答え甲斐がない何か 古井由吉『辻』
今年の二月に古井由吉が亡くなった。好きな作家がリアルタイムで亡くなるのははじめてのことで、もうこれ以上彼の著作が増えないことは(私にとっても文化全体にとっても)大きな損失だった。と同時に、彼の死に不思議と違和感が少ないことに驚いた。それはおそらく、古井由吉の小説がすでに存在しないものへのまなざしに満ちているからだろう。彼の書くものは生の境を跨ぎ、言語によって表現しうるぎりぎりのところまで到達している。私は彼の残した作品群がひとりの人間によって書かれたものだとはどうしてもおも