Soft Rock Top 15位~11位
15位 The Anita Kerr Singers「Lullaby Of Birdland」1974年
“ポップ・コーラスの錬金術師”との異名を持つAnita Kerr。単なるコーラス・アレンジだけでなく、ソプラノ歌手・作曲家・指揮者・ピアニスト・プロデューサー等、音楽的に優れた才能を持つ才女でありながら、カントリー系コーラス隊で【Nashville Sound】の立役者・ジャズ系ポップサウンドの先駆者・女性ミュージシャン初となる米映画音楽のフルスコアを担当・グラミー賞を含む数々の作品で受賞等々、音楽史に多大な影響を与えた天才系女 性ミュージシャンでもあります。
多才な故、長期に及ぶ音楽キャリアでは多岐に渡る幅広い活動を行っており、他アーティストへのアレンジ・プロデュース・指揮に加えて、異なった幾つものプロジェクトを並行して行いながら、多数のミュージシャンとのコラボ作品もリリースしております。ジャンルを超えた広範な取り組みから、彼女の全体像がなかなか判然としませんが、その中でも大部分を占めているのがコーラス作品であります。彼女の代名詞とも言えるThe Anita Kerr Singersに関しても、作品によってはAnita Kerrという単独名義になったり、~Orchestra・~Quartet等の少々異なる名義に加え、自身のリーダー作以外にもLiving Voices・The American Scene・The Mexicali Singers・The French Connection・Th' So-And-So's等の変名名義でも多数の録音を残しております。そういったAnita Kerr主体による派生作品の総数は膨大に昇りますが、その中でも全Soft Rockファンにお薦めしたい楽曲を厳選して紹介させて頂こうかと思い ます。ついでに、いかにして彼女がSoft Rockサウンドへ到達したのか?ということも振り返ってみましょう!!!
【Soft Rock サウンドの確立まで!!!】
1927年10月13日に米国テネシー州メンフィスで出生したAnita Kerr(本名:Anita Jean Grilli)は、イタリア系移民である両親の元で生まれました。熟練した実力派アルト・シンガーである母親からの英才教育で、4歳にピアノのレッスンを受け始め、毎週15分間のラジオ出演していた母親のラジオ・ショーに出演。ラジオ局関連で幼少期からプロの音楽業界で仕事に携わっていた彼女は、10代半ばには音楽ディレクターに就任します。20歳を迎えた1947年にAl Kerrという男性と結婚し、翌年には米国音楽の聖地であるナッシュビルに引っ越します。旦那AlがWKDA RadioのDJとして仕事に就き、Anitaは5人組ヴォーカル・ グループを結成。彼らはすぐに注目を集め、世界最長ラジオ番組『Grand Ole Opry』の放送局として知られるAMラジオ局「WSM」のプログラム・ディレクターから声が掛かり、伝統的音楽番組「Sunday Down South」の専属合唱団として雇われます。彼らがプロとして初の本格的セッションとなったのがカントリー畑のRed Foleyのバック・コーラス。
1950年にリリースされたシングルRed Foley With The Anita Kerr Singers『Our Lady Of Fatima』が、いきなりBillboardのポップ・チャートTop16を記録。その後も Eddy ArnoldやErnest Tubb等のカントリー系シンガーとのコラボ・セッションを重ねていく上で、スターの座に付いたばかりのJim Reevesに見込まれ、ラジオ局WSMに毎週のショーに招待され、1956年にはテレビ番組【Arthur Godfreyのタレントスカウト】で見事優勝。Arthur Godfreyに気に入られた彼らは、彼の提案で4人組コーラス・カルテットに編成変更し、その後も定期的にTV番組やラジオ・ショーに出演することになり、ナッシュビルとNYを行き来することになります。並行して多数のミュージシャンとのコーラスを任され、多忙なセッション・ワークをこなしていくと、いつしか「First Call」とも呼ばれる、いの一番に声が掛かる引っ張りダコのセッション・コーラス・グループまで昇り詰め、名実共に【Nashville Sound】の代表格になりました。
