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Soft Rock Top 35位~31位


35位 Judy Singh「Samba Del Sol」1970年

全ソフロファンを震撼させた伝説級モンスター盤!!!

 Stephanie Taylorの際にも記載したので重複になってしまいますが、カナダ産Soft Rock界における三大歌姫【Stephanie TaylorBarbara GryfeJudy Singh】の2人目の御紹介をしたいと思います。今回はその3名の中でも一番知名度の高いJudy Singh。2018年にMajikBus Entertainmentから再発盤がリリースされる迄は、《秘宝的》・《幻級》・《モンスター級》のレア盤としてファン垂涎のアイテムで、入手難度の高さから価格の高騰も激しく、美盤でもないグレードでさえ10万超えもザラでした。
 この三大名盤のオリジナルはCBC Radio Canadaというレーベルからリリースされているのですが、まずそもそも論として何故彼女達の作品群がそこまで希少性が高かったのか、そして《カナダ産Soft Rock》とはどういった性質を持つ派生ジャンルなのか?というお話をさせて頂こうかと思います(御存知の方は飛ばし読みでお願いします)。
 カナダ産Soft Rock界には「CBC Radio Canada(通称CBC)」と「Canadian Talent Library(通称CTL)」という2大巨頭レーベルがあり、共にラジオ局を母体とする特定非営利活動法人。当時は両レーベル共にカナダ人ミュージシャン達に数百枚のプロモ盤をレコーディングさせて、その音源をラジオ・ステーションで流しっぱなしにし、評判の良かった盤だけを正式にリリースするという手法を取っておりました。言わずもがな受けの悪かったレコードはお蔵入りとされ、関係者の元に数少なく残ったプロモ盤が後にネット上でかなりの高額で取引されることになります。
 元々販売を盟とせずに制作された理由から、プロのミュージシャンにより制作されていたとは言え、素人並みの雑然としたゴミ盤から当時の英米に匹敵するトップレベルな名盤まで内容の格差には大きな幅があり、そのほとんどがSoft Rockとは程遠い凡庸なCountryやFolk寄りのサウンドばかりでした。そんな中にもメイン・ス トリーム系のSoft Rockファンをも唸らせる様な至宝級の傑作盤が極稀に潜んでおりましたが、そういった【当たり】的な名盤に出会う確率は極めて低く性質上プレス数が少ないので、アンテナの高い特定のコア層のみが楽しむ比較的ニッチ派生の強いジャンルでもありました。

初心者向けSoft Rock本

 Soft Rockの聖書とも言える佐野邦彦氏監修によるVanda系の音楽本ではCBC&CTL関連はThe Mutual Understandingくらいで、カナダ産SoftRockを大々的に取り上げられることは無く、江村幸紀氏監修によるシンコー・ミュージックのディスクガイド・シリーズ 『Soft Rock』では唯一選盤されたThe Sycamore Street Singersが《US Artists up to 1970’s》という米国の括りで紹介されている上に(同じくカナダ出身のThe Free DesignやThe Sugar Shoppe も何故か米国括り)、凡盤であるスプリット盤をチョイスするという非常に御 粗末な扱いぶり…。

中級者向けレコード・ブック(Soft Rock応用編)

 真っ当な評価を得始めたのは2000年代以降。都市型音楽シーンに絶大な影響を及ぼした橋本徹氏監修『Suburbia Suite』や、鈴木雅尭氏監修『Record Hour』等のディスク・ガイド本で紹介されたり、レコード番⾧と呼ばれる人気DJの方々がフロア・ユースなネタ盤として取り扱ったり、某レコード店では掘り出し物のレア盤放出の目玉にされたりと、ようやく《カナダ産 SoftRock》が一つの派生ジャンルとして市民権を獲得。
 しかしながら前述した理由から、人気沸騰時にカナダ産SoftRockの名盤群をタイムリーに堪能出来たのは極一部のマニア層のみ。そこへ救世主的に現れたのが2016年に復活したNorman Petty氏による【SuperOldies】と上記で記した2018年の【MajikBus Entertainment】 による再発プロジェクト。数ある名盤群の中から復刻されたのは僅か数枚程度でしたが、それまで~万円した奇跡のお宝名盤がお手頃価格且つクリアなサウンドで耳にすることが出来るということで、ライト・リスナーには大変有難い企画でしたが、数量限定販売だった為に即完売し、その再発盤でさえも入手困難に。そしていつしか誰も話題にしなくなり、またしても辺境に埋もれたオブスキュアな存在に成り下がってしまった…というのが実情で御座います。
 話を戻しますと、そんなカナダ産SoftRockを代表するJudy Singhの唯一 Solo作『A Time For Love』が、話題性・人気度共に最高ランクに位置するのは粒揃いに立ち並ぶ名曲群の最良な内容面に加え、当時若干20歳のDavid FosterがA面4曲目「Up & Down」とB面4曲目「Forever Waits Beyond」という2曲を楽曲提供しており、彼の極初期作品としてAOR系のファン層にも注目が集まったことが要因とされています。

