気づいたら、飛び込み営業が怖くなくなっていた。
こんにちは。マイノリティという会社で代表をやっている柳澤といいます。
マイノリティは営業コンサルティングやB2Bマーケティングを専門とする会社です。しかし僕はもともと営業が大嫌いでした。とても苦労した新卒時代から、営業の総本山のような会社に転職。そして最終的にいまの会社を起業しました。
いったいなぜそんな道を歩むことになったのか、noteで振り返っています。よかったらマガジンで辿ってみてください。
前回の記事では、キーエンス子会社のイプロスで営業チームのマネージャーまで任せてもらったものの、とあるきっかけから左遷され、マーケティング部門を立ち上げることになった経緯について書きました。
かなり落ち込みましたが、結果的にはマーケティングやインサイドセールスの知見を得ることができ、いまのキャリアに欠かせない経験をさせてもらったと思います。
そんな僕の次のチャレンジの場は、まだ組織が立ち上がって間もないメルペイという会社でした。ご存知のとおり、メルカリの子会社です。当時はなにか金融事業をはじめるという情報だけが出回っていた時期でした。
会社のミッションは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」。
僕の仕事は、メルペイがはじめる新たなスマホ決済サービスをさまざまな店舗に導入してもらうための「営業部隊」を編成することでした。
毎月数十人が入社、ピープルマネジメントが問われる
2018年10月入社。コーポレートサイトができたくらいで、まだサービスは公開されていません。PayPayやLINEPayなどをはじめ、いろんな会社がスマホ決済サービスに参入し、競争が激化していた時期でした。
その当時のPayPayはそれこそ「営業が5,000人いる」なんて言われているくらいすごかったです。メルペイもさすがにその規模まではいかないまでも、すぐに200〜300人くらいの組織になることは見えていました。
「これはピープルマネジメントがすごく重要になるだろうな」と入る前から感じていました。なぜなら一度にこれだけの人数を採用するとなると、じっくりとカルチャーマッチなどを見ながらでは間に合いません。
キーエンスのような「営業の権化」みたいな組織とはだいぶ様相が違ってきます。未経験のメンバー、業務委託のメンバーの力を借りて、みんなで成長する必要があります。
前職の反省をいかし、意識的に人と向き合って、しっかりと育てていこうと決意したことを覚えています。
実際、僕がマネージャー職として入社すると同時に、5人の営業メンバーが入りました。その時点で同僚のマネージャーは1人しかいません。
オンボーディングなんて存在しないので、さあどうしよう、というところからのスタートです。さすがに遊ばせておくわけにもいかない。けれど、プロダクトがローンチしていないので客先に資料を置いてくることもできません。
そんなカオスな状況でしたが、その翌月にはさらに10人の営業メンバーが入社しました。さらに翌月には20人…。いま思えば、いろいろ問題が起きましたね(笑)
ロープレ、ロープレ、まるで「劇団」みたい
外から見たら、まるで「劇団」みたいだったと思います。
要はひたすら「ロープレ」をやっていました。前職のイプロスはオンボーディングの過程にとても力を入れていて、その軸となるものが、社内で営業トークを一通りやってみせる、いわゆるロープレです。
研修で商品知識をおぼえ、客先に出る想定で資料をもとにしたロールプレイングを上長の目の前でやってみせます。ほぼ一言一句間違えないレベルで再現しないとOKはでません。それができない限り、客先に出られないんです。
それをメルペイにも導入しました。その結果、大炎上でした。「そんなことできるか」「これをやることに何の意味があるんだ」と猛反発です。
プロダクトもない中でみんなが必死でロールプレイをする様子はまるで駆け出しの劇団員のようです。会議室に僕がいて、一人ずつ呼んで「やってみて」みたいな感じですね。
なので、本当にできないメンバーは、同僚は客先に出ているのに「自分は1ヶ月たっても出られない」なんてこともありました。それって、きついです。売れないよりきついと思います。
でもロープレができるかできないかというのは、最終的には努力です。運転免許と一緒で、ほとんどの人が努力すればできる。やらないとできない。そこの本気度をちゃんと持ってもらうために、僕も一人ひとりと向き合ったつもりです。
「組織が立ち上がったな」という手応え
自分のチームのメンバーに対しては我が子のように接していました。20代前半のメンバーが中心で、40歳手前の僕からすれば、当時10歳の自分の子どものほうに年齢が近い人たちです。
何か様子がおかしかったら仕事のあとに連絡をしたり、いろんな話をするようにしましたね。いま思えば1on1は僕にとっても初めての経験でした。十数人単位で増えていくメンバーと1on1を繰り返していった結果、脱落する人はかなり少なかったと思います。
