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Soft Rock Top 5位~1位


5位 The Hudson Brothers「America」1973年

EP盤ピクチャー・スリーヴ

 米国オレゴン州ポートランド出身のBill・Mark・Brettの3名から成るHudson兄弟。CBSのコメディ系TV番組『Razzle Dazzle Show』で一世を風靡したことで、アイドル・グルー プとしてのイメージがつい先行してしまいがちですが、元々は本格派ミュージシャン。 伊系米国人である母親から薦められて始めたのがきっかけで、極初期時代は「My Sirs」と いうグループ名で音楽活動を行っておりました。地元ポートランドのバンド・コンテストで優勝しまくる超実力派グループとして圧倒的な地位を確立。そんな彼らがレコーディング・スタジオで演奏していた所を地元のプロモーターが目を付け、クライスラー自動車の宣伝契約を持ちかけられます。

The New Yorkers時代のHudson Bros.

 同名のクライスラーモデルに因んで「The New Yorkers」と改名。1967年~1969年の2年間に計7枚のEP盤をリリースし、1967年8月に発表したガレージ系サイケロック・ナンバー『Mr. Kirby』が地元でTop10のスマッシュ・ヒットを記録。その後は複数のレーベ ルと契約を結びながら、グループ名も「Everyday Hudson」⇒「Hudson」⇒「The Hudson Brothers」⇒「Hudson」と度々改名を重ね、サウンド志向も時代のトレンドに影響を受け つつオリジナル性を意識し、試行錯誤の上に音楽性変革を何度も繰り返し行ってきました。 彼らがメジャー・アーティストへの仲間入りしたのは、皮肉にも音楽性による正当評価ではなく、ティーン・アイドルやコメディアンとしての名声・評判がトリガーとなりました。1974年初頭に彼らがABCのコメディ番組にゲスト出演した際、著名なプロデューサーChris Beardが彼らのステージ・プレゼンテーションに感銘を受け、彼らの看板番組【The Hudson Brothers Show】【Razzle Dazzle Show】が放映されることに。3兄弟のバラエティ性の高さは勿論の事、兄弟屈指の色男Brettのアイドル性も相俟って、彼らはTVネットワークを賑わす人気者へと一気にのし上がります。人気の絶頂の最中、水面下でリリースされた「So You Are A Star」が空前の大ヒットを記録しますが、番組終了後はファン層を失い、並行して行っていた音楽活動も尻すぼみフェードアウト。

コメディアンが本業時代のハドソン兄弟

 複数の異名義はともかく、正式にHudson3兄弟が揃って音楽活動をしたのは1965年~1981年の17年間。前述した通り時代と共に積極的にサウンド変革を行ってきた為、The Hudson Brothersはどういった音楽性やジャンルなのか?と問われてもなかなか一言で形容し難いのが実情。大まかな流れと辿ると「The New Yorkers(Garage Rock)」⇒ 「Everyday Hudson(Bubblegum Pop)」⇒ 「Hudson(Soft Psyche)」⇒ 「The Hudson Brothers(Power Pop~Disco)」⇒「Hudson(Rock)」…こんな感じになるかと思います。時代・ジャンル問わず総じて及第点以上の音楽性を維持し続けた実力派には間違いはなく、汎用性が高く柔軟な洋楽の楽しみ方を心得ている方なら、彼らがリリースした高品質な全アルバムを、個々の異ジャンル異サウンドの魅力にどっぷり浸りながら堪能出来るかと思います。
 ただ彼らのリリースした全楽曲をコンプリートした身として思うのは、明らかにB4やBadfingerサウンドを踏襲し始めた『Hollywood Situation』『Totally Out Of Control』『Ba-Fa』辺りの3作品が彼らの絶頂期に値するのではないか?というのが個人的見解。この時期のサウンドはRaspberriesやBig Starの様な憂いを秘めたメランコリックな奥深さとPilotやThe Rubinoosの様な底抜けに明るく極甘なキャッチーさも兼ね備えた最強Power Popサウンドを披露しており、指折りの技巧派であるMark Hudsonの才能が大爆発しております。各楽曲にB4フォロワー的なエッセンスを緻密且つ忠実に仕掛けを組み込ませ、そこにオリジナリティ溢れるサウンドを高度にドッキングさせることで彼ら特有のサウンドが構築されている訳ですが、アイドルなんかに翻弄される一般大衆が理解に及ぶはずも無いっていう話で、良くも悪しくも彼らの最盛期と人気が丁度同時期に重なっていたのが何とも皮肉的。  
 ここで一旦3兄弟一人一人の特徴を要点だけ踏まえて端的に紹介致しまして、その後第5位にセレクトした「America」に関しての御説明とさせて頂きます。

1949年10月17日生まれの⾧男Bill

①Bill Hudson(本名:William Louis Hudson)
 彼は演奏面ではGuitar担当。ヴォーカルに関してはMarkが基本リードを任されていた為、コーラスでの参加がメインで、稀にリード・ヴォーカルも受け持つことも。兄弟屈指の聡明さを糧に経営サイドでも貢献しています。解散後はTVドラマや映画俳優として活動。第一婦人Goldie Hawnとの間に生まれた実娘はかの有名なKate Hudson。

1951年8月23日生まれの次男Mark

②Mark Hudson(本名:Mark Jeffery Anthony Hudson)
 兄弟の中で最も秀でた音楽的才能を持ち、The Hudson Brothersにおける全般的な演奏や作曲は彼が主導しており、実質Markのワンマン・バンド。歌唱に関しては音域が広く、甘い歌声からシャウトまで楽曲に合わせた変幻自在なヴォーカル・スタイルを得意とし、演奏はオールマイティにこなし、作曲面ではメロディに煌めきを与える珠玉のコンポーザーとして美メロ系統最高峰に位置する天才。B4に関する造詣がかなり深く、The Hudson Brothersの楽 曲群にはB4的エッセンスが散りばめられており、親交の深いRingo Starrからも敬われ、『5人目のB4がJeff Lynneなら6人目は確実にMark Hudsonだ!!』と各所から絶賛の声を浴びる程。解散後はCher・Ringo Starr・Aerosmith・Ozzy Osbourne・Harry Nilsson等の大物アーティストを手掛ける名プロデューサーに。