Judy Singhを見出したカナダ音楽界の巨匠Tommy Banks

 どんな経緯で制作に至ったかというと、アルバータ州エドモントン出身Judy SinghがJazz系のシンガーとして地元を中心とした地域RadioやTVでの出演を重ねていたところ、偶然にもカナダの音楽業界・放送ネットワークにも伝手があるマルチ・ミュージシャンTommy Banks(本名:Thomas Benjamin Banks)と出会ったことがきっかけでした。彼はJudy Singhの歌声の美しさに衝撃を受け、『A Time For Love』の裏ジャケに記載されている推薦文には「Judyの歌声を聴いていると、まるで黄金のシャワーを浴びているかの様な心地になる」 と彼女特有のロリータ系ウィスパーヴォイスを大絶賛。CBC関連のプロダクションにも携わっていたTommyは、早速彼女のSolo Albumを手掛け、同時にJudyとのデュオ作『Make Someone Happy (GRTレーベル)』まで制作し、同年(1970年)に2作品をリリースすることに。

Tom & Judy『Make Someone Happy (GRTレーベル)』

 1970年7月にCBCエドモントンでレコーディングされた『A Time For Love』は、基本的にはJazzサウンドを基調としており、軽快なボッサ・ビートに流麗なストリングスが絡む 「Look Around」「Samba Del Sol」「Song Under The Sun」辺りの楽曲が非常に印象的な作品です。そしてこのアルバムを極めて魅力的にしているのは、やはりJudy嬢のロリータ系ウィスパーヴォイス。喉奥から溢れる繊細にして可憐な声質・徹底したヴィブラート唱法・ 語尾に息使いを残す独特な節回し…声色一つで独創感溢れる世界観を構築出来るのは正に感服の至り。
 そしてアルバム最大のハイライトは唯一相棒のTommy Banksが作曲した「Samba Del Sol」でしょう。《太陽のサンバ》とも題されたこの楽曲は、極限までに極められた悶絶級のSunny Popな仕上がりになっております。Bosa Nova調に乗せた哀愁を帯びた甘いメロディが格段に美しい上に、Judy嬢による神懸かり的な歌唱法にはウットリさせられます。故意にワンテンポ遅らせ、キュートに丁寧に歌い上げ、語尾にはセクシーなヴィブラート・息遣い・吐息で魅了してくれます。

34位 The Changing Scene「Is It Really Worth It」1969年

完成度の高さが異常過ぎる最強Surf Ballad!!!

 米国NY出身の男性4人組によるPsyche系Soft Rockグループ。71年にリリースにされた彼ら唯一のアルバム『S.T.』が、良質な王道Soft Rockの名盤として各所で取り上げられる程に人気の高い一枚。ほぼ同年代に傑作盤を世に残した近郊メリーランド州ボルチモア出身のThe Peppermint Rainbowから少なからず影響を受けている楽曲が複数収録されており、主にSoft Rockファンから話題を呼びました。  
 Bubble Gum PopとPsyche要素を上手く絡めたサウンド・アプローチ、そして一貫してメランコリックな美メロと華美なオーケストレーションが絶妙に配合されており、アルバム全体としては幻想的でカラフルな世界観に包まれております。

カラフル・ポップなサイケSoft Rock最高峰!!!

 個人的にはアルバム発表の約2年前に当たる1969年11月にリリースしたデヴュー・シングル『Is It Really Worth It / Sing Me Something Pretty』を強くお薦めしたいです。特にA面の極上Surf系Ballad「Is It Really Worth It」は必聴。アルバム期に顕著だったPsychedelicな浮遊感は皆無ですが、感傷的で胸を突くメロディ・ラインをベースにストリングスを主体とした楽曲構成は変わらず。The Symbolsを彷彿させる濃厚Harmonyが特に素晴らしく、英国産Harmony Popグループも真っ青な超弩級の出来栄え。あまりの分厚さにストリングスの方が完全に圧倒されています。Sight And Sound「Jackie」辺りが好きな方は是非!!

