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Soft Rock Top 30位~26位


30位 Cyrus Erie「Wish You Were Here」1970年

Mod風でもありサイケ感も漂う統一感の無いヴィジュが印象的

 Raspberriesの母体であるCyrus Erieは、後期Raspberriesに参加するドラマー兼シンガーのMichael McBrideと彼の弟でベース担当のBob McBrideにより結成されました。活動は1967年~1970年の4年間。初期のオリジナル・メンバーにはギター担当のTim Manning・キーボード担当のRob Belzerが在籍しており、67年前期に地元Clevelandのスタジオにてオリジナル・ナンバーでレコーディングするもお蔵入りに。67年後期になるとMarty MurphyとThe Choirへの加入を拒まれたEric Carmenが参加。Ericの歌唱・鍵盤・Guitarの技量が、他のメンバーと桁違いに高く、一気にリーダー格へ昇格。そしてEric は自身のメンバー入りを蹴ったThe Choirに対して対抗意識が強く、The Choirを脱退したばかりの名ギタリストWally BrysonをCyrus Erie引き連れて、バンド編成を再構築。

The Byrdsスタイルを踏襲した元祖パワポ・サウンドが魅力的なThe Choir

 幸運にも新生Cyrus Erie発足時にThe Choirが一時的に活動を休止。ここぞとばかりに新生Cyrus Erieは68年の夏から秋に掛けてCleveland各地でライブ巡業に明け暮れます。地元ファンによる熱狂ぶりが大旋風を巻き起こし、視察に来訪していたThe Four Seasons(Bob Crewe)関連絡みでも著名なプロデューサーSandy Linzerの目に留まることに。ライブ演奏で定番になっていたThe WhoやThe Small Facesのナンバーに加え、Ericのオリジナル・ナンバーも含まれており、それが後にシングル・カットされる「Sparrow」でした。Sandy から声が掛かり、早速彼らはNYのスタジオへ赴き「Sparrow」をレコーディング。その後一度帰郷するもMarty Murphyが脱退することに。残ったメンバーのみで再びNYへ足を運び、「Sparrow」の新ヴァージョン・「Get The Message」・Oliverが1971年にカバーする「Light The Way」の3曲をレコーディング(全てEricの書下ろし)。結局「Sparrow」「Get The Message」の上記2 曲が採用され、翌年2月21日にEpicよりデヴュー・シングルを発表。これが見事地元Clevelandでスマッシュ・ヒット!!

唯一の正規リリースとなった『Sparrow/Get The Message』

 順風満帆かと思いきやEricとWallyの間にいざこざが生じ、Wallyは脱退。その後もメンバーの入れ替えが立て続けに起こり、1969年にはThe Quickと改名。Epicとの契約がまだ残っていた為、同年8月1日にThe Quick名義での唯一作となる『Ain't Nothin' Gonna Stop Me / Southern Comfort』を発表するも、両曲共明らかにThe Small Facesを意識したエッジの効いたR&B風モッズ・サウンドで、二番煎じが著しかった為か全くヒットせず。
 数か月後に再びCyrus Erieにグループ名を戻し、1970年頃までEpicと契約交渉をしながらもシングル・リリースの為の新曲をレコーディングをしておりましたが、結局は解散し、 吹き込まれた楽曲群もお蔵入りに。その後EricとWallyは復縁し、The Choirを脱退していたDave Smalley・Jim Bonfantiらと共にRaspberriesを結成…。

地元Local Bandのリーダー格のみで集結されたスーパーグループRaspberries。
仲間割れ・衝突は日常茶飯事だったとか…

 と、ここまではRaspberries・Eric Carmenファンの方々なら重々御存知のはず。で、Cyrus Erieが解散直前にレコーディングした楽曲の内の1曲が「Wish You Were Here」。Eric御本人に直接この曲のことについて尋ねてみましたが「覚えてない」の一点張り…w。にしても、こんな大名曲がお蔵入りなんて勿体無さ過ぎる。ビルド・アップのメロディ展開がモロ初期Raspberriesなのでファンは涙腺が緩むはずですし、甘くもクラシカルな美メロはEric Carmenそのもの。やや粗削りながらも濃密なコーラスや爽やかなサウンドは正にド直球のSoft Rock。見落としていた方は是非。

※追記:Cyrus ErieWish You Were Here」の動画がYouTubeで削除されてしまいました。もしかしたら公式リリースされる伏線かもしれません。御試聴環境によってはDL出来ないかもしれませんが、念のため上記MP3版視聴サンプルは御用意致しましたので、お試し頂ければと思います。
 それに加え、【おまけ編】として惜しくもランク外になってしまったEric Carmen関連音源の紹介をさせて頂こうかと思います。

【番外編】The Euclid Beach Band 見逃し厳禁なLP未収の楽曲群!!!

