PMFのむずかしさと、顧客ニーズを本当に理解するための方法について
何回かにわたって、「スタートアップや大企業の新規事業がPMFするために必要なこと」について解説しています。
前回はこちらの記事です。よかったら読んでみてください。
新規事業を成功させることの難しさについてはもう言うまでもありません。そもそも新規事業というものは、ほとんど失敗すると言われています。
特にスタートアップが何もないところからアイデアを出し、プロダクトを作り上げ、それが市場に受け入れられる確率は相当低いものです。IPOやM&Aなどを成功の定義とした場合、その確率は1%前後とされています。
大企業の新規事業も、豊富なリソースがあるとはいえ、数年のうちに撤退するものがほとんどです。とにかく新規事業の成功は非常に難しい。
ではなぜ多くの会社が失敗してしまうのか?
大きな理由としてあるのが、顧客ニーズがわかっていないのに商品をつくってしまうからです。
プロダクトはつくらなくていい
私は大企業の新規事業部門の方からご相談をいただくことも多いのですが、話を聞きにいくと、たいていの場合、すでにプロダクトをつくってしまっています。
自分たちで議論してたどり着いた仮説に基づいて、プロダクトを完成させてしまっているのです。これは時期尚早だと私は考えます。
そういった場合にアドバイスするのは、プロダクトは一旦つくらなくていいということです。開発に取り掛かっているのであれば、そんなに急がなくていいと伝えます。
その代わりにやるべきことは、パワポのスライド4〜5ページでいいので、そこにプロダクトのイメージ図や、どんな機能を持っていて、どういう課題を解決できるのかをまとめることです。
それを持って、テストセールスをしてくださいとアドバイスします。
プロダクトはなくても一向にかまいません。その商品をお客さんにプレゼンして、本当に買ってもらえるかどうか、ニーズの有無をまず確認してみてください。
誰も本気のフィードバックをしてくれない
私もスタートアップで新規事業を担当していたときにそれを実践しました。プロダクトがない状態で、資料だけ持ってプレセールスに出向いたものです。
しかし、実はそこにも落とし穴があります。
既存のお客さんや人脈を使って、「こういう新規事業を考えているんですが、どう思いますか?」と聞くと、おそらく10人中8〜9人は「いいですね」と言うと思います。そういうとき、人は簡単に「いいね!」と言いがちなんです。
なぜかというと、その相手からすると、ネガティブなフィードバックをするメリットがまったくないわけです。
私が新規事業や新商品でこういうものを検討していますと言って、これをリリースしたら興味持ってもらえそうですか?」みたいなことを聞くとします。実際にリリースするのは1年、2年先の話でしょう。
そうすると「まあここではっきり言うのもちょっと悪いな…」と思って、とりあえず「いいですねぇ」と言ってしまうものです。
そもそもわざわざ足を運んでもらっている相手にネガティブなことは言いづらいですし、他社の新規事業に対して正直にフィードバックするインセンティブがありません。
となると、テストセールス、プレセールスといった類のものはすべて無意味なのか。
大丈夫、そんなことはありません。
プロダクトを開発する前にヒアリングするときのコツは、仮申込書までもらうのを徹底することです。
テストセールスとPMFの度合い
新規事業の資料を見せながらプレゼンして、仮申込書を出したときに相手の本音が出ます。
「ローンチは1年後なんですけども、もし本当にいい商品だと思っていただけたら仮の申込書にサインをいただきたいんです」
このように言うと、途端に本音が出てくるんです。
仮申込書とはいっても契約書ですから、サインするのはそれなりの重みがあるので相手の本音が引き出せます。申込書を出されてはじめて、「この機能がないとうちは無理だよ」みたいなことが言ってもらえます。
いま検討中のプロダクトを本当にこのまま開発するべきなのか、アイデアの筋がいいのか・悪いのか、つくる前にわかるのはとても大事なことです。エンジニアが時間をかけてつくった後だともう引けませんから。
前回の記事で「PMFには明確な定義がない」と書きましたが、例えば10社にテストセールスして4〜5社から仮申込書をもらえたら、PMFの可能性はかなり高いと言えます。申し込み率が30%を超えていたらけっこう筋がいいんじゃないでしょうか。
しかし、意外とこういった活動をやっていない会社も多いです。せっかく事前にニーズを探るチャンスがあるのに、プロダクトをローンチしてしまい、売りながら聞いていくケースが非常に多いのです。
確かに、営業からすれば、何もない状態で構想だけが書かれたパワポ資料を片手に売りに行くのは難しいです。そこで私は支援先の会社さんに営業トレーニングも提供しています。ぜひともテストセールスは実施していただきたいところです。
すでに先行事例が存在する場合
これまでの話とは逆に、ある程度はプロダクトをつくってしまっても問題ない新規事業もあります。それは例えば、日本では初めての事業だけど海外では先行している企業がある場合です。ライドシェアなどがそうですね。
日本では法規制がありますが、それさえ改正されれば確実に伸びるのがわかります。そういった場合は、ユーザーインタビューはそこまで必要がないこともあります。
PMFというのは、「そもそも市場があるか」すらわかっていない世界のことです。すでに競合の商品があって、それを追いかけるのであれば、PMFの道を探るというよりは「二番手戦略をどう展開するか」という話になります。
そういう意味でいうと、DMMはとても上手だと思います。たとえば、DMMの英会話サービスは後発です。何の後発かというと「レアジョブ」です。最初にオンライン英会話サービスを始めたのはレアジョブでしたが、それがPMFした瞬間に、DMMは追いかけています。
DMMの戦略は、おそらくGAFAMやソフトバンクのような大企業が手を出してこないような事業規模、つまり市場規模がそこまで大きくない、数兆円もするようなマーケットではないところで、自分たちが勝てる領域を見つけ出して勝負することです。
先行するスタートアップを買収するか、それができなければ、自分たちが後から立ち上げてリプレイスしていく。
レアジョブの件でいうと、私の推測ですが、もしかしたらDMMは買収を申し出たんじゃないかと思っています。レアジョブがPMFして非常に伸びていて、まだ資金力が弱いタイミングで買収を試みたのではないでしょうか。それで応じなかったから自分たちで立ち上げたという形かもしれません(いや推測ですが、ありそうな話ではないかと思います)。
顧客ニーズの理解なしにPMFはない
話がそれましたが、プロダクトができてから顧客をまわってニーズ検証するのではなく、つくる前からちゃんと検証しましょうということです。
当たり前のように聞こえるとおもいますが、これをやっていないケースが意外と多いんです。会議室の中の議論から生まれた新規事業では、顧客ニーズがわかっているようでわかっていません。
私がメルカリに在籍していたとき、新規事業の部署でよく話していました。
「自分たちはこのサービスの顧客対象ではないのだから、この場だけで議論していても必ずどこかずれてしまう。ちゃんと消費者インタビューをして顧客理解を重ねていこう」と。
スマートニュースにいたときも同じでした。クーポン事業をSMB向けに立ち上げた際も、それらを使ってくれる消費者の話を聞かなければ、仮説がずれてしまいます。
社内の議論だけでは本当の顧客ニーズをつかめない。その前提に立って進めないとPMFに至らないんです。
「スタートアップや大企業の新規事業がPMFするために必要なこと」を書いていく連載。シリーズ第2回は“新規事業のニーズを探る・検証する方法”について解説しました。
次回は「PMFしていないものをPMFさせるためのヒント」です。よかったらnoteをフォローしてお待ちください。
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