「熱海殺人事件」の名言
プロポーズするならされるなら、
「一生あなたを幸せにします。結婚してください。」
が良いですか?
つかこうへいさんの戯曲「熱海殺人事件」。
数々の見どころと名言がありますが、今の私に最も響くのは、犯人の大山金太郎のこの台詞です。
そもそも人が人を幸せになんかできんのか。
この人だってあんたに幸せにしてもらおうなんて思っちゃいねえよ。
自分が幸せになりてえから、あんたと一緒になりてえと思ったんじゃねえのか。
(「熱海殺人事件 ザ・ロンゲストスプリング」より犯人・大山金太郎)
「あなたを幸せにします」という約束の言葉が欲しいんじゃない。
プロポーズを受ける側も、自分で幸せをつかむために「YES」と答える。
冒頭の王道プロポーズも良いですが、
「私が幸せになるためにあなたと一緒になりたい。」
この方がずっとロマンチックだなと私は思います。
「熱海殺人事件」は、難解な事件を解決するいわゆる刑事ドラマではありません。
むしろその逆で、容疑者大山金太郎を、東京警視庁木村伝兵衛刑事部長が、立派な犯人に成長させる物語です。
観客が、前半の怒濤の茶番劇に頭を捻らせている間にも捜査は進んでいて、気づけばクライマックスとなる事件の再現シーンに連れてかれる。
犯人大山金太郎と被害者の山口アイ子が歌う「RUNNERS」は実に切ない。
走る走る俺たち 流れる汗もそのままに
いつかたどり着いたら 君に打ち明けられるだろう
一瞬通じあった心。手の中の千円札。
愛しさは敵意に変わり、哀しさは殺意に変わる。
首に巻いた腰ひも。当たるスポットライト。
再現シーンはブツリと切れ、
木村伝兵衛刑事部長は、犯人大山金太郎に真っ赤なバラの花束を打ち付ける。
それは罪を犯した者への戒めにも、
立派な犯人に成長した者への祝福にもみえる。
そのシーンが衝撃的で、また観に行きたくなってしまうのです。
愛とは安らぎのことではありません。
何物にも負けぬ強い志のことです。
恋とは優しさのことではありません。
共に天を抱かんとする強い意志のことです。
そして幸せとは…その手で勝ち取るものなのです!
(「熱海殺人事件 ザ・ロンゲストスプリング」より木村伝兵衛刑事部長)