極甘Pop Tuneがギュウギュウに詰まった傑作盤!!

 サーフ・ポップ「There's No Surf In Cleveland」で、一気にB5ファンの心を鷲掴みにしたThe Euclid Beach Band。B5ファンのみならず、Soft RockファンやPower Popファンからも根強い人気を誇る彼らがリリースした唯一作『S.T.』は、美メロの王者Eric Carmenがプロデュースを担当し、Eric含めメンバー達による全曲書下ろしのハイ・クオリティな楽曲が埋め尽くされている大名盤。今でもラジオでヘビー・プレイされている「I Need You」の影響もあり、すっかりメジャー・アーティストの仲間入りした彼らですが、LP未収のシングルやお蔵入りになった楽曲は内容の良さに反して未だに知名度は低め。その中でも特にSoft Rockファンの方がチェックしておいた方が良い必聴な2曲をお届けいたします。

左:Richard Reising=右:Peter Hewlett

①1979年EP盤B面2曲目「It's A Brand New Year」
 Peter Hewlett脱退後に制作された3曲入りのプロモ盤シングル。A面の X'masロック「Santa's First Stop」と、Rod Stewart張りのハスキー・ヴォイスで歌われるカッコいいサンタ・ロックのB面「Rockin' Around The Christmas Tree」共に、Richard Reisingの公式YouTubeチャンネルで聴けます。シングルやお蔵入りになった楽曲の中でも私的推薦曲がB面2曲目に収録された「It's A Brand New Year」。サウンドはB5ファンがモロ好みそうな極上Surf系バラード。6連打のピアノ伴奏とCメロで展開するとびきりキャッチーな鬼甘胸キュンメロディ、そしてSpector系濃厚コーラスが絡み合い、至福の一時を味わえます。普段はハスキー・ヴォイスのRichard Reisingも甘い歌声を披露しております。Carly Simonに雇われ脱退したPeter Hewlettが乗り移ったかの様です。たまにe-bayで見かけますが、最近は高騰中…。

②1982年EP盤B面「Summer's Almost Over」
 こちらのシングルは、アルバムリリースの3年後の1982年にRichard Reisingと元メンバーのJohn Hartの2人で再結成した時のもので、実質彼らのラスト作。A面「Headlands」 はオハイオ州メンターに位置する「Headlands Beach State Park」について歌ったSurf系のロック・ナンバー。ホッドロッド・サウンドが全快な上に中盤の大サビもカッコ良く、エンディングで「Da Doo Ron Ron」のフレーズが飛び出したりと楽しい1曲。
 で、私的推薦曲がB面に収録された「Summer's Almost Over」。A面の「Headlands」とは打って変わってDoo Wop調のSurf Ballad。メロディの良さ、華やかなコーラス共に最高です。

29位 The Ray Charles Singers「Summer Morning」1969年

The White PlainsやTheTokensで有名なあの名曲です

 【The Voice】との異名を持つ米国を代表する著名なヴォーカリストFrank Sinatraに肩を並べる最強エンターテイナー兼歌手のPerry Como。そのPerry Comoとの仕事で大いに名を馳せたのがRay Charles(本名:Charles Raymond Offenberg)。『我が心のジョージア』で知られるR&B歌手のRay Charles(本名:Ray Charles Robinson Sr.)とは全くの別人。意外と知られていませんが《Ray Charles》と名乗りだしたのは白人のOffenberg氏の方が数年早く、年月で言うと1944年5月。この御二人、世界的な知名度的には圧倒的な差がありますが、Easy Listening系コーラス~Soft Rock界隈では男女混成コーラス・グループThe Ray Charles Singersの創設者として、Offenberg氏の方が広く名が知れ渡っております。

