僕は値下げが「お客さま本位」だと思っていた
今思えば思い上がりも甚(はなは)だしいが、京都大学出身の自分はどうせいずれ銀行の本部で働くことになるのだから、営業経験など不要だと思っていた。
これは学歴を笠に着ていたわけではない。
銀行の慣習上、国立大卒の行員の多くが最終的に本部に配属されるのだ。
加えて、自分のパーソナリティー的にも営業には向かないと思っていた。
押売りの類を受けるのが嫌いなので、自分が同じことをすると思うと気が進まないのだ。
だから、銀行全体のことを考えても僕を営業部へ配属させるべきではない。
とすら思っていた。
ただ、そんな僕の意向などとは関係なく、入行した総合職は全員、まずは営業部へ配属される。
僕も例外ではない。
営業部の常だが、営業にはノルマが有る。
部全体のノルマ、グループのノルマ、個人のノルマ。
年次が上がるほど責任は大きくなりノルマも増える。
入行間もなく配属された末端の僕にももちろん、少ないなりにノルマが課される。
メガバンクほどの大企業になると、多くの行員が人事評価に納得感を持てるよう、事細かに営業の評価項目が設定されている。
融資金額や貸付金利から算出される収益や、融資の取り組み手数料の大小等、”融資”関連の項目はもちろん。
クレジットカード獲得件数、Web決済サービス導入件数、外貨決済サービスの導入、法人ではなく法人オーナーの個人取引の獲得等も評価される。
僕は「押し売り」が嫌いだったし、真に顧客のためになる提案しかしたくないと思っていた。
だから、"融資"においては「金利を引き下げてあげる」、決済サービスであれば「手数料を引き下げてあげる」という『値下げ』こそが銀行において唯一他行(他の銀行)と差別化できることであり、『値下げ』こそが『お客さま本位』だと思っていた。
ただ、当時、僕が銀行の営業部において最も多くを学んだ先輩行員のおかげで、その考えが誤りであることを知った。
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▼僕は値下げが「お客さま本位」だと思っていた
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銀行でも整体でも美容室でもなんでもそうだが、「安さ」だけが顧客のメリットではない。
サービスに満足していれば高価でも構わないのだ。
安易な「値下げ」は、営業努力や顧客満足度向上の努力の放棄である。
ただ、こんなことは誰でも分かっているので、今回は視野をもう少し先まで伸ばして考えてみる。
「値下げ」は顧客が「安さ」を得る一方でこちらも案件を獲得するので一見(顧客)win -(自分)winのようだが、こちら(サービス提供者)の身を削るほどの値下げである場合(顧客)win -(自分)loseとなる。
顧客に最も利することは何か?を考えると、その答えは
(サービスの質)x(期間)
の面積が最大化することだ。
(良いサービス)を(長く)受け取れるのが顧客の最大のメリットなのだ。
ところが、身を削る値下げをした場合、(サービスの質)が低下するか、(期間)が短くなってしまう。
個人事業でイメージすると分かり易い。
整体師さんが自己犠牲的に”破格”の安さでサービスを提供した場合、それでも生活を成り立たせるべく回転率を上げようとする。
するとどうしても(サービスの質)が落ちる。
あるいは、回転率をあげずにいると、たちまち生活が成り立たなくなり廃業になり、サービス提供の(期間)が短くなる。
上記は極端な例だが、適切な価格設定こそが(サービスの質)x(期間)の面積を最大化するのだ。
安易に「値下げ」という目先のメリットを提示することは、自分の首を絞め、”末長いお付き合い”を放棄することに繋がりかねない。
どちらが”真に”「お客さま本位」なのか?
その答えは意外と「値下げ」ではないかもしれない。
むしろ「値上げ」である可能性すらある。
そんなことを、作業療法士であり鍼灸マッサージ師さんである方との通話の中でお話しさせていただいた。
何かみなさんの仕事にも通ずるところが有るかもしれない。
PS(追伸)
配信時間がバラバラですが、LINEで繋がっていれば読み逃し無くお楽しみいただけます。