その後、DeccaやRCA-Victor等の大手レコード会社との契約を結び、Anita Kerrはアレンジやプロデュースも兼務しながら着々とアルバムをリリースしていきます。そして1965年には米国を代表する作曲家兼編曲家のHenry Mancini作品集『We Dig Mancini(The Anita Kerr Quartet名義)』で、ヴォーカル・グループとしてのBest Performance部門でグラミー賞を受賞。丁度この時期にAnita KerrはAl Kerrと離婚し、1965年8月にスイス人のビジネスマン Alex Grobと再婚。二人の娘Suzie&Kellyを引き連れて、活動の拠点をLAに移 します。この転居を境にAnita Kerrは自身の音楽性を見つめ直し、《カントリー・ミュージックのセッション・コーラス隊というイメージから脱却し、作曲や指揮に注力して、ポップ寄りのJazz系コーラス・グループで最良の作品を創造したい!!》そう思う様になったそうです。
彼女の長い音楽キャリアにおいて最もSoft Rock度が高くなるのが1966年~1969年迄の【Warner Bros.~Dot】Records期で、Soft Rock本で度々紹介されるAnita Kerr必聴入門盤『Sounds』『Velvet Voices & Bold Brass』『Reflect On The Hits Of Burt Bacharach & Hal David』『Spend This Holiday With Me』等々が、正にこの時期にリリースされております。 つまりこれらの作品群というのが、彼女が追い求めたポップ・ミュージックとJazzを融合したJazz Popサウンドなのです。そしてもう一つ、Anita Kerr自身による作編曲と彼女が指揮するThe San Sebastian Stringsに合わせて、Rod McKuenが自作詩を朗読するという通称【San Sebastianプロジェクト】を始めたのもこの時期で、挑戦的な音楽性のアウトプットが彼女にとってキャリア・ハイとなったのは間違いないでしょう。
加えて、PhilipsやWordを含む複数のレーベルを股に掛けた1970年以降の作品群でも、お得意のソングブック・シ リーズ『Performs Wonders(Anita Kerr単独名義)』、最もJazz 色の強い『'Round Midnight』、 極上なMellow Soft Rock盤『Together(Anita Kerr, Harry van Hoof,Pieter van Vollenhoven名義)』ポップ・スタンダード集『Daytime, Nighttime』等々…中級~上級者向けのハイ・レベル作品も忘れてはなりません。
【Soft Rock界に降臨した最強にして最高のコーラス・アレンジャーAnita Kerr!!! 絶対押さえておきたい極上の大名曲10選の御紹介!!!】
基本的なJazzのコード理論を上手く応用し、なめらかで移動の少ないヴォイシング(配置) を活用することで、お洒落でスリリングな胸を突くメロディ・ラインを表現しています。その表現方法は密集型の和声(クローズド・ハーモニー)やノン・ヴィブラートによる開離型の和声(オープン・ハーモニー)、そしてスキャットやシラブル・コーラスを楽曲に合わせて柔軟且つ巧みに織り交ぜる構成となっております。均整の取れた美しいハーモニーは、4 声を明瞭に聴き分けさせるステレオ・ポジショニングから生まれている訳ですが、前衛的で巧妙な手法を自然に料理していくAnita Kerrを侮らないで頂きたい。聴き易さに配慮している為、あまりにも自然で思わず聞き流してしまいがちですが、聴けば聴くほど、実に奥行き深いコーラス・アレンジをしているのです。どんな楽曲であれ、彼らがカバーするとそれが原曲の最良ヴァージョンと言わしめる所以は、正しくAnita Kerrの神アレンジによるものなのです。 それでは下記の推薦曲で、その凄まじさを体感してみてください。至福の時間を与えてく れること間違いなしです!