1953年1月18日生まれの三男坊Brett

③Brett Hudson(本名:Brett Stuart Patrick Hudson)
 彼は演奏面では基本Bassとコーラス。Billと同様に時たまリード・ヴォーカルを取ることもあります。バンド結成極初期の「My Sirs」時代は年齢があまりに低過ぎた為に加入拒否をされるものの、持ち前のバイタリティで乗り切り、結果70年代以降は兄弟きっての端正な顔立ちを武器に、ティーン・アイドルとしての人気が急騰。それを機にThe Hudson Brothersが一躍スターダムへとのし上がった経緯を踏まえると、その貢献度はかなり高い。解散後はTVプロデューサーやライター、そしてMarkの音楽活動に参加したりしてマルチに活動。

第一期Hudson名義『Hudson』裏ジャケ

 彼らがSoft Rockサウンドのスウィート・スポットに最も分かち合った時期が、第一期Hudson名義から初期The Hudson Brothersに当たる1972年から 1974年。実質デヴュー・アルバムとなった1972年作『Hudson』が正に該当作品に当たりますが、Soft PsycheとBubblegumのミクスチャー・ポップと言った趣きで、後にRock色が強くなるPower Pop期と比較すると演奏面がかなり簡素且つシンプルな作りになっている為、煌きのメロディと濃密コーラスがより一層浮き彫りに。特にB4のSgt.期を明らかに狙った「Woe Is Me」は アルバム中異色の出来。優雅なオーケストレーション・深い残響音が印象的な濃厚Chorus & Harmony・McCメロが全快な繊細にして甘いメロディ。この3種の対比が万華鏡効果で極上なSoft Rockナンバーに仕上がっております。

「Coochie Coochie Coo」EP盤ピクチャー・スリーヴ

 この大傑作盤『Hudson』と同時期にレコーディングされながらもアルバムには未収録とな った同趣向系の名曲が2曲あり、1曲目が1974年リリース「Coochie Coochie Coo」のB面に収録された「Me & My Guitar」。こちらの楽曲は『Hudson』に収録されていても全く遜色無い簡素な作りと、高品質且つ神レベルにMellowなメロディに癒されます。

 そして2曲目が1973年にリリースされた3曲入りのEP盤『Straight Up & Tall / America / Fight Back』に収録された「America」。イントロ~サビでは Hudson期に顕著だった簡素且つ親しみ易いメロディ。大サビの一部ではパワポ期で特徴的なキレのある力強いメロディと濃密系コーラス。両者の⾧所が絶妙にブレンドされているのが大変興味深いです。幕開けの静かに始まるアコギの音色。Markの優しくも甘い歌声が入り。爽やかで美しいメロディ。濃密なコーラスを伴った絶妙なビルド・アップ。最高のタイミングで挿入されるフルートの鳴り。ドラマチックに展開していく後半の盛り上がり…どこを取っても1級品な世界遺産級の最強トラックになっております。特に中盤から後半に掛けてのステレオ位相に着目して頂きたいです。Markによるウーアー・コーラスと3声の濃密コーラスが渦を巻く様に左右を行き来し、臨場感ある深みのあるサウンドを堪能出来ます。

Mark Hudson 1st Solo Album『The Artist』

余談になりますが、このステレオ位相中の流れで魅せるエンディングのハミング、2009年に発表したMark HudsonのSolo Album『The Artist』に収録された「All The Tea In China」でもデジャヴ的に再現しております。…と、色々な仕掛け具合にも配慮しながらじっくり吟味すべき1曲であり、賛否両論あると思われますが、私的Soft Rockサウンドの究極的完成形とも言えるのがこの曲です。

4位 The Derieux Extension「I Think Of You」

Orig.ピクチャー・スリーヴ

 Badfingerのカバー・ソング「Without You」から探って辿り着いた方がほとんどかと思いますが、非常に匿名性の高い謎のファミリー・グループThe Derieux Extension。米国カリフォルニア州周辺で活動していたFolk & Country畑のローカル女性歌手Donna De Rieuxが立ち上げた一過性のプロジェクトと推測される唯一のEP盤『Your Daddy's Gone Away / I Think Of You』。両面共にアレンジを手掛けるGabriel Katonaの公式サイトから御本人に直接このプロジェクトに関して尋ねるも、記憶が曖昧で大した情報を得られず。2016年に刊行されたPremium Cuts系ディスク・ガイド本『Record Hour』での紹介をきっかけに国内でも知名度上昇中。

「Without You」をソロカバーしたDonna De Rieux

 目玉はB面「I Think Of You」。ボーイ・ソプラノなのか透明感ある女性ヴォーカルなのかは不明ですが、透き通ったハイトーン・ヴォイスで奏でるメロディが劇的にヤバい極甘系。エレガントなオーケストレーション・心地良く転がるエレピ・高揚感MaxのHigh Beat・爽快にして濃厚なコーラスワーク…etc。このハイ・クオリティな極上Soft Rockサウンドが自主制作盤とは正に驚愕。全Soft Rockファン必聴の即死級トラックです。

3位 Gunnar Þórðarson「When Summer Comes Along」1975年

ジャケから漂う名盤感が半端無い…

 アイスランド西部フィヨルド地方ホルマヴィーク出身のGunnar Þórðarson は、アイスランド音楽史において最も偉大なミュージシャンの一人。半世紀以上の⾧期間に渡って続けてきた音楽キャリアは、その時代の流行に合わせてサウンド変革を実験的且つ積極的に行い、後年にはクラシック音楽に傾倒し、病と闘いながらも精力的に活動されます。Solo活動に拘らずにコラボ作品から企画盤・複数のユニットやグループのリーダーとして牽引し、良質な作品を発表し続けた天才型の功労者でもあります。また、適応能力の高さや何でも器用にこなす万能型のマルチ・ミュージシャンとして、演奏・歌手・作詞作曲・編曲・プロデュース・指揮・マネージメント・出版に加え、映画・演劇・ミュージカル・TVやラジオの販促用ジングルの楽曲提供まで音楽全般の業務に携わり、関連作品や手掛けた楽曲は軽く見積もっても総計1000を超えております。