左のメガネがRay Charles

 Ray Charlesは1948年にThe Satisfiersというヴォーカル・グループの編曲を通じてPerry Comoと知り合い、その後約35年に渡って彼のTV番組やラジオに出演し、「Essex」「MGM,」「Decca」「Command」等の複数のレーベルを股に掛けながら、主にEasy Listening系のコーラス物レコードを多数リリースします。50年代中期から70年代初期に掛けて、コラボ作品からコンピ盤、そしてThe Ray Charles Chorus名義も含めると総計60枚以上を超える驚異的な多作ぶりを発揮(EP盤も含めると優に三桁を超えます)。趣向も志向も傾向も同路線にありながら、大量制作型且つ精力的な活動スタイルはJazz界のJohnny Mannを彷彿させます。
 「Easy-Listening」「Lounge Music」「Jazz」「Soft Rock」といったジャンルでカテゴライズされることが多いThe Ray Charles Singers。実はRay Charlesが目指していた上記のサウンドを実際に体現できたのは、録音技術が著しく成⾧した1959年以降だったそうです。その彼が理想としていた音楽が世間的に真っ当に評価を受けたのが、1964年4月にリリースした「Love Me With All Your Heart (邦題:太陽は燃えている)」。こちらの楽曲はメキシコで著名な「Cuando Calienta El Sol」という楽曲の英詩版で、全米3位の大ヒットを記録。さらにこの楽曲が収録されたアルバム『Something Special For Young Lovers』は、多種ジャンルをCross-Over的に織り交ぜた《元祖Soft Rock》的な秀逸作として巷でも人気が高めの1枚です。

王道Jazz系コーラス作品。選曲センスが◎!!

 彼のSoft Rock傾向にある作品群を全て把握している訳ではありませんが、個人的にお薦めしたいのは1969年に発表されたEP盤『Holly /Summer Morning』のB面「Summer Morning」。英国のライターコンビ(M. Kent& J. Arthur)によって書かれた楽曲で、オリジナルはVanity Fare。米国での小ヒットを記録後にThe White PlainsやTheTokensにもカバーされております。欧米人がイメージし易い正統派のSunshine Popサウンドを、The Ray Charles Singersが得意とする爽やかにしてジャジー・ポップなアレンジで料理した逸品。繊細な男女混成Harmonyが特に耳心地良く、とても聴き易く素敵な楽曲です。

28位 The Billy Van Singers「How Can Anyone」1968年

カナダ産Soft Rock界最強大名盤!!

 The Mutual Understanding『In Wonderland』・The Laurie Bower Singers『Feelin’ Good』と並び、1968年にリリースされたカナダ産Soft Rock三大名盤の1枚と知られるThe Billy Van Singers名義『Polydor Proudly Presents』は、1960年代後半から突如沸騰したMutual派生(カナダのJazz~Easy Listening系界隈を賑わすトップ・ミュージシャン)による一連のプロジェクト盤ではありますが、『In Wonderland』の様なお洒落なコード進行やリズム・アレンジで魅了する洗練されたJazz系サウンドとは異なり、どちらかと言えばクラシカルな印象の強い作品で、Country・Gospel Music・讃美歌を彷彿とさせるサウンドを基盤に、教会音楽の和声の響きや旋律を美しく奏でていく作風になっております。全体的に緩くラフなサウンドに対して、メロディを奏でるコーラス・ハーモニーは非常にタイトで緻密で重層的。この対比構造を上手く利用したスタイルが、この作品を唯一無二の物にしております。
 その地味さ故に隠れMutual(裏名盤)的な位置付けに異論をありませんが、カナダ産Soft Rockの素晴らしさを世に知らしめた決定的な大名盤であり、Soft Rockファンだけでなく、全コーラス・マニアを一網打尽にしたカナダ産Soft Rock界最高ランクにして最強の1枚として大いに推薦したいです。
 まずは当プロジェクトにおける主要人物であるBilly Vanについてのストーリーをザックリと解説させて頂き、アルバム紹介→お薦め楽曲→彼らが1曲のみ参加した実質2nd?に当たるO.S.T.盤『Fall In』と数量限定発売されたCD-Rについてのお話も併せて紹介させて頂きますので、最後まで目を通して頂ければ幸いです。⾧くなりそうですので、飛ばし読みして頂いて大いに構いません。