★「Alfie」…1969 年作『Reflect On The Hits Of Burt Bacharach & Hal David』
Cilla Blackを筆頭に、Dionne Warwick・Sheila Southern・Cher・The Renaissance・Johnny Mathis・Barbra Streisand・The Delfonics…etc 多くのアーティストにカバーされているBurt Bacharachの大名曲。Mellowでジャジーなアレンジと、哀愁を帯びた気品あるコーラスが見事に絡み合い、洗練の極みを成しています。好みの差こそあれど《Anita Kerrヴァージョンが最良》だと断言したい。そう思わせる程に完璧な1曲。脱帽です。
★「Street Of Dream」……1965年作『Mellow Moods Of Love』
即死級とは正にこの曲のこと。Mellow Jazzな歌い出し開口で卒倒します。後半の盛り上げからエンディングのクールダウンまで、憎らしい程にキマッてます。
★「It's Impossible」…1972年作『Daytime, Nighttime』
即死級第2弾!!前奏すら無く、間髪入れず殺しに掛かってきます(笑)。ソフロファンには嬉しいパパパ・コーラスとか魅惑のトランペット・ソロとか以前に、鬼Mellowなメロディが反則レベル。Mellow過ぎて完全にとろけます。
★「Superwoman」…1979年作『Anita Kerr Performs Wonders』
捨て曲無しの大名盤『Performs Wonders』のハイライト。79年作ですが、コーラス・ハー モニーは相変わらず爽快で心地良いです。6分を超える長尺や中盤からの凝ったアレンジ等は年代を感じますが、程好く垢抜けたサウンドも快適そのもので、良い感じにLight Mellowしています。
★「Happiness」…1968年作『Sounds』
Soft Rockファンに一番人気の大名盤『Sounds』の中からこの曲をチョイスしてみました。 The Associationヴァージョンでもお馴染みAddrisi 兄弟の楽曲で、天才Curt Boettcherに仕込まれたBones Howeによるアレンジ比較が実に興味深いです。勿論The Associationヴァージョンを下敷きにしておりますが、爽快で洗練されたアレンジを鑑みるとAnita Kerrの方が一枚も二枚も上手。パパパ・コーラスや、サビで合致する男女混成Harmonyのカッコ良さにゾクゾクします。とても2分に満たない曲とは思えない程に濃厚な1曲。
★「All This (He Does To Me)」…1968年作LP未収シングル
Warner Bros期における正統派Soft Rock最高峰と称される名曲であり『山下達郎のサンデー・ソングブック』で取り上げられたLP未収の7inch。高揚感たっぷりの弾む演奏と、 サビで一気に開放される極甘ポップな展開に胸熱必至!!!
★「The American Scene」…1969年作LP未収Novelty 7inch(※The American Scene名義)
Dot期における最高傑作と名高いLP未収のダブル・サイダー7inch。Royale Five Plus One『Look At Me, I'm The One』や The Tartans『The Wishing Tree』、Charles Fox『Love American Style』等の、いわゆる飛翔感溢れる疾走系Groovy Soft Rockが好きな方にお誂え向きな1曲。パパパ・コーラスや中盤の渦巻く重厚コーラスは、全盛期のCurt Boettcherや極初期のThe Osmond Brothersを彷彿させますし、間奏のブラスソロなんかは完全にロジャニコですね。躍動感・高揚感・緊張感をキープしたままエンディングまで突っ走る勢いは驚異的!!!
ですが…程好いポップ感とジャジーでMellowなサウンド、楽曲を邪魔しない均整の取れたコーラス、そして必要最小限の音数で楽曲の良さを最大限に引き出すのがAnitaKerrの魅力だと感じていますので、個人的にこの曲はやや詰め込み過ぎでらしくないかな?と感じてます。Soft Rock的な観点だと最高峰レベル間違いなしです。稀少価値が高く、今でもマニア界隈では根強い人気を誇っています。
★「The Bell That Couldn't Jingle」…1969年作『Spend This Holiday With Me』
大人気Burt BacharachのX’masソング。爽快感Maxなポップス・アレンジは流石としか言い様がないですね。後半の遊び心あるコーラス・アレンジも聴きもの。
★「I Make A Fool Of Myself」…1967年作『All You Need Is Love』
Frankie Valliの名曲カバー。憂を帯びたメランコリックなメロディに幻想的なコーラス・ハ ーモニーが非常に印象的。エンディングに向けての胸の締め付け・胸キュン感が半端じゃないです。
★「Lullaby Of Birdland」…1974年作『'Round Midnight』
オリジナルSarah Vaughanヴァージョンを高速ジャズにアレンジするそのハイ・センスさに驚きですが、Anita Kerrの透明感ある歌声で爽快に突き進むスウィングという最強の組み合わせにSoft Rockファン卒倒確定!!!