33位 The Affection Collection「The Way That I Feel」

グループ名・ジャケ・ヴィジュ全てが絶望的にダサいが…

 Mark Eric「Laura's Changing」で印象的な《ポンポン・コーラス》。これは Soft Rockファンならお馴染みThe Associationの「Cherish」をお手本としている訳ですが、仕掛け人は勿論Curt Boettcher。彼は複雑且つ難度の高いChorus Workで、The Associationに革新的なサウンドをもたらし、彼らを象徴とする輪郭を曇らす浮遊系Chorusを確立しました。そんなThe Association の正統派フォロワーとして知られ、この《ポンポン・コーラス》を見事なアレンジで昇華させた大名曲「I Don’t Mind」を生んだのがThe Affection Collection

芋過ぎるド田舎出身のThe Affection Collection

 Norman Pettyがプロデュースした米国アイダホ出身の白人5人組グループの彼らは、この1曲で数多くのSoft Rockファンを悩殺してきたと同時に、一発屋のイメージが付いてし まった不運のグループでもあります。 
 実際に1969年にリリースされた彼らの唯一作『S.T.』では、Oldies系のPop Styleを基調としたBubble Gum系のRockナンバーが多く立ち並んでおり、「I Don’t Mind」だけが特に傑出した楽曲であることが浮き彫りになっております。同年代のThe GoodtimesやThe Fun & Games、The Peppermint Rainbow 等と比較すると年代の割にやや古臭いサウンドにも感じられますが、どんな楽曲でも絶妙なタイミン グでしっかりと被せるChorus & Harmony・キレのあるタフなBeat・柔らかな音響効果を生むオルガンとシンセサイザーの音色等は特に印象的で、ややRock色の強いSoft Rock作品として楽しめます。

↑このCD-Rに超絶詳しく結成経緯が記載されています。

 彼らの結成に至る経緯や秘話、そしてリユニオン結成に関する興味深いストーリーにつきましては、2007年に《SuperOldies》から数量限定で販売されたコンプリート版CDに詳細が記載されているのでここでは割愛させて頂きますが、実はこのコンプ版CD。Soft Rockファン見逃し厳禁な最強トラックが収録されているので是非紹介させて下さい。収録されている楽曲は、アルバム全12曲・LP未収シングル4曲・未発表音源7曲(内2曲がリユニオンの新録)の計25曲が完全網羅されております。
 強く推薦したいのがLP未収のシングル「Feelin' So Good」と未発表音源の「There Comes A Time」「The Way That I Feel」の計3曲。まず「Feelin' So Good」は、1969年リリースされたシングルB面に収録された楽曲で、彼ら特有のOldiesらしさを残しつつも、軽快なBeatに乗せた爽快なポップ・サウンドが最高にカッコ良い佳曲。 お次は未発表音源「There Comes A Time」。緊張感の無いまったりとしたイントロとメロディックでキレのあるサビが特徴的で、この抑揚とギャップが独特な世界観を構築しています。加えて大サビの盛り上がりも申し分なくカッコ良く、Garage系Soft Rockが好きな方にはかなりグッとくる曲かと。
 そして劇的にヤバいのが同じく未発表音源の「The Way That I Feel」。Garage Rockなギター・リフとMellowなピアノの音色で始まり、ノリの良いリズムに乗りながらサビに入ると濃厚なChorusに包まれます。英国が誇るHarmony Pop系グループThe HoneybusとTheSymbolsが最高レベルでドッキングしたかの様なサウンド傾向で、特にマイナー・コードを使った洒落たセンスが奇跡的な格好良さを体現!!!無駄も隙も一切省いた完全無双の悶絶系即死級トラック。個人的に超が付くお薦めソングです。

32位 M.C.C.「Just Pretending」1979年

芸術性の高さはCCMトップクラス!!

 英国の伝承童謡マザー・グースに「Monday's child(月曜日の子)」という曲があります。「子供の運命は生まれた曜日によって決まっている」といった内容を示唆する古来からの伝統的な歌謡で、その中の歌詞の一部に「Thursday's child has far to go木曜生まれの子は遠くに行く)」というフレーズがあります。深読みすると「旅に出る星の下に生まれた子供」という意味合いだそうです。「Thursday's Child」という言葉は、英国では小説や映画のタイトルとして度々使用されており、David Bowieの1999年にリリースされたアルバム『Hours…』 にも同名の曲名が収録されてます。

1999年作 David Bowie 20th Album『Hours...』

 英国では親しみ深い(?)とされているマザー・グースの歌詞をタイトルに付けた1979年作発表のアルバム『Thursday's Child Has Far To Go』。アーティストはCCM系のローカル・グループM.C.C.。UK産CCM系Psych FolkグループReflectionがその母体で、1974年にリリースした『Sounds Of Salvation』に参加していたMartin Colley、Rob Cox、Chris Mayの3名からファミリー・ネームの頭文字を省略したアクロニム(acronym)がグループ名の由来になっております。