若き日のGunnar Þórðarson

 特に60年代後期から70年代中期頃に掛けての数年間は、制作に対する真髄な姿勢が極限に達し、彼の非凡な才能が遂に才気煥発の極みに至り、その驚異的なワーカ・ホリックぶりで制作された膨大な作品の中でも群を抜いて高品質な楽曲が凝縮されております。彼自身、公のインタビューで『Burt Bacharach・Lennon & McCartney・Stevie Wonder・Brian Wilson に多大な影響を受けた』と何度も語っており、そういった敬愛する先駆者からの影響が彼自信の音楽性に最も顕著に表面化されていた時期でもあります。

Trúbrot在籍時のGunnar Þórðarson

 その中でも特に彼が感銘を受けたのがB.Wilson。この時期の彼は【北欧の B.Wilson】とも称され、B.Wilsonの才能が最高到達点に達した大名盤『Pet Sounds』で明瞭だった「美麗な旋律」「虚無的悲哀感」「緻密に計算された濃厚Harmony」といった彼が世(後世)に残した音楽的「遺産」「芸術性」「美学」をしかと後継しており、Soft Rockファンの方が初見で聴いたら雷に打たれる様な衝撃を受けるハズです。  
 例えば彼が70年代頃に在籍していたPsyche RockグループTrúbrotやHljómarでの作品群を聴いてみても、彼が書いた楽曲はずば抜け質が高く、中でもTrúbrot名義4th Album『Mandala』に収録された「Down By The Water」やHljómar名義3rd Album『’74』収録の「When We Get Older」は、B.Wilsonが残した歴史的美学を受け継いだオマージュ的な作品としてSoft Rockファン必聴の楽曲になっております。そしてGunnar Þórðarson最高峰の作品と言えば、やはり1st Solo Album『S.T.』と2nd Solo Album『Ísland 81』。B5の音楽性を英国なりに再定義したBritish Harmony Sceneの四天王(Tony Rivers・Chris Rainbow・Adrian Baker・Alan Carvell)にも匹敵する驚愕トラックがこれでもかと詰まっており、Soft Rockファンだけでなく、70’sの英国的な味わい深いサウンドが好きな方には鬼レコメンドです。

【1st Solo Album『S.T.』1975年作】

もはや伝説級の大名盤!!!

 1975年の秋にリリースされた1st Solo Album『S.T.』は、全曲英詩にしてオリジナルナンバーで固めた意欲作。表ジャケに写る御本人がAl Jardine風のルックスでB5系サウンドをイメージし易く好感が持てます。Chris Rainbowの様な細部まで綿密に計算し尽くされたChorus & Harmony・後期Dino,Desi&Billyを彷彿させるサウダージ感・Pilot 風な純度100%の極甘ポップ感覚等、とにもかくにも1曲1曲の楽曲に対する職人気質の拘りが半端では無く、全編通して見事なB.Wilson感覚を満喫出来ます。
 国内でスマッシュ・ヒットを記録したPilot風のポップな「Manitoba」・青春ミディアムメロー「Magic Moments」・浮遊感漂う濃密コーラスが激ヤバなCurt Boettcher風「Flyin' On The Wings」・爽快な濃厚Harmonyが最高に気持ち良いSoft Rock系ギターポップ「That's Just The Way It Is」等、Soft Rockファン卒倒レベルの極上ナンバーが集う中、圧倒的な完成度でラスボス的な威圧感を放っているのが、A面4曲目に収録された最強の大名曲「When Summer Comes Along」。
 アルバム・ハイライト…と言うよりGunnar Þórðarson終生の最強トラックでもあるこの楽曲は、 叙情的な憂いを孕んだポップ・フィーリングが楽曲全体に横溢しており、普遍的でドリーミーな旋律の美しさが宝石の様に輝いております。眠らせておくにはあまりにも惜しい鬼ヤバ即死級トラックなので是非多くの方にシェアして頂きたいです。

【2nd Solo Album『Ísland 81』1978年作】

表ジャケ
裏ジャケ

 1st Album発表後に2nd Solo Album『Ísland 81』の制作に取り掛かるも、複数のプロジェクトを同時進行的に行っていた為にレコード会社との契約期間内にレコーディングが追い付かず、再度契約に至るまでに時間を要してしまい、リリース時期がズレて1978年に発表することに。その期間に書き溜めた楽曲が増えたこともあり、2nd Albumは2枚組で全17曲収録というビッグ・ボリュームに。

曲目多過ぎ…というかアイスランド語全く読めない…(笑)

 完成した楽曲を寄せ集めた感が否めず、コンセプト的統一性には欠ける節はありますが、彼の天才的な閃きがアルバム随所に散りばめられていますので聴く価値は十二分にあります。Soft Rockファンには、万華鏡の様な煌びやかな世界観に包まれた極上Mellow Ballad「She Had A Reality」・明らかに10ccを狙った奇想天外にして目まぐるしく曲調が展開していく「Sail Away」・濃厚Harmonyで型取る哀愁系絶品Mellow「Í Dag」辺りが聴き所。私的ハイライトはB面3曲目「Wake Up」。軽快にスウィングするジャジー・Soft Rockといった趣きで、Cメロから展開していく甘く滑らか なメロディ・ラインは至宝級に絶品。そして同時に重ね彩る涼しくもシャープなコーラス・ ワークはAdrian Bakerも蒼ざめる程に劇的にヤバいです。特に残り1分で魅せる濃厚なスキャット・コーラスで昇天確定。ということでSoft Rockファンであれば2nd Albumもマスト・バイです。

【おまけ】
 その他、子供向け企画盤『Einu Sinni Var』に収録された「Brdum Kemur Betri Td」やLummurnar名義の1st Album『Gamlar Góðar Lummur』収録の「Magga」や2nd Album『Lummur Um Land Allt』に収録された「Bokki Sat Í Brunni」「Ég Vil Fara Upp Í Sveit」「Komdu Í Kvöld」「Kvöldljóð」辺りはヴォーカルこそ違えどGunnar Þórðarsonのアレンジ による濃厚コーラスを堪能出来るので同時に推薦。

2位 The Laurie Bower Singers「Gentle As A Breeze」1977年

ジャケ2種あるので、お好き方をどうぞ!!