中盤からのインターリュードとスキャット・コーラスで完全に即死です(笑)。人間離れした神アレンジには開いた口が塞がりません。Anita Kerrのベスト・テイクかと。
14位 Barbara Gryfe「Colours Of The Rainbow」1969年
遂にキター!!!!カナダ産Soft Rock界の三大歌姫【Stephanie Taylor・Barbara Gryfe・Judy Singh】における最高到達点にして最強のロリータ・ヴォイスBarbara Gryfe。彼女の唯一作でありプロモ・オンリーのオリジナル盤『What The World Needs Now』が、たった250枚しかこの世に存在しないのは35位Judy Singhで詳しく説明させて頂いた通り。2000年前後に盛り上がったカナダ産Soft Rock大旋風期に、マニア・コレクターの間でUS1500$超えを記録した世紀の大名盤も、2018年にMajikBus Entertainmentから再発盤がリリース、 現在ではサブスクも解禁され、手軽に聴ける身近な作品へと成り下がってしまいましたが、 アルバムに収録された普遍的且つ千古不易な美しさや彼女の可憐なロリータ・ヴォイスは 今でも光り輝いています。
カナダ・トロントはバサースト通りに立ち並ぶパン屋の歌娘Barbara Gryfe は、11歳という若さで伸びのある歌唱力を武器にタレントコンテストで優勝をし、13歳の時にはシンガー・コンテストで500人の中から選出(倍率500倍)されます。これを受けて数々のCBCのTV番組にレギュラー出演をすることに。子役スターとして活動中、1968年に行われた第2回プロアマ作曲コンテスト「CBC Song Market」の優勝曲である「Colors Of The Rainbow」 のシンガーとして見事に抜擢。優勝曲に加え、優秀賞として入賞した楽曲群をカナダのプロアーティスト達が演奏したコンピ盤『1968 CBC Song Market』には、彼女が吹き込んだ優勝曲「Colors Of The Rainbow」がフィーチャーされておりますが、唯一作とは別録スロー・ヴァージョンなので、ファンの方々マスト・チェックとなります。
カナダ産Soft Rock界隈の著名人達が関連したコンピ盤『1968 CBC Song Market』の影響を強く受け、最盛期を迎えていたBarbara Gryfeが持つ甘いロリータ・ヴォイスの成長記録盤としてアルバム制作の話が持ち上がります。オーケストラ・ストリングスのアレンジ兼演奏にRick Wilkins・プロデュースにDave Bird・エンジニアにIan Jacobson・著作権管理者及び利益配分の責任者であるエグゼクティブ・プロデューサーにJury Krytiuk等々、カナダ産Soft Rock界の錚々たる重鎮が名を連ね裏方で全面サポート。そうして満を持して制作された『What The World Needs Now』が翌年1969年にリリースされます。
初見では衝撃を受けざるを得ない彼女の声質は先天的なものですので、ある意味【神様からの贈り物】とも言えますが、その歌声に磨きを掛けたのは幼少期の頃から歌い続けた彼女の努力や継続力に他ならないでしょう。そして彼女の歌声は何とも形容し難く、比類無い美しさを放っており、Soft Rock 史上他に類を見ない程に圧倒的な強い個性を持っております。相田毅氏による「艶やかな歌声は子供以上、大人未満なリリシズムに溢れている」とは、実に的を得た言及で、レコーディング当時若干18歳にして圧倒的な歌唱力・艶やかな表現力・ 伸びのある安定感・若々しく潤いのある声質・高音部も苦にしない余裕綽綽の音域の広さ・ブレス(息継ぎ)の継ぎ目が全く見えない高声量・極甘なロリータ・ヴォイス…等々、女性歌手たる者が持つべきバロメーター指標をこの時点で完全網羅してしまっています。それでいてシャウトやエッジ・ヴォイスの効いたSoul Powerは封印しつつ、あくまでSoftな癒しと柔和な艶やかさに徹底したポップ・サウンドを響かせているのがSoft Rock界に君臨する【King Of 歌姫】たらしめる所以なのです。