若かりし頃のBilly Van

【The Billy Van Singers結成に至る迄】
 カナダ・オンタリオ州トロント出身のBilly Van(本名:William Allan Van Evera) は風刺作家・コメディアン・歌手・俳優等、一つの業種に捕らわれない多面的でマルチ・プレイヤー的な活動を通して、主に放送業界で名を馳せた著名な人物。約1000を超えるTVプログラムに名を残してきた業界きっての大御所と言える彼は、俳優業が本業として知られておりますが、彼をスターダムにのし上げるきっかけになったのは幼少期に始めた音楽活動でした。 彼は実の兄弟4人とThe Van Evera Brothersという5人組のコーラス・グループを結成し、北米でのツアーを組むなどアマチュア活動を経験。その後本格的にエンター・テイナーとしての道に進む為、高校2年生(11th Grade)の時に学校を中途退学してDoo Wop系グループ「The Billy Van Four」を結成します。メンバーは下記の4名。

ポーズをキメるThe Billy Van Four

・Billy Van
・Patty Brooks
・Jack Northmore
・Les Leigh
※後の妻になる紅一点のPatty Brooksは、その後Patty Van Everaという性でThe Mutual UnderstandingやThe Laurie Bower Singers等のコーラス隊に参加することになります。Les LeighもThe Johnny Burt SocietyやThe Sycamore Street Singersのメンバ ーとして参加していたので、皆さんの良く知るところでしょう。

TV出演していた頃のBilly Van Four

 彼らは1960年にCBC系列の音楽バラエティ番組「Swing Gentry」でTVデヴューを飾り、「Fancy Free」という番組ではレギュラー出演を獲得。その後彼らは英国に渡り、マンチェスター・イングランド・ロンドンとTV出演の為に遠征を繰り返しながら地道に活動を続けます。
 そんな折に当時自身のオーケストラ楽団にマッチするコーラス隊を欲していたJohnny Cowell氏に見出されたことで、彼らは1961年にレコード・デヴューを果たします。記念すべきデヴュー・シングルはRCIレーベルからリリースされた『The Last Sunrise / I Miss You』。両面共にJohnny Cowell氏が書き下ろした楽曲で、彼が率いるJohnny Cowell Quartetをバックに吹き込まれました。トロントの地元音楽チャートThe Chum Charで同年3月に最高29位を記録し、米国LAのPhil LaGreeが保有するマイナー・レーベルLaGree Recordsからも同シングルがリリースされます。その後、1964年に2nd Single『Sound Approach /Let Esso Put A Tiger In Your Tank』、1966年にはTommy Commonによる1st Album『Tommy Common Sings』のバッキング・コーラスとして参加。この作品がThe Billy Van Fourでの実質ラスト作となります。 
 翌年1967年にはコーラス・カルテットの編成を変えて、Billy Van名義で『CBC Song Market featuring Kiss The Wind』というコンピ・シリーズに2曲だけヴォーカルを披露しています。同年にコミカル系朗読アルバム『Canada Observed』と、Ben McPeekがアレンジと指揮を担当した「Centennial Polka(B面のみ)」というシングルもリリース。
 そして翌年にはThe Billy Van Singers名義にてTVアニメシリーズ『スパイダーマン』のオープニング・テーマ曲「Spider-Man Theme」をリリース。正確な資料・クレジットがないので、どういった経緯・メンバーでThe Billy Van Singersが結成されたのかは定かではありませんが、現時点で分かっているのは、同シングルはThe Laurie Bowers Singersとのコラボ作品であり、The Laurie Bowers Singersの後の常連コーラス隊メンバーになるBill MeisnerとStephanie Taylorが参加していたという事。そして、ここで集結したコーラス隊の面々により「The Mutual Understanding」・「The Billy Van Singers」・「The Laurie Bower Singers」の3つのプロジェクトが画策されたのではないかと推測されています。と言いますのも、この3大プロジェクトに参加しているメンバーがほぼ同布陣だからです。では、まず本作「The Billy Van Singers」に参加している方々を紹介します。

カナダ産Soft Rock界の大物アーティストが勢揃い!!