 カナダ産Soft Rockの金字塔的大名盤『Feelin' Good』でお馴染みThe Laurie Bower Singersは、当時カナダの放送ネットワークを席巻していたCBCやRCIを代表する国内最大大手のヴォーカル・グループ。トロント大学卒業後にJazz系トロンボーン奏者としてスタジオ・ワ ークに熱を注いでいたLaurie Bower(本名:Lawrence Wayne)が、歌唱とコーラス・アレンジに興味を持ち、デュアル・タスク的に始めたのが結成の発端。60年代中期頃からラジオやTVで使用されるジングルやコマーシャル・ソングを一挙に引き受け、実際に名義初登場となるのが64年から70年迄続いた『CBC Song Market』シリーズの1967年作『Kiss The Wind』とされています。

御本家名義初登場のコンピ盤

 本盤に収められたFolkタッチのポップ・ナンバー「Sometime Girl」が彼らの極初期に当たる非常に価値ある楽曲で、この作品を皮切りにコーラス隊としての活動が本格始動します。覆面コーラス隊として参加した一過性プロジェクトThe Mutual Understanding『In Wonderland』と、彼らの記念すべきデヴュー作『Feelin' Good』の2作品 (共に1968年作)をきっかけに、彼らの名が一気に広く知れ渡ることになります。Singers名義と並行してバッキング・ヴォーカルの「First Call」的な存在として、一過性のスタジオ・プロジェクトから多数のミュージシャンとのコラボ作品等、多忙なセッション・ワークをこなし、いつしかスタジオ業界の代表格に昇りつめます。

ヴォーカル・パートを担当したLaurie Bower Singers
この大名盤での面目躍如をきっかけに名声爆上り!!

 この【Soft Rock Top 100】で度々言及してるので繰り返しになってしまいますが、カナダ産Soft Rock界で著名な名盤の数々は1作品で完結する一過性のプロジェクトがほぼ9割を占めております。例外として挙げられるThe MontageとOak Island Treasury Departmentに関しても2作品のみ。それに対しThe Laurie Bower Singersは60年中期から80年代後期に渡る⾧期の活動期間にオリジナル・アルバムを12枚+シングルを15枚をリリースし、それに加え匿名性の高いマイナー作品からメジャー・アーティストへのバッキング参加を数多くこなしてした訳ですから、カナダ産音楽業界に対する貢献度は計り知れないものがあります。

ジャケ違いとかコンプリートしようとすると20枚近くになるよ!!

 関連作品が非常に多い上に、Singers名義でも全作品を網羅すると膨大な楽曲数に昇ります。しかも好内容な佳曲が多数あるので、その中からたった1曲だけを選出するのには無理難題。ということで、《The Laurie Bower Singers 名義》で絶対押さえておきたい楽曲10選を下記に列挙致しましたので、ライト・リスナー層の方は是非参考にして頂ければと思います。

★『Feelin' Good』LP 1968年作

ただのモデルですからね…この女性は。

①「You're Driving Me Crazy」
②「I've Found A New Baby」
 1968年3月18日と28日のたった2日間のレコーディングで完成させた『Feelin' Good』は、鋭角的なスリリングさと快速Groovyなサウンドや重厚感ある男女混成コーラスで攻めに攻めたカナダ産Soft Rock界の頂点に位置する奇跡の大名盤。The Mutual Understanding『In Wonderland』とレコーディング時期・コーラス隊のメンバー・裏方陣営が同布陣ということで、同プロジェクトor兄弟作と捉えて問題なさそうです。The Laurie Bower Singersは基本男女3名づつの6人編成で構成されており、Laurie Bower御本人以外は特に固定メンバー制を敷いておりません。作品毎に集う面子は多少異なりますが、CTL絡みの人脈が名を連ねておりますので、ある程度は常連メンバーで固定されております。本盤に参加して いるコーラス隊のメンバーは下記の通り。

男性陣=Laurie Bower/Tommy Ambrose/Vern Kennedy
女性陣=Kathy Collier/Patty Van Evera/Rhonda Silver

『Feelin' Good』数量限定版CDの裏ジャケに写るメンバー

 この豪華な6名に加えて、アレンジにRick Wilkins・ミュージック・ディレクターにGuido Basso・スーパー・バイザーにJohnny Burtと、カナダ産Soft Rock界の重鎮が勢揃いした最強布陣で制作されました。往年のJazzスタンダードと当時のトレンドを意識した楽曲群を独自のサウンドと男女混成コーラスで彩ってカバーしていくのが基本コンセプト。Groovyなリズムとめくるめく展開。ハっと息を飲む楽曲構成と巧妙なアレンジ。掛け合い・ユニゾン・ハモりでグイグイ攻め込む男女混声コーラス隊。他国では決して味わえないかな り衝撃的なサウンド味わえます。
 本盤の驚愕さが顕著に表れているのがA面3曲目に収録された「You're Driving Me Crazy」。Frank SinatraやElla Fitzgeraldのカバーでも著名なJazz系スタンダード・ナンバー。Rock色の強いエレキに明瞭なボトムスを取り入れることでGroovyなサウンドが確立され、そこにパパパ・コーラスを主体とした彩り豊かなヴォーカル・アレンジで施していくことで、Groovy Soft Rockが爆誕。中盤で盛り上がるビルド・アップからCメロへの展開非常にCoolでカッコ良い。
 そして本盤ハイライトにして全Soft Rockファンに強烈なインパクトを残した問題作が「I've Found A New Baby」。スリリングなアレンジと快速系極上ラテン・ジャズ要素を盛り込んだ最強Groovy Soft Rock!!!男女の掛け合いから一挙にハモる展開や縦横無尽に駆け巡るパパパ・コ ーラスがとにもかくにも美しい。中盤からのパッセージ・コーラスが特に鬼ヤバ!!!

★V.A.『1968 CBC Song Market』LP 1968年作

Barbara Gryfeが優勝曲を熱唱した名コンピ盤!!