裏方サポート陣営により、そんなBarbara Gryfeの魅力を最大限に活かしたサウンド・アプ ローチが施され、唯一作である『What The World Needs Now』は得も言われぬ幸福感に満ち溢れております。アルバム制作のきっかけとなった「Colors Of The Rainbow」に加え、Petula Clarkの歌唱でもお馴染みのTony Hatchによる2曲「Who Am I」「Don't Give Up」と最強ライター・コンビBacharach & Davidによる「I'll Never Fall In Love Again」「What The World Needs To Know」の計5曲がSoft Rockファンにとって最大の聴き所となっております。
とりわけ『1968 CBC Song Market』の優勝曲であるMellow Ballad系大名曲「Colors Of The Rainbow」の煌く音像が異次元レベルに美しい。至極のメロディと楽曲を盛り立てる優雅なオーケストレーションがBarbara Gryfeのナチュラルな歌声に完璧にマッチしており、Soft Rockの真髄を極めています。彼女の歌声&声質自体に歴史的価値がある為、アルバムの1曲1曲を大事に聴いて頂きたい次第であります。
13位 Ralph Carmichael & The Young People「The Magic Of Believing」1972年
レリジャス系最大大手レーベル「Light Records」を自ら立ち上げ、後世に多大なる影響を及ぼしたCCMの先駆者Ralph Carmichael。本人名義や変名名義に加え、マルチミュージシャンとしてクレジットされている関連作品は星の数程存在すると言われており、その数ある作品群の中でも最もSoft Rock度が高いとされているのが【Ralph Carmichael & The Young People】名義。
全6作品の中でも、ラブジェネ解散後に映画『栄光のライダー(On Any Sunday)』のサントラ盤やThe Going Thingシリーズで裏方ミュージシャンとして絶頂期を迎えていたJohn Bahlerが参加した70年作『Our Front Porch』71年作『Young』72年作『Have A Nice Day』の3作品がSoft Rockファンにとっての聴き所となります。特に前者2作品に関しては、Soft Rock系専門誌での掲載や各所で取り上げられたことで、特に国内のライト層からの認知度・人気度共に高め傾向にあります。
しかし、実際にはバラエティに富んだ充実性や好内容なサウンド面において最高傑作として名高く、世界的にトップ・レベルな高評価を得ているのが1972年にリリースされた『Have A Nice Day』。フロアを沸かす強烈なRare Groove系チューン「Gotta Have Faith」が収録されていることで、国内外問わず世界中のDJ界隈垂涎の的になっており、多方面から注目を集めている1枚でもあります。
まず春を印象付ける暖かく温もりのあるカラフルな表ジャケット。The Young People名義の中でもデザイン性・アート性で言うと随一の高さを誇っており、ジャケ買い層に関心を惹かせるのに十分な効力を放っているビジュアル面。実はこの視覚的イメージがサウンド面に上手く落とし込まれており、春暖なChorus & Harmony・陽気で明るいポップな音像・色彩豊かな種々雑多ジャンルがアルバム全体で表現されております。
ここで少々蛇足になりますがRalph Carmichaelがどういった経緯で表舞台に立つことが出来たかについて手短にお話しさせて頂きます。
彼は元来家系的にペンテコステ派に属する敬虔なキリスト教徒で、ヴァンガード大学という神学校を卒業して牧師になります。キャンパスで知り合った音楽コミュニティ仲間と男性カルテットを結成して、福音音楽にJazzやClassicを盛り込んだオリジナルな音楽スタイルを教会で演奏したところ、宗教にそぐわないと教会からの猛反発を食らい、異端者と呼ばれる羽目に。しかし周囲の批判をよそに演奏を続けているとTV・Radioメディアから声が掛かり、その後音楽業界に頭角を現すことになるのでした。
『Have A Nice Day』ではミュージカル系からFunk・Rare Groove・Jazz・Blues・Soul・Country・Gospel…等、ありとあらゆるサウンドが交錯するCross Over的なプログラム構成となっており、トータル性や纏まりに欠ける作品と捉えられがちですが、実は彼が若かりし頃に実践していた音楽的思想体系が自然体に体現されているのです。