【The Billy Van Singersのメンバー】
 メンバーは全員で計9名。カナダ産Soft Rockに精通する人なら、表ジャケに写る錚々たる豪華な顔触れに面食らってしまうでしょう。まず、中央に写る木に肩を寄せて立っている方がBilly Van(William Allan Van Evera)。椅子に座っている前面の8名は左からVern Kennedy、Les Leigh、Patty Brooks、Jack Northmore、Rhonda Silver、Lourie Bower、Kathy Collier、Johnny Burt。
 そしてアルバムを制作する度にメンバー編成を変えることで有名なThe Laurie Bower Singersですが、1968年作『Feelin’ Good』ではTommy Ambrose、Vern Kennedy、Kathy Collier、Laurie Bower、Patty Van Evera、Rhonda Silverの計6名。The Mutual Understanding『In Wonderland』は Tommy Ambrose、Vern Kennedy、Kathy Collier、Laurie Bower、Patty Van Evera の計5名。『Feelin’ Good』『In Wonderland』はほぼ同布陣。そこにBilly Van Fourの面々にJohnny Burtを加えて制作されたのがThe Billy Van Singers(ちなみにJohnny Burtは『Feelin’ Good』でSVとして参加しております)。ということで、やはり1968年作のシングル「Spider-Man Theme」を起点に3大名盤が制作されたと見て間違いなさそうです。

【1st Album『Polydor Proudly Presents』1968年作】
 今作は片面6曲ずつの全12曲の収録になっております。《カナダ人の、カナダ人による、カナダ人の為のアルバム》というコンセプトに従って、全楽曲をカナダ・サスカチュワン州出身のソング・ライターBob Hahnがプロデュース&作詞作曲しており、実の兄弟であるDon Hahnがエンジニアとして参加しております。クレジットには各役割担当の記載が無いので詳細は分かり兼ねますが、裏ジャケに写るスタジオのレコーディング風景から察するに全9人のメンバーでコーラス・ハーモニーを奏でているよう見受けられます。

レコーディング風景①女性陣
レコーディング風景②男性陣
レコーディング風景③全体会議

 実際にスピーカーから聴こえてくるChorus & Harmonyは、明らかに良くも悪しくも『Feelin’ Good』『In Wonderland』以上に濃密且つ重層的。大所帯であるにも関わらず合唱団ぽさにも陥らず、スキャットやヴォーカリーズを駆使しながらも、常に緊張感を保ったかなりハイ・レベルなChorus & Harmonyを味わえます。全体的なサウンド志向は前述した通りで、神聖にして洗練された珠玉の讃美歌系楽曲群は、基本的にはコーラスに重きを置いた楽曲構成になっており、そこにWaltz系のJazzやBossa Nova、Good-Time、Rock、オーソドックスなMellow Balladなど様々なスタイルを取り入れながら聴衆に飽きさせない工夫が施されております。

【お薦めの楽曲】
 全く駄曲が無く全楽曲を推し薦めたい程に粒揃いな名盤でありますが、まず注目して頂きたいのは、B面ラストのMellow Ballad3連発。哀愁のメロディが胸を付く「Four Seasons」~暗くノスタルジックな「Tammy's Gone」~エモーショナルで壮大な「Am I A Fool」。どれも緻密に計算されたコーラス・ワークが非常に素晴らしく鳥肌モノです。特にアルバムを締め括る「Am I A Fool」は、男女混声による一糸乱れぬ濃厚コーラスが最高に心地良く、純粋にコーラスの美しさを堪能出来る逸品。
 そしてSoft Rockファンお待ちかねのSoft Rock系最大にして最強の大名曲が下記の2曲。

《A面5曲目「You've Got The World By The Tail」》
 今作における最大のハイライトにしてSoft Rockの頂点に達する世界遺産級の大名曲。ジャジーなワルツ・リズムとキャッチーなメロディが最高ですが、息の合った完璧なハーモニー・男女の呼応する重昌系掛け合いコーラス・華麗に舞うヴォ―カリーズなど圧巻のヴォーカル・パフォーマンスにただただ圧倒されます。カナダ産Soft Rockらしさが前面に出た文句無しの即死級トラックとして是非御堪能頂きたいです。

《B面3曲目「How Can Anyone」》
 私的ハイライトはこちら。ボサノヴァ調のSoftなサウンドに乗せて、磨きの掛かった男女混声コーラス・掛合い・ハモり・スキャットで魅せてくれます。派手さはないですが、極限までに洗練された美しいサウンド・メイクや優しくも柔らかい肌触りのアプローチに対して、完全に殺しに掛かっているのではないかと思う程に攻め込んでくるChorus & Harmony。特に1分10秒~のパパパ・コーラスから間奏でのパッセージ・コーラス。この一連の流れは圧巻!!!