M.C.C.の母体Reflection74年作『Sounds Of Salvation』

 唯一作であるアルバムは英国・北アイルランドの首府ベルファストのCCM 系ローカル・レーベルGrapevineから1979年にリリースされました。当初は2枚組でのリリースが計画されておりましたが、レーベル側の資金準備不足により断念。そういった経緯もあり収録曲が両面合わせて14曲と、この年代にしてはやや多めになっております。定かではありませんが、クレジットを見る限りどうやらReflection関連の人脈により構成されているみたいです。リード・ヴォーカルもオリジナル・メンバーのChris Mayが1曲担当しているだけで、その他の曲は制作に参加しているセッション・シンガーによって歌われております。
 とりわけ惹かれるのはジャケ写の美しさ。追憶の情景を想起させるストーリー性を孕んでおり、キリスト教における結婚の失敗をテーマにしているそうです。ジャケットのイメージそのままに、心に残るノスタルジックなメロディーが全体を包んでいます。その中で超絶級に輝きを放っているのがA面3曲目に収録された「Just Pretending」。元々がサイケ・フォーク畑だったこともあり、出だしの浮遊感が漂う雰囲気作りはお手の物といった印象。優しくも憂愁に満ちた女性コーラスに乗せて歌いだす甘~いVocalが筆舌に尽くし難く美しく、歌詞をじっくりと噛み締める様な歌唱が心に染み入ります。そしてトロける程に甘くMellowなメロディに完膚なきまでに打ちのめされてしまいます。

31位 The Spurrlows「My Favorite Things」1972年

フレッシュな柑橘好きには堪らん映えるジャケ!!

 主にCCM系シンガー兼プロデューサーとして知られ、現代のCCMサウンドの開拓者でもあるThurlow Spurr。彼の名前を文字って付けたコーラス・グループThe Spurrlowsは1959年に結成され、彼が創設した数多くあるグループの中でも初代のグループであり、⾧年米国全土と世界中を旅しながら演奏することで、米国産業のエンターテインメントを発展させてきました。
 当時米国に星の数程いたと言われる旅行型福音グループは、基本的にピアノやオルガン等の鍵盤楽器に合わせて合唱するスタイルが主流でしたが、Thurlow Spurrはドラ ムやギターを加え、豊かなアンサンブルのハーモニーを取り入れることで、既存のCCMサウンドに革新をもたらします。その後、総計数千を超えるライブ・パフォーマンスの実績に加えて、4人の米国歴代大統領(ニクソン、カーター、フォード、レーガン)を観客として迎える程の名誉も授かり、福音音楽業界へ多大な影響を与え、Spurr氏の革新は現代におけるCCMサウンドの発端であると信じられています。
※(コンサートやテレビ番組に加えて、合唱団の指揮・作曲・編曲・プロデュース等々… 広範囲に及ぶSpurr氏の福音音楽活動は、とても一言で語り尽くせない程に膨大な為、この記事では割愛させて頂きます。)

宗教臭さが半端ない…

 総数40枚を超えるThe Spurrlows名義の作品群の中でも最高レベルに位置する屈指の名盤が『A Slice Of The Spurrlows(1972年作)』。表ジャケに写るスライスされた柑橘系フルーツの断面が非常に印象的で、そのイメージが本作でのサウンド面に投影されており、洗練されたフレッシュなコーラス・ワークとジューシーな甘いメロディ・ラインが楽しめます。特に注目を集めているナンバーは、宗教Soft RockのキーパーソンOtis Skillings作曲「We Need More Love」。お馴染みのファンキー・ポップサウンドが炸裂で一聴の価値ありです。その他「Bridge Over Troubled Water」「You've Got A Friend」「Scarborough Fair」等のポップス系楽曲のカバーからコンテンポラリー物・ヴォーカル物までバラツキが目に付きますが、実力と経験で培った鋭いコーラス・ワークは目を見張るものがあり、雑多なサウンド志向も全く気になりません。

『A Slice Of The Spurrlows』裏ジャケ

 Soft Rockファンに人が高い楽曲は3曲ありまして、まずは冒頭の「A Wonderful Day Like Today」。ゴキゲン・ポップなサウンドにゴージャスな演奏、そして爽快感ある美麗なハーモ ニーが大変素晴らしいです。そしてもう一つがA面4曲目の「Bridge Over Troubled Water」。 こちらは約6分にも及ぶ⾧尺カバーになっており、オリジナルと比較すると非常に壮大でドラマチックなアレンジが施されています。天にも昇る研ぎ澄まされたコーラス・ワークは、 神聖でいてスピリチュアルな雰囲気を持ち合わせており、心が洗われえる名カバーです。
 最後はA面3曲目に収録された「My Favorite Things」。Jazzのスタンダード・ナンバーとしても有名な傑作ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』からの1曲。CCMとは思えない程にジャジー・ライクでタイトな演奏。グルーヴィーな展開で魅せる圧倒的なコー ラス・ワークが尋常じゃなくカッコ良く、聴いていてゾクゾクします。たった2分半の曲ですが、恐ろしい程に濃厚。稀に見る圧巻の名カバーです。


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