そんな多様なサウンド面にSoft Rockファンの方々は不安を覚えるかもしれません。しかし心配は御無用。前述した様に腕利きのミュージシャンによりバチバチに決まった演奏に乗せて、脂の乗り切った実力派コーラス・アレンジャーJohn Bahlerによる清涼系混成Chorus & Harmonyが全編通じて堪能出来ます。中でもSoft Rockファンの方々に強く推薦したいのが、B面4曲目「A Helping Hand」とA面5曲目「The Magic Of Believing」。
まず前者「A Helping Hand」は、Hagood Hardy & The Montageを彷彿させるお洒落系Bossa Jazz系Soft Rock ナンバー。中盤以降の張り詰めた緊張感や怒涛のコーラス・ワークが注目ポイント。スキャット・コーラスあり、パパパ・コーラスあり、演奏のメロディやリズムに合わせてハモりまくる驚異的なトラックです。
そして今作最大のハイライトにしてSoft Rock史に残る奇跡の問題作「The Magic Of Believing」。爽快な混成コーラス・温もりあるSoftなメロディ・洗練されたサウンドが渾然一体となったSoft Rockの完成形とも言える超弩級の大名曲。Soft Rockを語る上で決して欠かせない1曲になりますので、ファンの方は是が非でも入手しましょう!!
12位 The Unisounds「Bluesette」1971年
豪州メルボルンのTV局GTVから誕生した男女8名の混成ヴォーカル・グループThe Unisounds。極小マイナー・レーベルから1971年にリリースした彼らの唯一作『S.T.』は、メルボルンのダンス・バンド「The ABC Showband」の旧メンバーであり、自身のコーラス・ グループ「The Kevin Hocking Singers」を指揮するコーラス・マスターKevin Hockingがヴォーカル・アレンジメントを担当し、TV番組での音楽ディレクターやポップ・シンガー系アーティストの編曲・プロデュースを主に手掛けるBrian Rangottがオーケストラの総合指揮を担当しています。どうやらこの2名が今作の重要仕掛け人ということが裏ジャケの記述から見て取れますが、それ以外の情報は全く開示されておらず、何しろオブスキュアなレコ ードを専門に扱う現地のAussieディーラーですら、その存在をしっかり把握出来ていないという現状。
そんな匿名性が非常に高い謎に包まれたこのグループは、意識高い系のレコー ド・マニアの方々から【豪州産The Free Design】とも称される程、Soft Rock的な高い評価を得ており、その抜群にイカした極上のJazz系Soft Rockな楽曲群を耳にすれば【豪州産Soft Rock最高峰!!!】に位置する作品だと御理解頂けると思います。ジャケ違いの同内容盤が新西蘭からも同年にリリースされておりますが、両盤共にレーベルの性質上プレス数(流通量)が極めて少なく、希少性の高さがマンモス級な為、もし入手出来る機会に恵まれまし たら、一期一会のチャンスだと思い即購入を強くお薦め致します。
オーケストレーションを配したJazz演奏を基調としつつも、鮮やかなポップ・サウンドで彩り、重層的且つ濃厚なHarmonyでメロディを奏でていくのが彼らの基本スタンス。特にChorus & Harmonyではユニゾンやハモりだけでなく、Jazz系特有のヴォーカリーズからオープン・ハーモニーまで取り入れており、多様なバリエーションを楽しめます。そして特筆すべきなのはSoft Rock的な選曲の良さ。第17位で紹介させて頂いたAlan Copelandによるマッシュ・アップ「Mission Impossible/Norwegian Wood」のGroovy Coverに始まり、The Associationでお馴染みRuthann Friedman作「Windy」・快速スウィング「Come Back To Me」・多層型Harmonyで攻め込んだThe Cyrkle「Turn Down Day」・The Bill Chattam Singersも取り上げた「Wouldn't It Be Loverly」・モロHarpers Bizarreな彷彿させる絶品バーバンク「Holiday For Strings」…等々、オリジナルもかくやと思わせる極上Soft Rockナンバーのオンパレード!!