【ゲスト参加作品(実質2nd?) O.S.T.『Fall In』LP 1969年作】

ミュージカル的風景を想起させる表ジャケ

 米国に本社を構える化学メーカーDu Pontのカナダ支所によりプロデュースされたミュージカル『Fall In』のオリジナル・サウンド・トラックとして、マイナー・レーベルChelsea Recordsから1969年6月にリリースされたアルバム。カナダ出身の優れたJazz系ミュージシャンを招集して、Tonny Gee 指揮により編成された総勢15名によるジャズ・オーケストラ楽団とThe Billy Van Singersがコラボした一過性の即席プロジェクトであります。コラボと申しましても、実際に彼らのコーラスを聴ける楽曲は1曲のみですので、ゲスト参加と言った方が正しいかもしれません。裏ジャケには楽団の面子や制作に携わる裏方の人物は詳細に記載されているのですが、ヴォーカル・サイドやThe Billy Van Singersのコーラス 編成(メンバー)に関しては一切触れられておらず、本盤はサントラを奏でるアンサンブル形態やビッグバンドに焦点を当てられた作品ということになります。

【アルバム内容とお薦め楽曲 】
 今作は片面5曲ずつの全10曲が収録されております。前述した通りThe Billy Van Singersが参加した楽曲は1曲のみで、他はややしゃがれ気味の男性ヴォーカル物が3曲、残りの6曲がインスト・ナンバーという構成になっています。ほとんど楽曲は往年のスタンダード・ナンバーをカバーしており、ホーン・セクションにフォーカスされたジャズ・オーケストラによるサウンド・メイクは、華々しくゴージャスで大変聴き応えがあります。

《B面5曲目「This Could Be The Start Of Something Big」》
 まずはThe Billy Van Singersが唯一参加したこの1曲。アルバムラストに収録されたこの楽曲は、Steve Allen氏が作曲したJazz系のスタンダード・ナンバーで、Steve & EydieやTony Bennett、Ella Fitzgerald、Aretha Franklin、Jack Jonesなど多くの有名アーティストにカバーされています。The Billy Van Singersヴァージョンは、男女混成によるユニゾン・スタイルで奏でられており、コーラス物としては及第点と言ったところ。恐らく本作の制作までにコーラス隊の大幅な編成変更があったと推察。前作で魅せた圧巻の重厚感や緻密なコーラス・ワークを期待すると肩透かしを喰らいますが、Happy Jazz的なサウンド・アプローチもミュージカルっぽくて好感が持てます。

《A面1曲目「Meditation」》
 こちらも数多くのアーティストにカバーされているボサノヴァ調のジャズ系スタンダード・ナンバー。Soft RockファンにとってはAstrud GilbertoやBlossom Dearie、Claudine Longet、Sonia RosaによるMellow Ballad系Soft Rockヴァージョンでお馴染みだと思いますが、今作冒頭に収録されたこちらのインスト・カバーは、Mellow Balladな印象の強い楽曲をアグレッシブでハイテンションなアレンジで表現しております。まず序盤の出だしでいきなり鳴り響くアコギの音色がすこぶるカッコ良く、Bossa Novaのリズムに乗っかり、 ふんわりホーンとピアノが顔を出し、中盤には「待ってました!」と言わんばかりに仰々しく登場するホーン・セクション。このフロア・ユースな一連の流れがとにかくお洒落!!!悠々と流れる時間に浸っていたいと思わせる素晴らしい出来栄えで、正に極上のインスト・ナン バー。

