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ふつうの人の瞑想 『悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門』

はじめに  ひまだったのでブッダについてネットで調べたらけっこうやばかった。まず腕を伸ばしたら膝くらいまであるらしい。ダルシム? あと土踏まずがないらしい。どうやって歩くの。まあここまでは百歩譲っていいとしても、額のほくろ(ほくろじゃないらしいけど)から出るビームで、人々を悟りに導くらしい。もうわからん。仏教って何。    『悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門』は、日本人のタイ僧侶であるプラユキ・ナラテボーさんと、仏教に関する著述家・翻訳家である

    • 自分の機嫌をとる技術 坂口恭平『躁鬱大学 気分の波で悩んでいるのはあなただけではありません』

      はじめに  知り合いに双極性障害の方がいる。打ち明けてくれるまで気がつかなかったというよりかは、双極性障害についてあまりにも知らなさすぎたので、気のつきようがなかったのだった。インターネットで調べているうちに、なんだかかわいい表紙の本に出会った。こんなことが書かれていた。    坂口恭平『躁鬱大学 気分の波で悩んでいるのはあなただけではありません』。noteに連載していたものを書籍化したものらしく、調べてみたら数回分の記事が上がっていたので、興味があったらそちらを読まれると

      • 賢者の隠居 大原扁理『なるべく働きたくない人のためのお金の話』

        はじめに 夜に考えだしたら眠れなくなることがあるらしい。宇宙の果てとか、死ぬってどんな感じなんだろうかとか。私はけっこう能天気なのですぐ寝ちゃうけど、昼間にいろいろ考えたりする。お金はそのうちのひとつだ。      大原扁理『なるべく働きたくない人のためのお金の話』。著者は25歳から6年間、都内で週休5日の隠居生活を送っていた。この本が書かれた2018年には台湾に移住して隠居をしていたが、2021年のいまはどうやら日本に帰られているみたいだ。  この本が言っていることをざ

        • 死ぬことだってかすり傷 『ブッダのことば:スッタニパータ』

           以前、箕輪厚介の『死ぬこと以外かすり傷』が流行りましたね。  「死ぬこと以外はかすり傷だから、迷ったりためらったりしないでどんどん行動しろ!!」ということなのでしょうが、この本をみかけるたびに「死ぬこと以外かすり傷なのはわかったけどさ、いろいろ行動した後はけっきょく死ぬよね?」とおもっていました。「死ぬこと以外かすり傷」をいいかえれば「死はとりかえしのつかないこと」であり、その根底には死を恐怖する「私」が強烈に存在しているのではないかと邪推したくもなります。  そんなとき

        • ふつうの人の瞑想 『悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門』

        • 自分の機嫌をとる技術 坂口恭平『躁鬱大学 気分の波で悩んでいるのはあなただけではありません』

        • 賢者の隠居 大原扁理『なるべく働きたくない人のためのお金の話』

        • 死ぬことだってかすり傷 『ブッダのことば:スッタニパータ』

          アナーキズムのすすめ デヴィッド・グレーバー『資本主義後の世界のために』

           「そろそろ資本主義やめたいけど、次どうしたらいいのかわかんないよねー」とおもっている人はけっこう多いのではないか。むしゃくしゃしてとりあえず全部ぶっ壊したくなる人もいるかもしれない。無政府状態ってなんかこわそう。常に何かしら燃えてそう。  『資本主義後の世界のために 新しいアナーキズムの視座』は、人類学者であるデヴィッド・グレーバーの2回にわたるインタビュー+論考+対話集。グレーバーの著作は『負債論』も『ブルシット・ジョブ』も値段が高いし分厚いしでなかなか手が伸びなかった

          アナーキズムのすすめ デヴィッド・グレーバー『資本主義後の世界のために』

          美しきことだま 岡野弘彦『バグダッド燃ゆ』

           『バグダッド燃ゆ』は釈迢空(折口信夫)のお弟子さんである岡野弘彦の歌集。本作品で第29回現代短歌大賞、第22回詩歌文学館賞を受賞した。  現代短歌のようなポップさやとっつきやすさはない。しかし句読点や空白の使い方が絶妙で、惚れ惚れする日本語が並ぶ(調べたところ、折口の詠み方を踏襲しているらしい)。  この方の歌は、どれも優しさが底のほうで滴っている。美しさもかなしさも老いも愛も、沁みるように優しい。深い深い歌集。

          美しきことだま 岡野弘彦『バグダッド燃ゆ』

          エゴってなんだ。 エックハルト・トール『ニュー・アース』

           好きなyoutubeチャンネルで紹介されていたので気になっていたエックハルト・トール『ニュー・アース』を最近読んだのだけれど、これがけっこうおもしろい。  「もっとも有名なスピリチュアル本のうちの一つ」と謡われている本書の主張はシンプルで、「思考と自分を同一化するとエゴが生じて苦しくなるので、意識をいまここに置きなさい」というもの。このことを一冊かけて繰り返し語っているこの本の特徴は、エゴについてこれでもかというくらい詳細に語っているところだとおもう。  たとえば、  「

          エゴってなんだ。 エックハルト・トール『ニュー・アース』

          仮想的な母性愛 川上弘美「蛇を踏む」

           川上弘美「蛇を踏む」。文春文庫版『蛇を踏む』には芥川賞受賞の表題作のほかに「消える」「惜夜記」が収録されている。  「蛇を踏む」は、教師を辞めて珠数屋のカナカナ堂で働くサナダヒワ子が、公園で蛇を踏む場面からはじまる。踏まれた蛇は「踏まれたらおしまいですね」と言い、人間のかたちになって歩き去る。家に帰ると女のかたちをした蛇がいて、料理をつくって待っている。「わたし、ヒワ子ちゃんのお母さんよ」という女は、しきりに「蛇の世界へいらっしゃい」と呼びかける。  この小説は、類型や分類

          仮想的な母性愛 川上弘美「蛇を踏む」

          答え甲斐がない何か 古井由吉『辻』

           今年の二月に古井由吉が亡くなった。好きな作家がリアルタイムで亡くなるのははじめてのことで、もうこれ以上彼の著作が増えないことは(私にとっても文化全体にとっても)大きな損失だった。と同時に、彼の死に不思議と違和感が少ないことに驚いた。それはおそらく、古井由吉の小説がすでに存在しないものへのまなざしに満ちているからだろう。彼の書くものは生の境を跨ぎ、言語によって表現しうるぎりぎりのところまで到達している。私は彼の残した作品群がひとりの人間によって書かれたものだとはどうしてもおも

          答え甲斐がない何か 古井由吉『辻』