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しゃぶでーす!が人気のレストラン|恋する豚研究所

 世界各地にある魅力的な企業や仕事をフィールドワークから紹介する「明日の仕事|ソーシャル&ビジネス」の第4回は、2012年2月9日(肉の日)に千葉県香取市で創業した「恋する豚研究所」です。

 筆者が2023年に修了した東京藝術大学 Diversity on the Arts Project の授業で、1年を通して福祉について教えてくれた飯田大輔さん(株式会社恋する豚研究所の代表取締役/社会福祉法人福祉楽団の理事長)の、理論と実践、ロマンとそろばん(ソーシャルとビジネス)の、キレッキレの両刀使いに感銘を受け、いつか行ってみたいと思ってた場所です。

 2024年7月に念願かなって訪問してきましたので、本記事では看板商品「恋する豚のしゃぶしゃぶ定食」の食レポも交えながら、同研究所の取り組みを紹介します。



1. じつは就労支援・豚肉加工・レストラン・オフィスの集合体


 恋する豚研究所(以下、「恋豚」と記載)は東京都内からクルマで1時間半、成田空港の少し先までドライブすると、大きな赤い屋根とキャットウォークが見えてきます。

建築設計事務所のアトリエ・ワンが設計した素敵な建物|筆者撮影(2024年7月)


 「福祉を売りにも言い訳にもしない」(インタビュー記事)という飯田さんの言葉通り、一見すると郊外にある Farm to Table のレストラン。筆者の訪問時の第一印象は、以前紹介した Blue Hill at Stone Burns と同じ空気を感じる!でした。


 しかし建物に近づくと、ただのレストランではないことに気が付きます。

 じつは恋豚は、新たな障害者雇用創出の拠点として立ち上げられた、就労支援施設・豚肉加工場・レストラン・オフィスの4つの機能を兼ね備えた、4つの寄棟屋根からなる集合体なのです。

 まず1Fで目に入るのが、大きなガラス張りで作業工程が見学できる食肉加工場です。

 ここはお年寄りや障がいを持つ人のケアや就労支援を行う社会福祉法人福祉楽団の就労支援A型になっており、ハムやソーセージなどは障がいのある人たちが製造を担当しています。


 ここで加工された商品を高品質なブランドとして販売していくため、株式会社恋する豚研究所も設立し、社会福祉法人と株式会社の法人格を使い分けながら運営されています。


2. しゃぶでーす!で注文が通る、恋する豚のしゃぶしゃぶ定食


 そんな恋豚の2Fは、ゆっくりくつろげるフリースペースと2つのレストランになっています。

 レストランでは1Fの加工場でスライスした豚肉を使ったしゃぶしゃぶ定食や、ミンチにした豚肉を使ったスチームハンバーグ定食を楽しめる空間が広がります。

看板やメニューには生産者の紹介があり、野菜や商品の購入も可能|筆者撮影(2024年7月)


 筆者がいただいたのは、看板商品の恋する豚のしゃぶしゃぶ定食。

 しゃぶでーす!という、分かりやすいオーダーがキッチンに通ると、地元の農家が育てたたっぷりのほうれん草とともに、おいしそうな豚のスライスが登場。

この日の野菜は、たっぷりのほうれん草・水菜・茄子の三種類|筆者撮影(2024年7月)
おいしそうな豚肉は1人前でも満足できるポーション|筆者撮影(2024年7月)


 豚肉は赤身のおいしさと脂身の旨みがちょうどよく、同じグループで育てている豚の品質がうまく伝わるように提供されています。またほとんどの料理はお客さんが調理をするため、キッチンのオペレーションも簡単になるように工夫されていました。

新鮮なほうれん草をさっとしゃぶった豚肉で巻いていただきました|筆者撮影(2024年7月)


 どこにも福祉を掲げていない恋豚ですが、食事を楽しんでいるとレストランも就労支援の場であることに気が付きます。

 障がいのあるスタッフが一緒に働いていて、料理の配膳をしたり、お水を足してくれたり。はたまた窓際にぐるりと回るキャットウォークでは、こだわりのスタイルで掃除をしていたり。

 障がいのある人の働く場をつくり、最低賃金を超える給与を払い、働くことを通してアイデンティティを生む恋豚のレストランは、筆者が訪問した平日もほぼ満席。

 「やさしい」や「あたたかい」などの形容詞で福祉を語らず、ロジックと仕組みでマネジメントすることの大事さを授業で教えてくれた飯田さんのノウハウが、恋豚のレストランや物販でもしっかり活かされているように感じました。

ハムやソーセージのほか、オリジナルのぽん酢も購入可能|筆者撮影(2024年7月)
詰め合わせボックスや、オリジナルグッズも並んでいました|筆者撮影(2024年7月)


3. 静かに語りかけるコンセプトムービーと、その伝え方も素敵


 さて食事を終えると、気になる部屋が。

 恋豚で提供されている豚肉や、恋豚そのもののコンセプトを紹介する、5分間の映像を視聴できる部屋が用意されています。

コンセプトムービーを流している部屋番号は29|筆者撮影(2024年7月)


 コンセプトムービーにナレーションはないのですが、なぜ取り組んでいるのか、どのように取り組んでいるのか、そして何を提供しているのかが、静かに伝わってくる素敵な仕上がり。

 私たちは何を食べているのか、豚を育てて食べるというリアルな側面も含め、詩的な表現でありながら、形容詞で隠しすぎない表現が秀逸。恋豚のことがもっと好きになりました。




 筆者が代表を務める株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。

 最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy(仮)」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。
 なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版で提供しています(書籍は完売しました)。

 また本事例集に関する講演や寄稿のご依頼にも対応しています。これまでの実績はホームページに記載していますので、あわせてご覧ください。

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