【数量限定発売されたCD-Rについて】

表ジャケはほぼ同一
見開きには詳細なバイオグラフィーが掲載
裏ジャケはこんな感じ。「Spider-Man」以外は名義全網羅。

 2019年にSuper Oldiesにより数量限定でCD化されました。Super Oldiesはカナダ出身のミュージシャン兼レコード・プロデューサーであるShawn Nagyが2002年に立ち上げた音楽レーベルで、主にNorman Petty氏の関連作品や、彼がNew Mexicoに設立した《Petty Sound Studios》で録音された音源、そしてカナダ発祥のヴィンテージ物のレコードをデジタル化して、世に普及していきたいという思いを胸に創設されました。Download版も含めてデジタル化された本CD-Rは、The Billy Van Singers名義の全音源 (「Spider-Man Theme」を除く)は勿論の事、Billy Van Fourのシングルや未発表ジングルに加え、グループの貴重な写真やライナー・ノーツが記載された見開きの紙ジャケ仕様となっております。リリース後、程無くして廃盤となり、しかも公式ホームページでも《Available Products》から消去されてDownloadすら出来なくなってしまいました。たまにe-bayで高額で売られているのを見かけますが、絶対数が少ない為に入手可能の望みは極めて低いです。
 おまけにBilly Van Fourのジングル集を下記試聴Mixでお楽しみ頂ければと思います!!

27位 Ben McPeek「Baked Apple Rag」1976年

カナダ産らしい女性モデルを起用した表ジャケ。
パッとしないイメージとは裏腹に内容の良さは折り紙付き。

 文字・数字・音に色を感じる「共感覚(シナスタジア)」。第六感(the sixth sense)に繋がる感覚で、特徴として挙げられるのが《特定の色を感じる種類には個人差があり、一定の法則性は無い》ということ。音楽を良く聴く人ならば、こういった特殊な感覚が備わっていなくても、《Burbank Sound》《Wall of Sound》《Swingin’ London》《Psychedelic Rock》…etc とい った特定のジャンルや趣向に色を感じることはあると思います。
 我々Soft Rockファンからすると、まず頭に思い浮かぶのがカラフル・サウンドの代表格Mark Wirtz。ディズニー・ワールドの様な世界観を持つ、未発の大作『A Teenage Opera』では色彩豊富なアレンジと音響で、凄まじいサウンドを披露しています。中でも101種類の音を4分間に詰め込んだ驚愕のカートゥーン・ポップ「(He's Our Dear Old)Weatherman」 は、光り輝く虹色の世界観を体験出来ます。初めて聴く方には強烈な印象を残すMark Wirtz World。そんな圧倒的で不思議な体験を他アーティスト・作品で感じることは極めて少なく、片手で数えられる程度。その数少ないカラフル・サウンドの個人的推薦作品がBen McPeekの『Thinking Of You』。

Ben McPeekの名を一挙に轟かせた衝撃の大名盤!!

 もはやSoft Rockファンには説明不要かと思いますが、Ben McPeekはカナダを代表する名アレンジャー。The Mutual Understandingの大名盤『In Wonderland』のディレク ターやThe Laurie Bower Singersの多くの作品で指揮、アレンジ、ピアニストとしてマルチな才能を活かしてサポートしてきた御方であり、カナダ産Soft Rock界の重鎮的存在。彼の代表作と言えば、スウィンギーなジャズ・サウンドと男女混成による涼しげなスキャット・コーラスを楽しめる1967年リリースの『The Original Sounds Of Ben McPeek』。
 今回御紹介する『Thinking Of You』は、1976年にAttic レーベルからリリースされた本人名義によるラスト作であり、彼のピアニストとしての魅力に焦点を当てた作品です。年代が変われば作風も変わりますが、多少の趣向やサウンドの変化はあれど、《独自のアレンジで仕上げたインスト曲に、スキャット・コーラスで彩りを添えていく》という彼の基本スタンスは貫いております。

【アルバム内容とお薦め楽曲】

指揮するBen氏

 丁度同時期にThe Laurie Bower Singers『Got A Feelin' For Love』の制作に携わっていた関係で、クレジットこそありませんが恐らくThe Laurie Bower Singersの面々と思われるコーラス隊が参加しております。完全インストとコーラスを含む楽曲が半々くらいで収録されていて、コーラスも楽曲の雰囲気に合わせて男性のみ・女性のみ・男女混成、完全スキャッ ト・歌詞入等々…様々なバリエーションでアレンジされています。全体的に優しくも美しいEasy Listening的な内容なので、勿論BGMとして聞き流しながら楽しめますが、Ben氏によるカラフルな鍵盤プレイに注目して頂きたいです。B面冒頭「Silent Cinema」を筆頭に、鮮やかに光り輝くポップな世界観を体験出来ると思います。
 そんな中、アルバムの中で異彩を放っているのがB面2曲目に収録された Ben氏オリジナ ルによる「Baked Apple Rag」。同じメロディを同じリズムで《ピアノ⇒エレピ⇒ピアノ+エレピの混合》という順に演奏していく、という恐ろしい程にシンプルな作りなのにも関わらず、まるで万華鏡の中に入った様なマジカル・ポップな世界観に浸れます。Mark Wirtzも真っ青な極上のカラフル・サウンドに誰しも驚かされるはず!カナダ産カラフル・サウン ドの知られざる大名盤として大いに推薦!!