③「Love Is Gone」
④「Surrounded By The Night」
 RCA Victor Company LTDとThe Canadian Broadcasting Corporationの共同提供により実現したプロアマ混合作曲コンテスト。64 年から続いたこのプロジェクトは、前述した67年作『Kiss The Wind』と本盤6 年作『Colors Of The Rainbow』の2枚のみLP化が実現化されています。本コンテストの基本コンセプトは《まだ見ぬ隠れた作曲家の才能を発掘する事》。企画内容は《世界中に住むカナダ国籍を有する方のみの作曲コンテスト》。素人から プロも含めた誰もが参加可能なコンテストですので、様々な地域や職業の方々から応募が殺到。地域に関してはPrince George・Drumheller・Oakville・Toronto・Verdun・Montreal・Halifoxまで国内ほぼ全域を占め、職業も現役のミュージシャンだけでなく建設業・歯科医・工務店主・専業主婦・獄中の囚人…多種多様な職種からの応募があったようです。当時とし ては非常に高額な優勝賞金(67 年作『Kiss The Wind』が$2000。68 年作『Colors Of The Rainbow』が$1300)に加えて、TV+Radioネットワークでの周知キャンペーンも相俟って、 最終的に67年作『Kiss The Wind』では3000 曲、68年作『Colors Of The Rainbow』では5000曲を超える楽曲がエントリーされました。

裏ジャケ

 米国で著名な作曲家Arthur Schwartz・カナダが誇る一流女性歌手Juliette Augustina Cavazzi・Jazz 界の大御所ミュージシャン兼作曲家Raymond Berthiaume・RCA Victorの名プロデューサーWilf Gillmeisterの計4名により厳正な審査が行われ、数千曲の中からセレクトされた32曲がラジオ放送。そこからさらに選び抜かれた優勝曲1曲と入賞曲11曲の計12曲がLP盤様に選出。我々にとって大変興味深いのは選ばれた楽曲以上に、演奏を任されたCBC・CTL界隈の手練れなミュージシャン陣営。Billy Van・Vanda King・Rhonda Silver・Tommy Ambrose・The Laurie Bower Singers・Barbara Gryfe…等々、このクレジッ トだけでカナダ産 Soft Rock ファンならば垂涎の的となる作品に間違いはありません。
 特に68年盤『Colors Of The Rainbow』はカナダ産Soft Rockファンならずとも是非チェックして頂きたい。というのも、自身名義最高傑作盤『Feelin' Good(68 年作)』とThe Mutual Understanding名義『In Wonderland(68年作)』で完全無双状態を誇っていたThe Laurie Bower Singersが、両盤の勢いそのままにレコーディングに挑んだ最強トラックが収録されているからです。
 まず注目したいのがB面1曲目「Love Is Gone」。《これぞ!! The Laurie Bower Singersの真骨頂!!!》と思わす飛翔感が半端ない極上の疾走系Soft Rockナンバー。 大サビでのテンポ・アレンジや爽快感抜群の男女混成Harmony が最高過ぎて涙腺緩みまく りです。
 そして劇的にヤバいのが同盤A面2曲目に収められた「Surrounded By The Night」。 ③とは全く趣向の異なる超絶Mellowな絶品即死級バラード。幽玄な世界へ誘う荘厳なオー ケストレーションの鳴りとマイナー調のあまりに美し過ぎる極甘メロディ。そして洗練さMaxで奏でる男女混成コーラス。カナダ産Soft Rock界最高峰の名に相応しい異色の出来。

★『Danielle / What Is Christmas』EP 1972年作

青・緑ラベルが印象的な《Dominion》からの1枚

⑤「What Is Christmas」
 1972年にリリースされた両面LP未収の貴重なEPシングル盤。2nd Album以降の作品は1stで魅せたスリリングさやGroovyサウンドが減少傾向にあり、特にAlbumの方は田舎臭いFolk~Countr系サウンドが色濃くなっている為、『Feelin' Good』の様な内容を期待すると肩透かしを食らうかもしれませんが、男女混成のChorus & Harmonyは相変わらず美しく、選り好みすれSoft Rockファンでも楽しめる楽曲は数多存在しております。

同時期制作の3rd Album『Take Me Home Country Roads』

 こちらのシングルは丁度同時期に制作された3rd Album『Take Me Home Country Roads』と同路線上にある比較的シンプルな楽曲構成とアレンジが施されております。ゆったりほのぼの系Mellow CountryなA面「Danielle」も聴き込み深いですが、やはり注目したいのはB面の「What Is Christmas」。《カナダ産Soft Rock界のX’masソングにハズレ無し!!》という通説通り、超好内容なマストバイ・トラックな仕上がり。全体的にはA面の延線上にある簡素でほのぼの感に溢れておりますが、甘美でキレのあるメロディとそれを奏でる男女混成コーラスが格段に美しく、特に終盤に掛けての盛り上がりが感動的。


★V.A.『Toronto: What Other City Calls Its Main Street Yonge?』LP 1973年作

総勢50名超えの大掛かりな地域復興盤。

⑥「Indian Summer City」
 カナダの大手新聞社【Toronto Star社】が、地元トロントの歴史や魅力をアピールし、地域振興や経済効果を促す為に制作された販促用の一過性プロジ ェクト盤。本盤の演奏面を一手に引き受けたのがJerry Tothの実の兄弟である Rudy Toth。 彼が全楽曲の作詞作曲(共作6曲含む) ・指揮・アレンジを手掛けており、実質彼の代表作品と捉えて差し支えないでしょう。総勢50名を超えるCTL界隈のミュージシャンが列席する大掛かりなプロジェクトで、多種多様なスタイルで聴衆を楽しませるバラエティ系の作品。どんな系統の楽曲であれ、一流のプロミュージシャンによる演奏は総じて高品質なのですが、楽曲目当ての聴衆からするとストーリー・テリング的な観光誘致系ナレーターが煩わしいこと極まりないのが唯一の欠点。
 しかしながら、レコードに針を落とせば冒頭で魅せる絶品ラウンジ系インスト「Woodland City」で一気に本盤に惹き込まれること間違いなしです。ヴォーカル物で一際異彩を放っているのが、B面3曲目に収録された「Indian Summer City」。④にも匹敵するThe Laurie Bower Singers必殺の幽玄系極上 Mellow Harmonyが幻想的で秀逸です。

★『Christmas Is For Children / What Is Christmas(Slow Version)』EP1973年作

The Laurie Bower Singersによる最強Wサイダー!!

