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赤の供物

 

 著者リン・カーターの短編集『クトゥルーの子供たち』に挿入されている。クトゥルフ神話をテーマにしたものである。

 お亡くなりになった教授が発掘した「古代ナアカル語の第七石板」にて刻まれた先史時代の呪術師「ザントゥー」と弟の「クス」の物語である。

 この「ザントゥー」には夢がある!大神官になるという!夢が!

 ということで、それを叶えるあるいは大神官になる証となるであろうオーパーツ「黒の印章」をgetすべく長身で顔立ちの整った女にモテモテのナンパなイケメンの弟「クス」と旅をするわけだ。

 こういう物語によくある「じゃないほう」の兄「ザントゥー」が主人公であるので、まあ「勇気」や「決断力」「力」のある弟に嫉妬しているわけだ。

 実際、ザントゥーが恋してる女性「イェーナ」は「クス」に惚れているとザントゥーは考えており、仲はよろしくない。

 ネックなのは、こんな陰気臭い面倒な兄貴と一緒に旅してる「クス」の視点は一切展開されないことである。

 リン・カーターが「この物語は教授が発掘した大昔の石板に書いてあったことだよ」という前置き以降は一人称視点つまり「ザントゥー」の視点である。

 だから、ザントゥーが思い込んでいただけで、クスがザントゥーを嫌っていたかどうかなんて分からないし、本当にイェーナがクスを好いていたかどうかも分からない。だってザントゥーの見て思ったことしか書いてないし、イェーナのセリフも行動も一切書かれていない。クスは旅を共にするため一緒にいる時間は長いはずなのに、会話の描写が無い。弟が南方で酒場に入り浸って女と交わっている。とかいってソリの合わなさを出している割には変事にはクスの強さと勇気が必要だと認めている。

 弟が大神官になりたいかどうかも分からないし、兄貴の手伝いだって気持ちだけで旅しているかどうかも分からない。ただ、旅の中で兄を見捨てなかった。

 イェーナの発言が一切書かれていないのはザントゥーが恋愛面で奥手だからという想像も出来る。

 わめいている奴隷たちをどけて、めちゃくちゃ重い厚板をこじ開けたり、自分たちの目的に即した行動をしているしな。

 兄の「ザントゥー」が神殿内で書物で研究調査し計画を立てる、行動面での決断をくだして実行するのは「クス」だった。

 御互いに補い合っていたのだ。

 こいつらのやってることは墓荒しでしかないわけで、「黒の印章」を手に持つ賢者イラーンのミイラが覚醒し、抵抗する「クス」を絞め殺す。

 死ぬ前のクスは、兄を懇願するように見る。兄貴が助けてくれるとおもったのだろうか。誰でも良かったのだろうか。誰でもいいなら奴隷たちでも見るはずだ。兄貴を凝視するはずがない。

 兄のザントゥーはミイラがクスを絞め殺している間、黒の印章をかすめ取る。弟をおとりに使ったのだ。

 腹ばいになって泣きわめく奴隷たちを連れて安全なところに避難する。

 そのままトンズラするかと思いきや時間を経過して墓所に戻って酷い有様の弟の死体を埋める。

 〈赤の供物〉は弟の肉体なのだ。赤い血肉ということだろう。

 大神官の座は私のものなのである。イェーナもいずれ私(ザントゥー)が…というような記述が最後にある。

 私はどうもこれがザントゥーが自分に言い聞かせているように見える。弟見捨てて後ろめたくなかったら現場に戻って埋葬なんかしないだろう。

 サイコパス的な理由があるだろう?という人もいるかもしれないが

 ザントゥーはどうも敬虔な信徒を自称している割には、権力に目がくらんだ俗物くさいし、弟には嫉妬するし、思い込みが強い。かといってサイコパスでも無い感じ。感情に振り回されるところもある。

 自分のやってることが冷たいものだと思っているし、苦い気持ちも入っている。

 だからこそ「私の心は、冷たくも苦い喜び」に満たされていた。

 露悪的な文章を刻んでいたってことではないだろうか。

 


 一人称視点において、イェーナの描写があまりにも薄いので、イェーナ手に入れたら飽きるんじゃないかなこの人。


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