見出し画像

【完結編】僕とあの人

▲▲▲前編▲▲▲

「ありがとう」

あの人はそう言って微笑んだ。 それは森で何度も助けてもらった、あの優しい笑顔。 僕は僕の言葉で大好きな人を救えただろうか。 少しだけでもいいから。 そう思うけれど、上手くできているのか自信がないんだ。 あの人は強い。

優しくて強い。 あんなに泣いていたのに、僕が現れると笑ってくれた。 だからあの人がまだ傷ついていることに、なかなか気づけなかった。 世界中を探しながら、やっとあの人を見つけたのに。 その間ずっといろいろなことを考えていたのに。

僕はまだ、あの人に甘えてしまっていたのかもしれない。 あの人が笑ってくれることを、僕が求めていたのかもしれない。 世界中を探して見つけたあの人は、気弱につぶやいた。 「私は君に向かってちゃんと笑えていた?」 あなたが安心できるように、笑えていた? 僕は一瞬、何も答えられなかった。

僕は僕に優しくしてくれたあの人にも、優しくできる僕になりたい。 あの人は僕やみんなに優しくしてくれたけれど、自分自身をないがしろにしている。 そんな気がするから。

だけどどうしたら、僕の気持ちが伝わるの? 思わずあの人を小さな身体で抱きしめた。 僕の心臓の音と、あの人の胸の鼓動が重なる。 いつの間にか、あの人はまた泣いていた。 流れ落ちる涙は、刃のように尖っていて。

僕の仮面やむき出しの身体を傷つける。 それでも僕は、あの人に寄りそっていた。 「どうして傷ついても君は私から離れていかないの?」 そんなの決まっている。 「何があっても、あなたのそばにいたいからだよ」 そのために僕は世界を回ってここまで来たんだよ。

優しいあの人も、つらくて泣いてしまうあの人も、僕は大好きだ。 あの人は今度こそ、心からの笑顔を見せてくれた。 でも、涙の刃で僕の仮面はぼろぼろに砕けてしまった。

兔の僕には鋭い牙も空を飛べる翼もない。 仮面をつけなければきっと足がすくんで、あの人を探しに行くこともできなかった。 それでもあの人は、こう言ってくれたんだ。


「君はとても心が広くて、強いんだね」


優しさに応えきれないだけじゃない。 ときには誰かを傷つけてしまう。 そんな自分を見せてしまったら嫌われるんじゃないか。 ひとりぼっちになってしまうんじゃないか。 あの人はそう思っていたらしい。 だから僕の前からも姿を消してしまったんだって。

「もう一度言うよ、何があっても僕はあなたが大好きだ」

仮面のない顔で見る世界は、どこか色が鮮やかだった。 あの人のおかげで、僕は僕なりの強さを見つけたのかもしれない。 牙も翼もないけれど。 僕もあの人も、目に見えない何かを持っているはずだから。

仮面がなくたって。泣かなくたって。

きっともう大丈夫

この記事が参加している募集

サポートありがとうございます🙇‍♂️空想ケモノです🐰毎日投稿にチャレンジしています🔥サポートして頂いた費用で新しい書籍📕を購入させていただきます!新しい知識を入れて、必ず恩返しさせていただくので、これからも応援よろしくお願いします😊