⑦「Christmas Is For Children」
⑧「What Is Christmas(1973 年 Slow Version)」
 
こちらは両面共にLP未収の貴重な7inchシングルで、The Laurie Bower Singersの数あるEP盤の中でも圧倒的な完成度を誇る最高のWサイダーとして知られる1枚。タイ トルから見て取れる通り両面共にX’masソングですが、内容・出来の良さはJohnny Burt Orchestra『A X'mas Wish』やRob McConnellのプロジェクト『A Canadian X'mas』に比肩し得る程のハイ・クオリティ。
 ミディアム・スローなA面「Christmas Is For Children」は、 歌いだしから一気に聴衆を引き付ける混声ハーモニーが非常に心地良く、キャッチーにし て気品高いメロディも大変聴き込み深いです。特に中盤1分44秒辺りからの「Merry Christmas♪」コーラスの展開は感動的で、エンディング迄の流れも秀逸。

 B面「What Is Christmas(1973年Slow Version)」は、⑤で紹介した「What Is Christmas」 をセルフ・カバーした楽曲で、差別化を図る為にSlow Versionと記載致しました。リリース時期が1973年11月ですので、A面のX’masトラックに合わせて再録されたものかと推測されますが、極上の超改良版リアレンジとなっている為、オリジナル版をお持ちの方も入手必須かと思います。旋律や楽曲構成は基本同一なものの、再録ヴァージョンではリズム・スピードが若干Slowになっており、サウンドの洗練さや男女混成によるChorus & Harmonyがより分厚く・濃厚に仕上がっております。両面共に終始浄化されているかの様な感覚に浸れる素晴らしい出来栄えで、Soft Rockファンならずとも感嘆してしまうハズ。

★『Back Home Again』LP 1975年作

本盤から遂にStephanie Taylorが参戦!!

⑨「Simple Song」
 
本盤『Back Home Again』には『The Original Sounds Of Ben McPeek』で著名なCTL界隈最強のアレンジャー兼鍵盤奏者Ben McPeekがコーラス・アレンジとキーボードで参加。そして今作(1975年)から三大歌姫Stephanie Taylorが女性コーラス隊のメンバーとして本格参戦します。さらに、鈴木雅尭氏監修のディスク・ガイド本『Record Hour』で取り上げられたEP盤「Simple Song / Just A Little Song」の2曲が収録されており、話題性も内容度も充実した作品になっております。本作品でのコーラス隊のメンバーは以下の通り。

女性陣=Stephanie Taylor・Colina Phillips・Judy Tate
男性陣=Laurie Bower・Billy Meisener・Phil Sykes

裏ジャケ

 他作品と相も変わらず、男女混声によるコーラスでFolk & Countryサウンドを大らかで陽気に奏でておりますが、やはりStephanie Taylorの存在はかなり大きく、前作迄の作品と比較すると女性コーラスの瑞々しさが倍増しております。そして本盤で一番のハイライトで あり格別に完成度の高い作品が、『Record Hour』でも紹介された「Simple Song」。耳馴染みの良い軽快なメロディ、ドライなアコギの音色、そして男女混声から成るラララ・コーラス。 簡素にして充実度の高い逸品。お薦めです。

★Johnny Cowell with The Laurie Bower Singers『Bridge Over Troubled Waters』LP 1977年作

⑩「Gentle As A Breeze」
 1977年リリースの『Bridge Over Troubled Waters』は、カナダを代表する作編曲家兼トランペット奏者として著名なJohnny Cowell(John Marwood Cowell)とタッグを組んだコラボ作品で、The Laurie Bower Singersの数ある作品群の中でも『Feelin' Good』に匹敵する程ずば抜けて好内容な大名盤です。Johnny Cowellは「It's Gotta Be Love」「Walk Hand in Hand」「Our Winter Love」等の大名曲を残し、才能・実績共にトップクラスを誇るコンポーザー。つまりメロディや旋律の美しさに関しては折り紙付きであるJohnny Cowellの書下ろしの楽曲群に、The Laurie Bower Singersが色彩豊かな混成Harmonyで表現していくプロジェクトで、さらに裏方陣営ではあのRick Wilkinsがアレンジを施し、数ある名盤を手掛けてきた天才Johnny Burtがプロデューサーとしてクレジットされております。

Johnny CowellのSoft Rock系代表作と言えば『It's Gotta Be Love』。
惜しくもランク外になりましたがタイトル曲と「High On Flagpole」は必聴の名曲!!

 正にカナダ産Soft Rock界の最強布陣で制作された本作は、A面B面共に5曲ずつ計10曲が収録されており、タイトル・ナンバーSimon & Garfunkel「Bridge Over Troubled Waters」 に加え、B5「God Only Knows」・Aubrey Tadman「One Child」の計3曲がカバーソング。 残りの7曲中6曲がJohnny Cowell、1 曲がJohnny Burtによる書下ろしの楽曲になります。 本盤で特徴的なのは、同郷The Robert Tennison TroupeやThe Free Designを彷彿させる濃密でキレのある男女混声Chorus & Harmonyが全編通して堪能出来る事。そしてサウンド面に関しても『Feelin' Good』以外の作品群ではやや単調なFolk/Country寄りの楽曲が顕著でしたが、今作では鋭く洗練されたSoft Rockサウンドを響かせております。

裏ジャケ

 本作で最も人気が高いのが、裏ジャケの推薦文でMal Thompsonが絶賛し、Web版オルガンバー公式サイトでも「Soft Rockの黄金郷」と称されたA面2曲目「The City」。縦横無尽に駆け巡る混成コーラスもかなり攻め込んでおり、めくるめく展開が圧巻です。
 その他佳曲が多数立ち並ぶ中、個人的なハイライトはエンディングを飾るJohnny Burt作曲の 「Gentle As A Breeze」。華美なオーケストレーションをバックにBossa Novaサウンドを基調とした美麗に流れる旋律は、難解複雑にして滑らかさをも感じる摩訶不思議な魅力に包まれております。浮き沈みの激しいメロディにもいとも容易く呼応していくThe Laurie Bower Singersの繊細なChorus & Harmonyは筆舌に尽くし難い程に美しく、正に夢心地。一瞬の隙も無駄も無い、世界遺産級の鬼ヤバ大名曲として一生語り継がれるであろう1曲。誰が何と言おうとこの曲がカナダ産Soft Rock界で最強の1曲です。

1位 Jose Mari Chan「Sing In Harmony」1976年

亜モノSoft Rockの帝王!!!