僕は営業にデータを用いることを得意としていたので、「こういう行動をするとこういう結果が出るだろう」ということをすべて確率論的に考えて伝えていました。
3〜4か月経ってくると、次第にメンバーたちも「この人の言う通りやっていくと、本当に言った通りの結果が出るんだな」と理解しはじめてくれました。
キーエンス式のオンボーディングにちゃんとみんなついてきてくれました。
1on1のコミュニケーションを取り入れてからは本当に人が辞めなかったです。「組織が立ち上がったな」という手応えがありました。
一番多いときでおそらく20人くらいを直接マネジメントしていましたが、当時はまだオンラインの商談なんて一般的じゃなかったので、20人全員に同行していたら20営業日なんてすぐに終わってしまいます。
一般的なマネージャーが1人で見られる最大の人数は8人くらいと言われていますし、すごくきつかったのは間違いないですが、同時に充実感もありました。機能していくのが感じられたからですね。
気づいたら、飛び込み営業が怖くなくなっていた
うれしい出来事もありました。
3か月目から4か月目くらいで、だんだんと頭角を現してくるメンバーが出てきました。何人かは現場のリーダー的な立場で動けるようになってきたんです。
マネージャーとして、これはうれしいですよね。マネージャーとメンバーの間に入ってサポートしてくれました。
いまでもそのときのメンバーとは繋がりがありますし、当時は締めの日が終わった後にみんなでバーベキューに行ったり、けっこう家族みたいな付き合いをしていました。
もちろんオンとオフのメリハリはありましたけど、昔の僕だったら絶対にありえなかったようなコミュニケーションをとっていて、「こういうことで一体感が醸成されていくものなんだ」とあらためて感じました。
新卒で入った営業会社は少ない人数の家族経営的なところもあって、どちらかというとウェットなノリでした。僕はそれがちょっと嫌だったんですけど、そのときに先輩からやってもらったことが、十数年後にメルペイで活きているのも不思議な感じでした。
結果が出せなくて苦しんでいるメンバーには、自分の新卒時代の話もしましたね。僕は新卒1年目のとき営業にすごく苦労しました。4月と5月は体調を崩して会社を休んだくらいです。ロープレに受からない子だって僕よりはましです。「実は自分もそうだったんだよ」と話しました。
「新卒のときは飛び込み営業をするのがすごく嫌だった」とnoteにも書いていますが、メルペイの展開するスマホ決済の営業って、基本的に飛び込み営業なんですよ。
もちろん全国にある大規模チェーン店には別ルートで営業をかけますが、いわゆる街の個人店、特に飲食店は飛び込み営業が中心になります。
外から見て、お客さんがそんなにいなければそのまま入っていって、話を聞いてもらいます。
当時僕が見ていたチームは、SMBのターゲットにメルペイを導入してもらうことを期待されていました。飲食店や美容室みたいな店舗系ビジネスを重点対象にして飛び込み営業をしていました。
で、僕が営業同行するとなると、まずはお手本としてやってみせる必要があります。
「こうやってやるんだよ」とやってみるわけですが、あれ?と思いました。
新卒のときに、あれだけ苦手だった、どうしてもできなかった飛び込み営業を十数年ぶりにやってみたら、普通にできるようになっていたんです。あんなに嫌だったのに。
まあ飛び込み営業自体は新卒の1年目しかやっていなかったんですが、その後に法人営業はずっとやっていたので、たぶん営業の基本みたいなものが体に叩き込まれていたんだと思います。
なので、飛び込みにまったく恐怖感がなくなっていて、客先に行ってもスラスラと話せるようになっていたんです。「今振り返ると…」ではあるんですけど、「新卒のときに飛び込み営業をやっていて良かったな」とは思いました。
あとは単純に、若いときは過度にセンシティブというか、人から断られること自体が嫌だったんでしょうね。年齢を重ねると鈍感さがどんどん増してくるものです。営業としては良い意味での鈍感力みたいなものが強くなっているのを感じました。
だから、「この子たちはあのときの自分と一緒なんだな」みたいなこともわかる。これまでやってきたことが一周した感じがして、おもしろいもんだと思いました。
新卒のときの僕は飛び込み営業がまったくできなかったんですが、あのときに会社を休むくらいまで思いつめた経験は、十数年経って大事だったなと思います。あの経験がなかったら、メルペイで若い人たちに教えることができなかったからです。
「できないとき」の気持ちがわからないと、きっと本心で接することもできないですよね。それってきっと相手にも通じちゃいます。
これまでいろいろな経験を、主に挫折とともに味わってきましたが、振り返ればひとつも無駄がなかったように感じられるのは幸せなことだと思います。