26位 Hagood Hardy & The Montage「I'll Take Love」1971年

LP未収奇跡のWサイダー!!

 1937年2月21日に米国インディアナ州で出生したカナダ国籍のHagood Hardy。父を加人・母を米国人に持つ彼は、カナダを代表する作編曲家であり、Jazz系のヴィブラフォン奏者兼鍵盤奏者でもあります。少年時代にカナダ・オンタリオ州に移住して鍵盤技術を習得。トロント大学に入学し政治経済学部を専攻し、並行してプロのヴィブラフォン奏者としてJazz Clubでの演奏・CBCのTV出演といった仕事を請け負い、1961年には米国へ進出。幸運にも多くの著名な大物ミュージシャンとの共演が実現したそうで、そこで得た貴重な経験と音楽技術を引っ提げて1966年に再びカナダへ帰郷。

貫禄のあるHagood Hardy氏

 トロントに戻った彼は、BassにEon Henstridge、DrumsにRichard Marcusを、そして自身が鍵盤奏者としてThe Montageの母体となるJazz Trioを結成。1969年にはStephanie TaylorCarrie Romanoという2人の女性シンガーが加入し、ここで初めて「The Montage」と名乗るようになりますが、即座に大幅メンバー・チェンジ。最終的にはLynne McNeil・Stephanie Taylor・Gary White・Dave Lewis・Hagood Hardyの5名により新生「The Montage」が誕生し、1970年に記念すべき1st Album『Hagood Hardy & The Montage』をリリース。2年後の1972年には2nd Album『Montage』を発表。そして年代不詳ではありますが、Disk Union廃盤セールでお馴染みの、お蔵入りになったデモ音源4曲を含む幻の3rd Album『Demo Presentation』のレコーディングを経て、1974年に正式に解散することになります。

1st Album表ジャケ。金髪美女Stephanie嬢の圧倒的存在感よ!!
1972年作の2nd Album。ややプログレぽい簡素なジャケ。
幻の3rd Album…と巷では有名ですが、
LP未収は「Soon」のみ。しかもデモ音源。

 Hagood Hardy & The Montageは結成前から解散に至る迄、演奏陣の入れ代わり立ち代わりが度々あり、非常に不安定なメンバー編成が強いられましたが、幸運にも「The Montage」 が「The Montage」たらしめる決定的なサウンド志向には影響をもたらすことはありませんでした。それは1970年以降に《Two Birds》成るLynne McNeilStephanie Taylorによる不動のツイン・リードの固定化と、Hagood氏自身による先進的且つ実験的な試みを図った巧みなアレンジが劇的な化学反応を起こしたからです。特に透き通った声質のStephanie Taylorと幾分鼻にかかったロリ・ヴォイスを持つLynne McNeilによるコンビネーション歌唱が完全無双化しており、Jazz~Fusion系Soft Rockライクな1st Albumも、ラテン・フレーバーな味わいを強めて異国情緒感を前面に打出した2nd Albumも、一貫して《Two Birds》により素晴らしい歌唱と絶妙なHarmonyを堪能出来ます。
 そんな彼らの素晴らしい楽曲群の中でも、とりわけSoft Rockサウンドに特化した作品が1971年7月にリリースされたEP盤7inchシングル『Just A Little Lovin' / I'll Take Love』。 特にB面曲「I'll Take Love」は、アルバムで魅せていた洗練系Jazzサウンドとは一線を画するポップ・フィーリングに溢れた内容になっております。Roger Nichols直系なワルツ調極甘ポップ・ソングといった趣で、SoftでMellowなメロディ・瑞々しいStephanie Taylorの巧みなヴォーカル・癒しの旋律を描く弦楽器やヴィブラフォンの鳴り・中盤で展開するドラマティックな大サビ・エンディングのパパパコーラス…その全てがハイレベルに調和された完璧なSoft Rock。


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