビを眺め、各々のやりたいことをする。
昼ごはんは皆で食べる。
母「(僕の名前)、電話よ。〜ちゃんだよ。」
ビクッ!
僕の体が一瞬硬直する。つ、使いの者だ。
母「珍しいわね。女の子から電話くるなんて」
はて、どうしたんでしょうね?と、首を傾げる素振りを母に必死に見せながら、固定電話の受話器をもらう。
使いの者「もしもし、(僕)君?ちょっと話があるの」
僕「はい... ...何でしょう?」
使いの者「昨日ね、(上級貴族)ちゃんが他の人に言っちゃったの」
このままでは、いじめに発展すると言う "不安"
と
今、家族の前で電話していることでの "緊張感"
と
約束を1日で破られた時の "失望" で
人は、
怒りを感じる。
僕「わかりました」
使いの者「ごめんね」
僕「はい」
平常心を装って、電話を切る。
母に何の電話か尋ねられて、必死にごまかした。
昼ごはんが喉を通らない。
ん?なんだこれ?
僕は、上級貴族(使いの者を含む)を無視をすることを決めた。
中学に上がったときに知ったのだが、
交際状態からお互い何の音沙汰もなくなって、何にもなかったような状態になることを
"自然消滅"という。
僕は、火元に蓋をしていた。
火といっても、人間はナマモノだ。
火とは、比喩でしかなく、例え鎮火しても燃え痕は、生きている。
だから、自然界で当たり前に起こることに、完全な "無かったことにする" という道はないということになる。
中学1年生の秋、
僕は、上級貴族と同じクラス。
席替えで席が隣になった。
僕が何をするにも、隣の上級貴族はそれを見て、
自分の口から「キモい」と直接、僕に言えるようになっていた。
中学の3年間、上級貴族が所属している派閥の全員から「キモい奴」とのお墨付きを毎年いただくこととなった。
学校の帰り道、
土手で地域の人が、野焼きをし終わって、そこで談笑している姿が見えた。
空を見ると
立ち上った黒煙が、"まだ" 僕のことを見ていた。
-【この世は、たぶん、生きがしづらい。 その3 】
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