そして最大の極めつけはB面5曲目に収録された「Bluesette」。2分11秒と小曲ながらも、前奏の6秒を過ぎてからChorusでカット・アウトするエンディングまで休むことなく重層Harmonyで畳み掛ける無駄も隙も無い完璧な大名曲に仕上がっております。前半は輪唱・間奏でヴォーカリーズ・後半でユニゾンとハモりの使い分けをしておりまして、たった1曲の中で男女混声コーラスの利点を効果的に活かしております。前半部0:27秒辺り~の輪唱では女性陣が主旋律を歌い、そこに男性陣が後追いしていく「カエルの歌」スタイルで魅せていますが、歌詞も違う上に微妙にテンポをずらしたり合わせたりと、非常に難解にして高度なハモりテクニックを難無くこなす辺りは実力の程が伺えます。そして圧巻なのが間奏のヴォーカリーズ。本来であれば楽器のソロ・パートが宛がわれる箇所ですが、輪唱が終わってから間髪容れずにスキャットで疾走。女性陣のダバダバ・コーラスと男性陣のバッパラー・コーラスが怒涛の掛け合いラッシュで攻めぎ合い、「ドゥユドゥユ~♪~ブル~ゼッ ト♪」で足並みを合わせる目まぐるしいHarmony展開を演出。この間、僅か10秒程ですがコーラス好きには天国行きと言える最高の瞬間かと。締めのエンディングも圧巻な終焉で幕を閉じます。縦横無尽に駆け巡るChorus & Harmonyの最上極致点の逸品として激押し大推薦です。
11位 Philip & Vanessa「It Ain't Easy」1975年
West Coast Rock風の爽快で涼し気なサウンドと、垢抜けた音作りが印象的なAORの大名盤『Minuit / Midnight』。1979年に英語盤と仏語盤が同時にリリースされたこの作品は、どちらも同意義の【真夜中】を指す【Minuit(仏語) / Midnight(英語)】がタイトルとアーティスト名になっており、仕掛け人はDwight DruickとPhilippe Vyvialのフレンチ・カナディアンによる男性SSWデュオ。このアルバムが紹介される時は、AORサウンドに一役買っていたDwight Druickが良く引き合いに出され、彼が翌年に発表するToto「Georgy Porgy」 の仏語カヴァー収録の人気盤『Tanger』も併せて取り上げられ、何かとDwight Druickに注目が集まりがち。しかしこれはあくまでAORファン向けということであり、我々Soft Rockファンが目を向けなければならないのは、『Minuit / Midnight』で軽快さや爽快さ、そして甘めのメロディ・ラインを請け負っていたPhilippe Vyvialの方なのです。
時を遡る事1968年。Philippe Vyvialは、カナダ・ケベック州で開催されたモントリオール万国博覧会で英国人SSWであるVanessa Wansbrough-White に出会います。同じ音楽性を持ち合わせていた二人は即意気投合してデュオを組み、モントリオールを拠点として音楽活動を始めます。それほど苦労無くして名声とお金を手にすることが出来た二人は、Vanessaの生まれ故郷であるロンドンに活動拠点を移すも、音楽市場の最先端を走っていた英国の地ではなかなかレコード契約に結び付かず…。それでも希望を持ち続け、諦めずに活動を続けていました。するとCarlin MusicのMichael Collierと、創設されたばかりの新生レーベル【Anchor Records】所属兼プロデューサーMartin Wyattの二人が、彼らの音楽性に強い感銘を受け、契約の話を持ち出します。数々のBritish Rockの名作を生んだ超有名スタジオ「Trident Studios(トライデント・スタジオ)」での制作、そしてデヴュー・シングルとアルバムのリリースを約束するといった契約内容でした。そうして発表された1974年の1st Single「Two Sleepy People / You Know」が見事英国でスマッシュ・ヒットを記録。翌年に同タイトルのアルバムもリリースして、BBCの生放送TV番組【Top of the Pops】にも出演する等、瞬間風速的にメディアに露出することもありましたが、残念ながら同年にデュオは解散してしまいます。
