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古田徹也『言葉なんていらない?——私と世界のあいだ』|表紙の絵と挿画(土屋萌児)のご紹介

10代以上すべての人のためのシリーズ「あいだで考える」、10冊目は古田徹也『言葉なんていらない?——私と世界のあいだ』です。

私たちは言葉を通して世界や他の人々をつながっています。一方、言葉はときに不正確で、誤解やトラブルの元にもなります。
はたして言葉は私と世界をつなぐ「メディア=媒介物」なのか、はたまた両者を隔てる「バリア=障壁」なのか。そもそも、私たちは「発話=言葉を発すること」を通して、いったい何をしているのでしょうか——?
本書はこれらの問いから出発し、言葉を旅していきます。その旅の空間を伝え、一緒に歩いてくれるのが、アニメーション作家の土屋萌児さんの作品たちです。
この記事では、土屋さんによる装画(=表紙の絵)・挿画のメイキングをご紹介します。土屋さんより、この記事のために特別に作った動画やコメントも寄せていただきました!

まずは表紙の絵。

一見ふつうの絵のようですが、実はこれ、切り絵を組み合わせた立体作品を撮影した「写真」なのです!

なんと、表紙の絵の外側はこんなふう。絵の中の影は描いたものではなく、本物の影なのです。空へ登る道をノートパソコンのACアダプタで支えているのがリアル。
撮影風景。土屋さんの作業机です。
横から見た図。影の位置や強さをライトの位置でコントロールしています。


このようにパーツを切り貼りしてつくった三次元の絵を撮影する手法は、本文の挿画にも使われています。たとえば下の作品。

(『言葉なんていらない?』147ページ。なお、色合いは実際の紙面と異なります。以下同)
(同181ページ)


土屋さんがこれらの絵のメイキング映像をつくってくださいました! この映像自体がとってもおもしろい。さすがアニメーション作家の土屋さん。

斜めに置いたガラス板の上に切り絵のパーツを配置して、影と立体感をつくっているのがわかります。


せっかくですので、本書の「言葉の旅」に同行してくれる友人たちを以下にご紹介します。

まずは主人公?の「言葉くん」。読者と一緒に、古田さんの綴る言葉の世界を旅してゆきます。言葉くんは装画のここ↓や……

ここ↓にいて、本文では2章の冒頭で登場します。

2章冒頭の導入文。まだ生まれたばかりの言葉くん。


そして、3章の冒頭で言葉くんは家を見つけます。ヤドカリの貝のようなこの「家」は、3章2節で語られる「近く、限られた相手との親密なコミュニケーション」の、限定された空間のイメージです。

3章の冒頭で家を見つけます。
ふだんは、家は頭の上に乗っかっています。


それから、時々現れるミノムシくん。


言葉くんとはつかず離れず、別の道を旅しているのかな?と思っていたのですが……


4章の冒頭では言葉くんと一緒に船で海へと漕ぎ出します。ミノムシくん、複数いるようです。

土屋さん、そもそもなぜ、言葉くんの友だちがミノムシなのですか?

生まれたばかりの言葉が遠くへ行くなら、何かを身にまとうのではないかと思いました。そこで最初に思いついた生物はミノムシとヤドカリでした。どちらも、外部の自然のものを身につけているのに、それがその個性にもなっているところにどこか人間的な面白さがあると思ったからです。
蛾や蝶を表すフランス語のパピヨンpapillon(本書105ページ参照)に重ねた部分もあり、ミノムシくんは遠くの地からやってきた言葉のようなイメージです。

(土屋さんより)

遠くの地からやってきた言葉のようなイメージ。なるほど。“旅する言葉”なのですね。

海を渡った言葉くんとミノムシくんたちの船は、5章の扉で陸にたどり着きます。

あれ? ミノムシくんたちが消えている……?


土屋さん、ミノムシくんたちはどこに行ってしまったんですか?

古田さんの本文に「言葉は、世界の一部として、そこにあるもの」という言葉があります(184ページ)。
「言葉」も私たちが「自然」と定義している石や植物や生物などに近いものとも捉えることができる、という意味だと解釈しました。
言葉は「すごい」「やばい」「えぐい」のように時代とともに変化するというのが虫の変態にも通じると思ったので、え!? そこで?という船出のタイミング(4章の大きな絵)で羽化させました(笑)。

(土屋さんより)

え? 羽化??と思って見直してみると。

確かに、4章の99ページで蝶になって空に飛び立っていました!


そんな物語があったとは、今の今まで気づいていませんでした……。土屋さん、スミマセン。

ご紹介したほかにも、古田さんの綴る言葉に機知や謎かけで返すような、思わずニヤリとしてしまう楽しいイラストが本書にはたくさんちりばめられています。……というか、まだ気づけていないさまざまな仕掛けやアイディア、試行錯誤、そして物語が潜んでいそうです。いつか詳しいお話をぜひぜひ伺いたいところ。
デザイナーの矢萩多聞さんも「土屋さんの絵、いいねー」「これはやばいねー」と喜び、工夫を凝らしてレイアウトしてくださいました。
読者のみなさまにもぜひ、お手にとって紙面で楽しんでいただけますように。

古田徹也『言葉なんていらない?——私と世界のあいだ』、2024年10月29日頃発売です。


記事冒頭のヘッダー画像の別バージョン。いずれも土屋さんがこの記事のために特別に作成してくださいました。


装画・本文イラスト=土屋萌児(つちや・ほうじ)
1984年東京都生まれ。アニメーション作家。貼り絵、切り絵、立体造形などを駆使してアニメーション映像を制作。主な作品に中山うり「青春おじいさん」などのМV、ポカリスウェットのウェブムービー「スカフィンのうた」、Eテレ「シャキーン!」の「終る瞬間」「惑星兄弟」「ハッタケさん」シリーズなど。独自プロジェクトとして耳なし芳一をモチーフにしたアニメ「Hoichi」を制作中。
ウェブサイト https://www.tsuchiyahoji.com/
vimeo(作品一覧あり) https://vimeo.com/hojitsuchiya

「青春おじいさん」(中山うり作詞・作曲・歌)のMV作品。

土屋さんがライフワークとして制作中のアニメーション作品「Hoichi」制作風景。必見です。


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