 『比国の Jimmy Webb』『King of 亜モノ Soft Rock』『Love Ballad の帝王』『孤高の天才ポ ップ・マエストロ』『X’mas キャロルの王様』等、複数の異名を持つフィリピンの国民的SSW兼大手製糖企業のCEOを務めるビジネスマンJose Mari Chan(繁体字: 曾煥福)。彼は父親Antonio Chanの第一子として1945年3月11日にビサヤ諸島のパナイ島南岸にある都市イ ロイロ市に出生した華系フィリピン人。
 音楽愛好家である母方の祖母とピアニストである母親の影響を受け、幼少期より音楽に触れる機会が多く、欧米のPop Music(特にPaul AnkaやNeil Sedaka)に傾倒していたそうです。学校内での音楽活動も盛んに行ったり、「Children's Hour」という子供向けラジオ番組で歌声を披露したり、若干13歳にしてオリジナル・ソングを作曲する等、着実に自身の音楽キャリアを形成するも、華人系の血筋がフィリピンでの音楽活動に不利に働くのではな いかと懸念した父親がビジネスの道を推奨。父の忠告をしかと受け取り、アテネオ・マニラ大学の経済学の学士号を取得して卒業するも、当年1967年に地元音楽番組のプレゼンター兼歌手としてのポストを受けるチャンスに恵まれオファーを承諾。それを機に1st Single「Afterglow」で歌手デビューを果たし、2年後の1969年には記念すべき1st Album『Deep In My Heart』を発表。

デヴューシングル『Afterglow』!!!

 その後、1973年11月18日に東京で開催されたヤマハ主催の第4回世界歌謡祭にフィリピン代表として来日し、「Can We Just Stop And Talk Awhile」がノミネートされるも最終予選で敢え無く敗退(小坂明子「あなた」がグランプリ受賞)。しかしながら本国フィリピンでは、自身のアルバムを計4枚リリースし、並行してTVやラジオでの出演、数多くの歌手や映画産業・CMのジングルなど作曲家として膨大な楽曲提供を行い、名誉ある賞を多数受賞して一躍音楽業界の大スターまで昇り詰めます。
 1975年には家業である製糖業の事業拡大により家族共々米国へ移住し、再度フィリピンに帰国することになる1986年迄の11年間は音楽活動を休止。帰国後は音楽業界へ再び返り咲き、フィリピン人が大好きなラブ・バラードや X’masソングを中心としたアルバムをコンスタントに連発し、何れも大ヒットを記録。今日では誰もが知る圧倒的な知名度を誇る国民的ビッグネームとしての堅固な地位を築かれております。

表題曲と同路線の名曲が粒揃いに立ち並ぶ2nd Album

 Soft Rockファンが注目すべき作品は、彼が渡米する以前の4枚のAlbum。全作品共美しいメロディを堪能出来る充実した良作ですが、1st Album『Deep In My Heart』は60’s臭さが色濃く残る簡素な作りが印象的で、2nd Album『Can We Just Stop And Talk Awhile』ではややEasy Listening寄りのパンチの弱さが露呈しており、少々物足りなさを感じる方も多いかと思います。そういう意味で言うと本格的にSoft Rockサウンドが爆発する3rd Album『Afterthoughts』と4th Album『Here & Now』の2枚がSoft Rockファンにとって必聴のマスト・アイテムになっております。と、言いましてもオリジナル・レコードの入手難度はやや高めなので、レア盤採掘が苦手な方は1985年作『A Golden Collection』の入手を推奨。このアルバムは彼のデヴュー・シングル「After Glow」を含む、70年代に発表された佳曲を寄せ集めたベスト盤で、亜モノSoft Rock系に敷居の高さを感じていた方でもJose Mari Chanの魅力を手っ取り早く堪能出来てしまうので初心者にはお薦め。

初心者に最適なベスト盤

  しかしながら、3rd Album『Afterthoughts』の「Why Did We Not Meet」と4th Album『Here & Now』の「Sing In Harmony」というJose Mari Chanの⾧期キャリアにおける最強大名曲がベスト盤には何故か未収録の為、Soft Rockファンガチ勢の方はやはりレコ盤入手が必須となります。ということで、Soft Rockファンにとって見逃し厳禁な最強即死級トラック2曲を御紹介致します。

★1974年作『Afterthoughts』

神レベルの名曲が連発するA面の流れが劇的にヤバい!!

①「Why Did We Not Meet(Some Years Before)」
 彼が唄った数百を超えるバラードの中でも、次点と圧倒的な差をつけてトップに君臨する最大名曲。胸を突く煌きの旋律が特に美しく、ステレオ位相を駆使したオーケストレーションによって華やかな雰囲気が多分に醸し出されております。流麗にして簡素な演奏が、鬼甘ハイトーン・ヴォイスで表現する Jose 氏の歌声を浮き彫りにし、甘美な世界観を体感出来ます。
 レコ盤ですと次曲に「Good Old-fashioned Romance」⇒「Counterpoint To Lennon & Mccartney's Here,there And Everywhere」⇒「Here We Are」と奇跡的に極甘メロディが連続するので、前情報無く初見で聴いた方は、肌感覚で桁違いの才能を強烈に感じ、電撃をモロ喰らう程の衝撃を受けるハズです。 
 で、余談にはなりますが「Here,there And Everywhere」でB4のオマージュ作品を披露していたり、マッカ遺伝子純度120%のミディアム・バラード 「Good Old-fashioned Romance」では明らかに「For No One」を下敷きにしていたり、多かれ少なかれPaul McCartneyの影響を受けているのが伺えます。後年のLiveではThe Companyのアカペラ・コーラスをバックに「Good Old-fashioned Romance」を歌っており、中盤辺りからJ.S.Bachの「G線上のアリア」をメドレー形式で披露。どうやら、彼が異次元レベルに美麗な旋律を量産出来たのは《マッカメロ+クラシック》というEric Carmenにも通じる作曲法が根底にあったからではないのかと推測出来そうです。何れにせよ、完全に脂が乗り切っていたこの時期のJose Mari Chanの楽曲は、至宝級の歴史的価値を感じます。

