それでもがんとは闘ってほしい
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
「患者よ、がんと闘うな」の著者である近藤誠医師が、虚血性心疾患でお亡くなりになりました。
先生はがん治療に苦しむ患者さん達にとって、希望の光であったと思います。
私は毎日、がんと闘う立場の医師です。
今回は私が消化器内科医になった理由と、がんの考え方について話してみたいと思います。
がんのない、循環器内科に憧れた
研修医はスーパーローテーション制度に基づいて、外科・内科・麻酔科・救急など必須の診療科で研修をします。
私は学生時代から、内科系に行くことは決めていました。
「優しそう」「話を聴いてくれそう」だから、そうちゃんは内科系だね。
と、周りから言われてはいましたが。
内科を選んだ理由は、
「外科医や救急医になるほどの気力体力がなかった」から、という比較的消去法なものでした。
消去法で選んだものですが、私は内科で正解であったと今でも思っています。
実証虚証という考え方が、漢方医学にはあります。
当時30歳の私は「虚証」という言葉を知りませんでしたが、私が他の医師よりも気力体力に満ちていないことは自覚していました。
そんな内科の中で1番魅かれたのは、循環器内科でした。
心筋梗塞で今にも命を絶ちそうな患者さんが、心臓カテーテル治療で元気になるのです。
そして、循環器内科には原則「がんがない」ことも魅力でした。
他の内科にはたいていがん疾患があります。
研修のローテートで、末期のがん患者さんがその時のパフォーマンス状態の悪さと治療のツラさで苦しんでいるのをたくさん見てきました。
「亡くなっていく患者さんを、常に看取る内科は、私にはツライかもしれない」
がんのなく、患者さんを瞬く間に救う循環器内科は、神様の科のように見えました。
がんのある消化器内科を選ぶ
しかし私は、循環器内科を諦めました。
その理由は、やはり「気力体力のなさ」でした。
循環器内科医は(全員ではないけれど)、夜中もstandby状態です。
夜の22時に病院に呼ばれ、治療をして0時に家に帰り。
また3時に呼ばれて、5時に帰り。
8時に何事もなかったように仕事に向かう。
研修医に経験したこの毎日が、私には一生できる気がしませんでした。
何より私が病院に向かう1分1秒の差で、患者さんの命が左右されるかもしれないというプレッシャーに耐えられなかったのです。
という、またもや消去法的な選択で消化器内科に入りました。
消化器内科でも夜中に吐血下血の患者さんが来るので、それなりに大変でした。
ただ循環器のような「昨日まで元気だった患者さんがいきなり亡くなる」といったショッキングな出来事のプレッシャーから解放されて、私は生き生きと仕事を始めました。
もちろん消化器内科には胃がん大腸がんをはじめがんがあることは分かっていました。
治るがん、予防できるがんがある事を知る
「がん」と聞いて皆さまがイメージするように、私もがんは「治らないもの、できたら死を意識しなければいけないもの」と思っていました。
ところが消化器内科医で診療していて、だんだんと気がついてきます。
あれ。がんになっても多くの人が治療を受けられて、しかもその後もしっかりと生活できているのだな。
と。
肝臓がん(これもかなり減ってきています)の患者さんは、それでもなかなか予後は悪いですが。
胃がん大腸がんの患者さんが、手術や内視鏡治療を受けて、その後元気に生活している。
消化管のがんは、早く見つかれば治る。
見つかるのがある程度遅くなっても、命を落とすような手遅れになることは意外と少ない。
さらに大腸に至っては生活習慣の大切さはいうまでもないが、多少の生活の乱れがあっても、大腸カメラを定期的に受けていればがんさえも予防できる。
これが消化器内科の魅力であり、このことに気がついた私は少しずつブログで発信をするようになりました。
正しい知識を持って、それでもがんとは闘ってほしい
末期がんになると生活の質は極度に低下し、治療もツライものとなり、その治療も延命効果の乏しいものとなりかねません。
そのツラさから、近藤先生の言葉に癒される患者さんが多くいるのだと思っています。
私はnoteとstand fmで「がんにならないこと」と「がんで亡くならないこと」をメインに配信しています。
(時々、どうでも良いことや感じたこともつぶやきますが。)
そのために必要な武器は、「正しい知識を持つこと」であると思います。
メディアやネットには、持ちきれないくらいの情報が溢れていますが。
正しい知識となりうる情報は、なかなか分かりにくいと感じます。
医師は毎日の診療をしていて「当たり前と思っている正しい知識」が、患者さんにまでなかなか広まっていません。
いや、広げたいとまではわざわざ思っていないのかもしれません。
がんは進行すると、尊い命を奪う憎きものですが。
正しい知識を持って、予防と治療を積み重ねていけば、そこまで怖くないのではないか。
今回の先生の訃報を受けての、私の結論です。
「それでも正しい知識を持って、がんという存在と闘ってほしい」
長くなりました。
最後までありがとうございました。
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