表舞台での活動は極めて短いものでしたが、Soft Rock的な観点から聴くと、一作で解散してしまうのはあまりに勿体なく感じる程に魅力的なデュオでした。唯一作である『Two Sleepy People』が、Philippe Vyvialの音楽キャリアの中でも最もSoft Rock度が高い作品であり、彼の魅力が最大限に生かされた最高傑作なのは間違いないでしょう。その素晴らしさはPhilippe Vyvialの透明感あるヴォーカル・ハーモニーに尽きます。デュオと言えども、パートナーVanessaの歌声がはっきりと聴き取れるのは全12曲中3曲のみで、その他2曲ではツイン・リードでハモっておりますが、Philippe氏の甘いハイトーン・ヴォイスがあまりに美しい為に彼女の存在感はかなり薄め。Philippe氏の歌声は全曲で聴ける為、彼のSolo作の様でもあり透き通ったヴォーカルが存分に楽しめます。
全曲が高品質な佳曲揃いの好盤である為、お薦めの曲を挙げるのは困難を極めますが、一般的に今作で一番の目玉とされているのがAmerica「Ventura Highway(下記試聴1:47~3:12)」のカバー。オリジナルの作曲兼ヴォーカルを担当したDewey Bunnellは、元々Americaの中でもNeil Young風の湿った重さを感じる声質でしたので、Philippe氏によるカバーでは尋常じゃなく清涼感を感じます。特にBメロからのダブル・トラックによる厚みのあるヴォーカルと、「ドュールドゥ」コーラスが最高にカッコ良く、オリジナルを軽く凌駕する究極の爽快カバーとなっています。
私的ハイライトはB面2曲目「Not Looking Back」とA面1曲目「It Ain't Easy」のPhilip & Vanessaデュオによるオリジナル・ソング2曲。まずは前者の「Not Looking Back(試聴0:00~1:46)」は、イントロとサビをデュオ両者がヴォーカルを分け合う構成になっていて、前半でゆったりとしたワルツ調のポップ・ソングかと思いきや、Philippe氏のヴォーカルが始まる中盤辺りから、キラキラと煌く胸キュン・ポップを展開。Vanda誌で度々言及されて いるSoft Rockサウンドの最重要アイコンでもある【高揚感】が正に最大限に活かされた楽曲構成になっております。たったワン・フレーズで全てを掻っ攫うこの胸の高鳴りは異次元レベル。超絶レコメンドです!!
そしてアルバム冒頭に収録された後者「It Ain't Easy(試聴5:22~6:11)」はミディアム・ メローポップな楽曲で、透明感ある歌声でSoft Rock界の頂点に位置するJohn Perryに近い声質で唄われています。ゆったりとしたMellowな雰囲気を醸し出しながらも、マッカ遺伝子100%の極甘ポップなメロディ・ラインが堪らなく美しく、非常に中毒性の高い好ナンバーな仕上がりになっております。聴けば聴く程に味わい深く、70年代初期特有な音質感が プンプン感じられるので、個人的には今作での一推しの楽曲です。特に「極甘系」Soft Rockがお好きな方にとってはイチコロ・レベルの悶絶級なので、心して御試聴なさってください。
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