★1975年作『Here & Now』

表ジャケ
見開き
裏ジャケ

②「Sing In Harmony」
 正式表記は個人名義になっておりますが、Apo Hiking Society・Pilita・The Ambivalent Crowdといった3組のゲストを迎えて制作された実質コラボ作品。 全体を通して聴いてみると、1970年代に活躍したポップ系コーラス・グループThe Ambivalent Crowdとのデュエット・ソングや、フィリピンを代表する女性SSWのPilita Corralesによる独唱、そしてFunkyなインスト・ナンバーの収録もあり、やや雑然とした纏まりのない作品になっております。その上、ラブ・バラード好きであるフィリピン人特有の習性も影響してかJose Mari Chanの楽曲もしっとりとしたバラードが大半を占める楽曲構成になっております。

最盛期の演奏風景

 とは言え、アルバム全11曲中9曲がJose Mari Chanによって書き下ろされたオリジナル・ ソング(共作含む)で、『比国のJimmy Webb』と称されるだけあって旋律の美しさはお墨付き。純粋に甘いメロディに目が無い方にとっては、掛け値なしに素晴らしい傑作盤と言えそうです。特に「Afraid For Love To Fade」「Love & Music」の2曲はベスト盤にも収録されていますが、極上Soft & Mellowの極地とも言える楽曲ですので、バラード好きの方は必聴 です。
 そして今作にはバラードではない疾走系のSoft Rock大名曲が2曲収録されており、それが彼の代表曲でもある「Love At 30,000 Feet」と、このSoft Rock名曲Top100の堂々1位を飾る「Sing In Harmony」。前者はフィリピン航空のテーマ・ソング向けに作られたジングルで、彼の名が全土にあまねく知れ渡り、国民的スターとして確固たる地位を築いたシンボル的な大名曲。
 特に冒頭のストリングスや全体を流麗に包み込むオーケストレーション、そし てオート・ワウペダルを活かしたカッティング音等はLove Unlimited Orchestra「Love’s Theme」をモチーフにしており、そこに持ち前の甘くポップなメロディを乗っけることで爽快感抜群の極上Soft Rockサウンドを構築。
 正しく【Barry White Meets Jose Mari Chan】的でSoft & Mellowな1曲なのですが、例えばBob Azzam & The Great Expectations「Super Air Service」や Brian Hyland「When You Touch Me」でも顕著な高揚感・疾走感を伴うサウンドがプラスアルファ的に付加価値を付け、それをJose Mari Chanによる劇的に甘いハイトーン・ヴォイスで歌われるのですから文句無しの最強Soft Rockナンバーに仕上がったという訳です。

 で、この「Love At 30,000 Feet」をさらに発展させたのが世界最高峰の大名曲「Sing In Harmony」。もうタイトルからして名曲の臭いがプンプンしておりますが、完成度の高さが鬼ヤバレベル。バック演奏は基本「Love At 30,000 Feet」と同様の「Love’s Theme」スタイルで、華麗なストリングスはメロディに合わせて飛翔しまくっているのですが、ワウペダルのカッティング音はオートでは無く、大サビCメロで小気味良いグルーヴ感を生み出して います。そして最大の聴き所は如何にも日本人受けしそうな旋律とコード進行。はち切れんばかりの鬼甘ポップなメロディが炸裂。それでいて控えめでSoft & Mellowなヴォーカルに徹したJose Mari Chanの歌唱が絶妙に絡み合い、信じ難い程のポップ・フィーリングに包まれています。特に1:03秒から魅せる大サビの展開が劇的にヤバい。亜モノSoft Rockを侮ることなかれ!!!これが世界最高峰!!!

【おまけ】
 
オリジナル・アルバム全4作品を入手された方やJose Mari Chanの魅力をさらに深堀して堪能したい方にお薦めしたいのが、1997年にリリースされたCD『Strictly Commercial』。マニアックなレコ盤に大変造詣の深い日本の写真家兼グラフィックデザイナーの常盤響氏が強力レコメンドされておられましたので御存知の方も多い方かと存じますが、こちらの作品はJose Mari Chanが作曲家として60年代中期から約30年に渡って制作してきたジングル・コレクションです。ジングルという性質上1分に満たない小曲が大半を占めているものの、全74曲というビッグ・ボリュームな上にEasy Listening・インスト・ラテン・ボサノヴァ・ディスコ・Kids物・中国民謡など多種多様なサウンドが楽しめ、どの楽曲もキャッチーなメロディに溢れた高品質なSoft Rockサウンドを堪能出来ます。
 基本的には他アーティストによるヴォーカル曲が多く、Jose Mari Chan自身の甘いヴォーカルで吹き込まれた楽曲は少ないのですが、彼のリードを取る楽曲はド直球のSoft Rockナンバーに仕上がっており、ファンの方は是非選り好みして聴いて頂ければ存分に楽しめると思います。特筆すべきはラストに収録されたPhilippine Airlines「"Love at Thirty Thousand Feet" Medley with "Big, Beautiful Country"」。彼の大名曲を豪華に気品高くメドレー形式でオケ版アレンジ。ファン歓喜必至です!!

最後に

 ここまで「Soft Rock Top 100」を御覧頂き本当にありがとうございました。全15記事100選曲、如何でしたでしょうか?皆様のSoft Rock人生に彩りを与えることが出来たならば恐悦至極の至りで御座います。
 今後は皆様から頂いた御質問・御提案・御要望・リクエストに応じて、今後も少しづつSoft Rock系の情報を発信していきたいと思っておりますので、暖かい目で見守って頂ければ幸いに御座います。
最後に一言…【Soft Rockさいこ~う(^^)/!!!】

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