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【鬱病の苦しみ】アフターサン/Aftersun

作品紹介

あらすじ

思春期真っ只中、11歳のソフィは、離れて暮らす若き父・カラムとトルコのひなびたリゾート地にやってきた。
輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。
20年後、カラムと同じ年齢になったソフィは、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく…。

https://happinet-phantom.com/aftersun/index.html

監督は本作が長編デビュー作となるシャーロット・ウェルズ。最近鑑賞したパストライブズもそうですが、こちらの作品も監督の実体験に基づく映画作品です。
映画批評サイトRotten Tomatoでは96%の高評価を得ている作品。
主演は「異人たち」でもとても印象的だったポール・メスカル。本作のパフォーマンスで、アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされています。

おすすめ度:4.5(5点満点)

こんな人におすすめ:ポール・メスカル好きな人、A24好きな人、気分が鬱々としがちな人、身近に鬱病で苦しむ人がいる人、ASDの人



————以下ネタバレ含む 鑑賞後用レビュー



鬱病の苦しみ

 燦々と太陽が輝くトルコでの父と娘のバケーションという本来であれば、幸せを噛み締めるような設定ですが、主人公カラムが心の闇(おそらく鬱病)に苦しむ様子が描かれます。
カラムが何が原因で鬱病に苦しんでいるのか、詳細には描かれません。もちろん離婚してしまったことや経済的にあまり余裕があまりないというのもあると思いますが、セリフの断片から、幼少期育った環境で負った心のキズが大きな要因であるように感じました。太極拳や瞑想をやってみたり、トルコ絨毯を衝動買いしてみたり、何とか闇から抜け出そうとしているカラムですが、一度闇に飲まれると、一生懸命セルフディフェンスを教えたりして守ってあげようとしている娘をほっぽり出して、心の闇の象徴のような夜の海へと吸い込まれてしまいます。娘との触れ合いの時間が親密で愛に溢れるものであればあるほど、そんな中でもカラムを飲み込んでしまう鬱病の苦しみの深さが対照的に際立っていくように感じました。

鬱+ASD?

 個人的にこのカラムにはかなり感情移入してしまいました。私自身は経済的にそこまで困窮しているわけではなく、カラムほどの深刻な鬱病を患っているわけではないですが、常に空虚感、虚しさが心のどこかにいる感じがして、少し油断をするとそういったものに飲み込まれそうな恐怖感があります。気分を良くするには運動をするといいとか色々試し、その一瞬は瞬間風速のように良くなった気がしても、少し経つとまた気分のベースラインのようなものはまた低空飛行を始めるという繰り返しです。
 特に共感を憶えたシーンがいくつかあります。一つはスキューバダイビング中にカラムが投げ渡した水中ゴーグルをソフィが見失い結局無くしてしまうシーン。些細なことのように思えますが、カラムは落ち込みを隠しきれません。
もう一つはホテルのちょっとしたステージでのカラオケ大会があるシーン。ソフィがカラムとカラオケを歌いたくて内緒でエントリーするのですが、カラムは頑なに参加を拒否し、ソフィも機嫌を悪くしてしまい険悪なムードになってしまいます。おそらく人によっては、「娘のためなんだから、歌ってあげればいいのに」と思った人もいるでしょう。これらのシーンのカラムはなんだか他人事のようには感じられませんでした。
 こちらの記事でも書いたのですが、私はASDの診断を受けていて、その特性の一つに自分のこだわりへの固執、こだわりから外れたことに柔軟に対応する難しさがあります。なので、些細なミスなどもどうにも引きずって1日中そのことを考えて落ち込んでしまったり、またいくらその場の空気に反していても、やりたくないと思ったことに対しては、脳・身体がフリーズするというかそれ以上動かなくなってしまうことがあります。そして、そういった状況で空気を悪くしてしまった時などは自責の念にかられます。カラム(本作監督のお父さん)がASDを持っていたのかはわかりませんが、ソフィにやりすぎなくらい真剣にセルフディフェンスを教えるシーンや、トルコ絨毯にかなり入れ込んでしまうシーンなどを見るとかなりこだわりが強く、理想も高い人のように見えたので、ASD+鬱病に苦しんでいた可能性もあるように感じました。

もう一つの解釈

ちなみにこの作品、人によってはカラムのソフィに対する歪んだ愛情を描いた作品だと解釈された方も結構いるみたいで、Redditというサイトでもこの解釈のスレッドがあります。
私的にはそのような風には思わなかったのですが、皆さんはどう思われましたでしょうか。
映画の解釈に正解・不正解は無いと思うので、興味深い解釈だと思いました。
もう一回観る時はその視点でも観てみようかなと思います。


おすすめ作品

本作品が好きな人には下記作品もおすすめですので、機会があればご覧になってみてください。

サムウェア(原題:Somewhere)

2010年ソフィア・コッポラ監督作品。Aftersun同様父と娘がホテルで過ごす時間を描いた作品です。

異人たち(原題:All of us strangers)

2023年ポール・メスカル主演作品。

こちらはレビューも書いていますので、読んで頂けると嬉しいです。

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